立派な中年になりました。(33)祝え!(´;ω;`)
大学近くのネットカフェが潰れたから、なかなか記事をアップできなかったんだけど、先月末に最後のスクーリングであるケミカル実験に行ってきたのです。
案の定、神様のような教授でした。この先生は昨年の面接試験での面接官で、その時からお世話になっていたんですが、面接時すごい意気投合して、地学実験の時に通りがかった時もお互い顔を覚えていたという。
な~んで私みたいなカスを気に入ってくださったのかなってずっと思ってたんだけど、実はこの先生、専門は生化学なんだけど、なにかの機会で造形教育にも携わっていたことがあって、科学と美術のコラボにもともと興味があったそう。おかげさまで高倍率の試験を通して頂いたと。初めて美術の肩書き役に立ったな。
んで最後の授業の時に、「理科教育について大学院で勉強したい」って言ったら、専門家を紹介してくれると快くおっしゃてくださったんだけど、欲を言えばこの先生の下で学びたかったよ(先生は院を担当してない)。やはり渡米してハイイログマを研究するしかねえな。
先生のポリシー
レポートをまとめるための実験や観察は本末転倒なのでレポートの提出を義務化はしない。
①何か感じて、②発想を展開させ、③行動をする。そしてその行動によってまた何かを感じるというフィードバックを、先生は発想スパイラルと名づけている。ぱっとみPCDAサイクルに似ているが、こちらはプランをあらかじめ立てているので、発想スパイラルとは似て非なるものであろう。
オレ達ノープラン。
空気の重さ調べ
宮本武蔵の師匠として知られる沢庵和尚は、ちびっこのおもちゃである空気でっぽうの仕組みに興味を持ち、目に見えない何かが紙玉を押し出していると、ボイルに先駆けすでに見抜いていた。徳川家光あたりの頃の話である。
この時代ヨーロッパでは科学革命が起き、太陽の見過ぎで目をやられた天文学者ガリレオもまた沢庵和尚と同じく空気を探求の対象にしていた。
たくあん法
さて、沢庵和尚といえば、漬物のたくあんだが、3800円くらいで漬物を作るために容器内の空気を抜く調理器具が売っている。そこで、完全な真空までとはいかないが、この漬物容器を使って空気1リットルの重さを量ってみる。
空気を抜く前の容器の重さをてんびんで量り、空気を抜いてからの重さと比較して算出する。
実験に使った漬け物容器の容積は1800mL、空気を抜く前の重さは408g、抜いたあとの重さは406gなので、2gの減少。これを1リットル当たりに換算するとだいたい1.1g/Lとなる。
ガリレオ法
ガリレオ・ガリレイが実際に行なった実験。スプレー缶(ガリレオはガラス容器)に空気入れで空気を入れてその重量を量ったあとに、その空気の一部を水を貯めたタライにつけたメスシリンダーの中に入れて、メスシリンダーに入れた空気の体積を量り、スプレー缶の重さがどれだけ減ったかを調べる。
実験では500mLをメスシリンダーにうつしスプレー缶の重量を調べた。3回量ってその平均を出すと1.13g/Lとなり、たくあん法とだいたい一致した。
ちなみに理科年表による公式数値は1.29g/L、ガリレオが出した数値は2.5g/Lで、現代のカインズホームでアイテムを揃えれば17世紀の天才より正確な値を出すことができることが分かる。
理論的には、空気の8割が窒素、残りを酸素として大雑把に計算すると、22.4リットルで窒素が28g、酸素が32gなので、窒素は28×0.8=22.4、酸素は32×0.2=6.4、合計28.8。
これを22.4で割れば1リットル分の重さが出るので1.285g/Lで、実験なしでさらにオフィシャルに近い値が出せる。高校化学すごい。
水の表面張力
コップに水を溢れるギリギリまで注ぎ、そこに透明プラスチックの薄い板でカバーをして、コップをひっくり返すと、あら不思議、コップの水はこぼれない。
これは、重力に打ち勝つほどの大気圧と水の表面張力(水分子同士を引き寄せて表面積をできるだけ小さくしようとする力)が働いているからである。
さらにそこに吸盤とフックを付けフックにおもりを引っ掛けると、おもりをコップが引っ張り上げてしまう。実験によっては一般的な大きさのコップで6kgものおもりを持ち上げるという。
コップの口の表面積、容器の柔らかさなど、様々なファクターが水にかかる重力を凌ぎさえすれば、水はこぼれないが、ちょっとでもコップとカバーのあいだに隙間ができるとザッツオールになる。
洗剤の臨界ミセル濃度
専門的にはCMC(クリティカル・ミセル・コンセントレーション)というらしい。
界面活性剤のボールであるミセルができ、洗剤(界面活性剤)の洗浄力が飛躍的に上がる(表面張力が激減する)濃度を言う。つまり単純な比例の直線ではない。
じゃあ、その濃度はどのへんじゃということでキュキュットさんを10倍、100倍、1000倍、10000倍に希釈し、水の表面張力が洗剤の濃さによってどれだけ変化するか、安全ピペッターでそれぞれ1.8mLずつ測りとり、一滴ずつ滴下させるという腱鞘炎必至の地獄の実験を行なった。
すると
×10では120滴、×100では119滴、×1000では99滴、×10000では46滴となり、たった1000倍から水の表面張力は激減することがわかった。
つまり、洗剤は相当ケチれることになる。実際キュキュットのパッケージには「水1Lに0.75mLでお使いください」と書いてあり、一個買えば350リットルくらい使える。いいのか花王!
