第5回は、英語の方言(ダイアレクトdialect)について。大きく分けると、地域方言(リージョナル・ダイアレクト)と、社会方言(ソーシャル・ダイアレクト)の二種類がある。
参考文献:長谷川瑞穂著『はじめての英語学』
地域方言
地域による言葉の変種。ちなみに方言とよく似た言葉になまりがあるが、方言が文法や語彙の違いを指すのに対して、なまりは発音の違いを指す。
①スコットランドの方言
notの代わりにnoやnaeを使う。
He’s no coming.
I cannae go.
②イングランド北部・南西部の方言
thou thee thineのような古い二人称単数が使われる。
③be動詞の平準化
I is(イングランド北東部)
You am(ウェスト・ミッドランズ)
社会方言
社会方言は話者の社会階級や職業、年齢による変種を言う。
社会方言には発音、語彙、文法に違いがあるが、特に発音において顕著である。1966年にラボフがニューヨークのランクの異なるデパート(イトーヨーカドー~伊勢丹みたいな)で調査したところ、rをちゃんと発音している人の割合は高級店の方が高く、発音における階級差がはっきりと現れた。
ちなみにイギリスでは、ロンドンの下町で話されるコクニー(Cockney)が有名で、「day」を「ダイ」と呼んだり、韻を踏んだ表現を多用したりする。
ピジン(pidgin)
共通の言語を持たない人同士がコミュニケーションのために作り出す、どちらの言語とも異なる新たな言語体系のこと。ピジンは語彙も乏しく、文法構造は単純化され、使用される範囲も限られるが、なんらかの原因によってピジンの語彙や表現が充実し、日常的に広い範囲で使われる(第一言語で使われる)とクリオール(creole)と呼ばれるようになる。
ほとんどのピジンやクリオールはヨーロッパの言語に基づいており、大きく17~18世紀の奴隷貿易による大西洋グループ(アフリカ人がカリブ海へ移ったカリブ海クリオール語など)と、19世紀に募集による農園労働者で発達した太平洋グループ(ハワイピジンなど)に分けられる。
アメリカ英語
方言を超えた一大勢力である。
特徴
①イギリスのいくつもの方言話者が入植したため、その影響を受ける。
②スペイン語などアメリカ大陸に共存した言語の影響を受ける。先住民との接触も。
③世界中からの移民の文化や言語の影響を受ける。
④南部を発祥の地としてアフリカ系アメリカ人の英語(AAVE)が変種として生まれる。
イギリス英語との違い
①母音の後のrを発音する。
②askなどの母音をæsk(アェスク)と発音する。
③現在完了形(have+過去分詞形)よりもjust+過去形を使う。I just moved.
④andやtoを用いない。Come take a look. Go see him.
AAVE
アフロ・アメリカン・ヴァーナキュラー・イングリッシュ。
1960年代以前は「黒人英語」と呼ばれ、いい加減で欠陥のある劣った言語だと差別されていたが、ラボフという学者がレヴィ=ストロース的に研究すると明確な規則性があり白人の下層階級の英語と近いことが分かった。
悲しきハーレム。
AAVEの発音上の特徴
①無声子音がダブる場合は、あとの無声子音は読まない。
books(ブックス)→(ブック)
②有声子音がダブる場合は、あとの有声子音は読まない。
band(ボンド)→(ボン)
③母音の後や母音にはさまれたrは読まない。
your(ユアー)→(ユー)
interest(インタレスト)→(インタイスト)
④最後のtやdは読まない。
find(ファインド)→(ファイン)
liked(ライクド)→(ライク)
⑤母音の後のlは読まない。
myself(マイセルフ)→(マイセフ)
⑥最初のθはtに、最初のðはdとして発音される。
thing(スィング)→(ティング)
this(ズィス)→(ディス)
⑦語尾のθはfと発音される。
tenth(tenθ)→(tenf)
AAVEの文法上の特徴
①be動詞が省略されがち。
He is good at swimming.→He good at swimming.
Mary is loved by everybody.→Mary loved by everybody.
②習慣や未来を表すbe動詞は人称によって変化せず、beまたはbeesが使われる。
John is always quick in answering the question.→John be always quick in answering the question.
Tom is often late for school.→Tom bees often late for school.
※ネイティブの先生曰く、現在ではアフロアメリカンの人もこの表現はほとんど使わないらしい。
③三人称単数現在形のsや複数形のs、所有格のsがしばしば付かない。
Tom goes to bed at ten.→Tom go to bed at ten.
five pens.→five pen.
my uncle’s house.→my uncle house.
④過去形の否定にain’t(エイント)が使われがち。
I ain’t go to school yesterday.
She ain’t got no money.
⑤否定に否定を重ねる(多重否定)。
They didn’t give me any money.→They ain’t give me no money.
⑥過去形は現在形でごり押し。
I went shopping yesterday.→I go shopping yesterday.
⑦完了形はhaveではなくbeenやdoneで代用する。
Tom been finished the work.
Tom done finished the work.
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