ムラサキキャベツと酸・アルカリ
酸アルカリといった溶液の性質を調べることができる伝説のベジタブル。青いバラのように美しい。冷凍した葉っぱを200mLの水にひたすと試薬がもう出来上がり。
この試薬を2、3滴、パスツールピペットで8本の試験管に滴下する。
右から、水、4%塩酸、4%水酸化ナトリウム、飽和炭酸水(重曹)、レモン、卵白、カタバミ、そのまま。
写真はカタバミを試験管に入れる前だが、カタバミは弱酸性でムラサキキャベツ溶液はピンクっぽくなった。
ムラサキキャベツゼリー
デザートとして美味しいかは謎だが、ムラサキキャベツ溶液20mLと寒天をビーカーに入れて、コンロで加熱し、その後、飽和食塩水を加えて放置、冷蔵するとできる。
このゼリーにシャーペンの芯を2本つき差し、これを電極にして電気を流すと、ゼリーの色が変わってちょっと楽しい・・・がわりとくさい。
これはゼリーに混ぜた食塩水が電気分解され、陽極には塩素ガス、陰極には水素ガスと苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)が引っ張られるため。水に溶けた塩素は酸性なので陽極はピンクに、陰極はアルカリ性の水酸化ナトリウムによってグリーンになる。
・・・ってちょっと待ってくれ、陽イオンのナトリウムイオンが陰極に引っ張られるのはわかるが、水酸化物イオン、キサマは陰イオンだろというツッコミがあるが、これはあくまでも電極周辺の水酸化物イオンがナトリウムイオンと結びついていると考える。
実際ソーダを工業的につくる場合はイオン交換膜という“しきい”を作って水酸化物イオンが陽極に行かないようにしている。
ちなみに水酸化ナトリウム水溶液の原液は劇物で薬品庫で厳重に管理しなければならない。
また、こんな市販のキットもある。てってれ~マイクロ実験セット~(大山のぶ代の声で)
これは21世紀に開発された、実験の準備や片付けを手っ取り早くするために作られた小さなパレットのような学習教材なんだ。
・・・って実はこれ、うちの大学の化学の教授が10年以上前に考案していて、いつの間にか商品の形にまで実現していたという。ちょっと感動したが、価格はなんと14500円!高え!!
ちなみに、このセット・・・ウズラの卵のパック(100枚で1000円)で代用できるらしい。
セット内容は、シュウ酸塩(酸性代表)、フタル酸塩(弱酸性代表)、中性リン酸塩(中性代表)、ほう酸塩(弱アルカリ性代表)、炭酸塩(アルカリ性代表)となっております。
写真のA列の試薬はムラサキキャベツ、B列はBTB溶液、C列はマローブルー。マローブルーは長期間放置するとメロンソーダみたいな色になる。
水に対する溶解性
いろいろなものを水で溶かしてみる実験。
グルコース、ガラクトース、キシロース、スクロース、ラクトース、塩化ナトリウム、塩化アンモニウムをそれぞれ0.5g量って、水2mLと混ぜる。
ラクトースはなかなか溶けてくれないが、電動の試験管バイブレーターを使うと、ウルトラリング的な感じで溶ける。
ちなみに、徳島県や香川県には和三盆糖というトラディショナルなシュガー(竹糖で作る)があり、これはカキの殻の灰という“不純物”をあえて加えることで、時間がかかる糖の再結晶を促しているという。
さらに、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノールも2mL量って水2mLに混ぜると、1-ブタノールだけは溶解度が9なので水面に水飽和ブタノールが出来るだけで、溶けてくれない。
ちなみに「1-」というのはOH基が右から数えて何番目のCにくっついているかを表す。
C-C-C-C-OH
で1-ブタノール。
で2-ブタノール。
では、Cがヨコ3列になるためブタノールではなく、2-メチル-2-プロパノールとなる。
ちなみに最近ではt-ブチルアルコールと呼ぶことが多いらしく、こいつは溶解度がインフィニットであり、溶解度曲線は引けない。
塩化アンモニウムの再結晶
水50mLに塩化アンモニウム25gを混ぜて溶かすと、吸熱反応を起こしビーカーの温度がキンキンに冷える。
これを今度はインキュベーター(恒温槽)に入れて、温度を70~80℃まで上げる。
その後、冷えた水が入ったメスシリンダーに注ぐと、メスシリンダーの温度がカイロ的に上がりながらどんどん雪のような結晶が降ってくる。これを結晶化熱という。
ちなみに、塩化アンモニウムの結晶はスノードームのようにカワイイが、窒素分が多いため別に集めて破棄しなければならない。
食塩水から食塩を取り出す
海水を沸騰させて塩を作るのがトラディショナルかつ一般的だが、今回はそういうベタな方法ではなく、エタノールなどのアルコールを使って海水の水を脱水し食塩を取り出してみる。
5mLのエタノールと、1-プロパノールをそれぞれ入れた試験管に飽和食塩水を滴下すると、すぐに試験官が白く濁り塩の結晶をゲットできる・・・が、これって口に入れても大丈夫なのだろうか。
ちなみにこれはブラジルかどっかの岩塩。テトリスに匹敵する四角さである。
さて、食塩は海水から採取するもんだと海洋国家ジャパンは考えがちだが、世界に目を移すと世界のソルトの3分の2は岩塩らしい。特にオーストラリアとメキシコに岩塩が豊富で天気もいいので天日塩が生産できる。
日本の塩の歴史
先生が大変熱く語ってくれました。
実は食塩というのは商標だった…!衝撃の事実!食塩は塩化ナトリウムが99%以上のものだけが与えられる称号で、伝統的塩作りをモットーとするHA・KA・TA・NO・SHI・O!は塩化ナトリウムは95%である。
ちなみに日本の製塩法は古い順に以下のとおり。
①藻塩焼き
古墳時代以前から行っていた製法。海草についた塩を取る。
②揚げ浜式塩田
平安時代から江戸時代に行っていた製法。
海岸よりも高い位置に塩田(表面は粘土)を作り、そこに海水を撒いて日光や風で蒸発させる。こうしてできた塩分がたくさん付いた砂を沼井(ぬい)という囲いに入れて、さらに海水をかけて、塩分濃度の高い海水をを煮詰める。
③入浜式塩田
江戸時代の瀬戸内地方で普及。潮の満ち引きと毛細管現象を利用したタイプ。人力で海水を塩田に持ってくる必要がない。沼井を使うのは一緒。
④流下式塩田
Since昭和28年。入浜式がパワーアップ。竹で枝条架(しじょうか)を組み立て、その上から濃縮された海水を垂らす。HA・KA・TA・NO・SHI・O!はこの製法にこだわってソルトを生産していたが1971年に塩田による塩作りが禁止され(塩専売法)ほとんどの枝条架が取り壊されてしまった。
⑤イオン交換膜製塩法
Since昭和47年。もともとは海水から飲み水を作る技術だが、その副産物でソルトができることが着目され、天気に左右されない、少人数で作れる、汚染物が混入しない、などのメリットから政府公認の唯一の製塩法と認定された。
・・・が、工業的過程で作られたソルトはぶっちゃけあまり美味しくなく、平成9年、トラディショナルな製法も再び解禁。
HA・KA・TA・NO・SHI・O!も唯一取り壊しをまぬがれた枝条架で現在も塩を作っている。
しば漬けと乳酸発酵
好奇心の塊である先生が京都のしば漬け工房に直接尋ねたところによると、しば漬けはシソとナスとそして食塩で作られる。これを乳酸菌に発酵させることで酸性化、青いナスが赤くなる。ポイントは食塩の量で、これが少ないとナスが酸性化せずに、中性~弱アルカリ性で活躍する乳酸菌以外のバクテリアがナスを腐らせてしまう。
ちなみに、パンやワインを作ってくれる酵母菌(イースト菌)という奴がいるが、あれってパンのやつもワインのやつも学名は同じで、サッカロマイセス・セレヴィシアエらしい。種小名まで一緒だけど働きは違うという。
固定化生体触媒
パン酵母を化学反応で丸く固定化する。人工イクラもこんな感じで作っている。
フラスコに5%酵母液と2%のアルギン酸ナトリウム溶液25mLを入れてマグネティックスターラーで攪拌、こうしてできた溶液をこまごめピペットを使って、5%塩化カルシウム溶液が200mL入ったビーカーに滴下すると、アルギン酸ナトリウムに膜ができ、イクラの形をしたパン酵母を作ることができる。
こうしてできた酵母カプセルを、各種糖が入った試験管に入れると、グルコースやスクロースの試験管では酵母が出した二酸化炭素によってカプセルが浮き上がる。つまりパン酵母はこれらの糖を好んで発酵していることがわかる。逆にラクトースやガラクトースはあまり好きじゃないっぽい。
ちなみにどどっとつぶぴょんという、ねるねるねるね的なお菓子があるが、これもクチナシとアルギン酸ナトリウムを乳酸カルシウム溶液に滴下して作る、固定化生体触媒(つぶつぶゼリー)である。味はほぼねるねるねるね。
て~れってれ~♪
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