参考文献:全国大学書道学会編『書の古典と理論』
漢字の成立と書体の変化
字が恐ろしく下手な私には異世界の単位。文字が綺麗ってだけで、なんか育ちが良さそうに見えるもんな。前にも書いたかもしれなけど、個人的には筆圧が強い人は、筋肉や神経でちゃんと腕の動きを制御していて、上手な字が書けるイメージがある。
私なんて非力だから、ボーリングのように腕を持ってかれて、たいていの横棒は勢いを失って下にさがっていく。筆跡鑑定が宇宙一容易な男だという自負があります。
新石器時代(紀元前1万年~)
新石器時代に広く用いられた陶製の容器には、符号や略号、図象の類が描かれていた。これは陶文または刻画符号と呼ばれる。
殷~周時代(紀元前17世紀~紀元前3世紀)
現在最も古いとされる漢字は殷(商)時代の甲骨文である。
甲骨文とは、亀の甲羅や獣の骨などに刻まれた文字で、鋭利な小刀で刻むことから契文とも言い、また文章の内容がト占(相手に何かを選ばせて占うタイプの占い。タロットやおみくじなど)に関することから卜辞(ぼくじ)とも言う。
甲骨文の発見は、19世紀末に王懿栄(おういえい)と劉鶚(りゅうがく)が薬局から買った龍骨に符号らしきものを見つけたことによる。現在では相当数の文字が解読され、当時すでに厳密な文字体系を備えていたことがわかる。
甲骨文字の線は単調な直線で、文字というよりは記号や絵に近い様相のものが多い。
殷・周は青銅器の時代である。
青銅器でできた釣鐘状の楽器(鐘しょう)や食器の(鼎てい)に施された文字は金文(鐘鼎文字)と呼ばれる。
殷中期の遺跡から出土された青銅器からすでに銘文(金属や石に刻まれた文章のこと)と思しきものが現れている。これらの文字は、溶けた金属を鋳型に流し込み、鋳込まれて制作された。
周の時代になると、祭祀に使われた青銅器が王の権威を示すものに変わり、文字の書風は整って装飾性と多様性が強くなった。
書写材料は、甲骨、金属だけではなく、石、玉、竹木など様々なものが用いられた。また、殷の時代で、すでに筆が使用されていたことが分かっている。
書体は、縦に長く書かれ、文字の大きさにも変化がつけられるようになった。
また、細く単調で直線的だった線も、太さに変化がつき、曲線を多用している。しかし、甲骨文字同様、線の先が尖っているものが多い。
春秋時代~戦国時代(紀元前8世紀~紀元前3世紀)
戦国時代になると金文にあった象形文字のテイストは薄れ、左右相称の整った字形となった。篆字体の原型とされる。
書体は多様化し、複雑な書体の籀文(ちゅうぶん)と、簡略化された書体の古文との差別化も進んだ。
秦~漢時代(紀元前8世紀~3世紀)
周の封建制度に対し、秦は中央集権体制を樹立し、その一環として文字の統一が試みられた。これにより文書行政が施行され、小篆が公式書体として用いられるようになった。
小篆は、線が水平・垂直で、等分割の荘厳な趣が特徴である。文字は左右対称でやや縦長、線の太さは均一であった。
日常の記録には、篆書が簡略化され実用的なものになった隷書(秦隷)が用いられた。これを隷変という。
その特徴は、カーブを尖らせる、曲線を直線に変える、線を連続させる、筆画を短くしたり省いたりする、よく似た複雑な形をひとつの符号で代表させまとめる、などである。
こういった簡略化は当時の文書行政の広がりと無縁ではなかった。
前漢時代になると、毛筆が発達し、これに適した隷書は、次第に準公用体として認められるようになり、他の書体を駆逐するまでに広まった。
楷書・行書や草書は、すべてこの隷書が発展したものであると考えられている。
この時代の隷書には、横線や右払いの終わりにつける三角形のうろこである波磔(はたく)が芽生え、線の抑揚と筆の穂先の意図的な開閉が見られる。
後漢時代になると横に潰れた字体、上下左右等間隔の字の並びなどが特徴である漢隷(八分)が確立した。
小篆は印鑑という特殊な用途にのみ使われるようになった(篆刻)。
三国~西晋時代(3~4世紀)
後漢が滅亡すると、魏・呉・蜀の三つの国が天下を三分した。
この時代の特徴は、曹操によって立碑が禁止されたことで墓に納める墓誌が制作されるようになったこと、楷書(隷書)が定式化したこと、字を巧みに書く芸術である能書が出現したことなどが挙げられる。
北魏の楷書の名品とされる『張猛龍碑』では、字体が左下がり(右上がり)で、不等分割、点描の疎密に工夫が見られる。線は強靭で絶妙な均衡美が表現されている。
東晋時代(4~5世紀)
五胡の乱によって西晋が滅ぼされ、不安定な政治情勢の中、竹林の七賢(道教的な思想のもとに儒教的倫理の束縛を嫌い自由気ままに生きた賢者のこと)を理想とする貴族文化が花開いた。
能書家の王羲之(おうぎし)は、より洗練された芸術性の高い書を残し、後世書聖と称えられた。しかし、王羲之本人の書はひとつも現存せず、残っているのは全て臨書である。
王羲之の『喪乱帖』は筆運びのリズムが心地よく、字によって線の太さを変えメリハリをつけている。左右への振れ幅も大きく、字の上部と下部における重心の移動など、躍動的である。
王羲之の子の王献之(おうけんし)も能書として知られ、父と共に書の二王とされた。
南北朝時代(5~6世紀)
南朝では、豊かな経済力を背景に文学や芸術論が盛んになっただけでなく、仏教も栄えた。
北朝では、北魏の孝文帝が南朝文化の摂取に努めたが、とりわけ仏教関係の石窟造営が盛んに行われた。代表的な龍門石窟に記された『造像記』は方筆を主とする龍門様式の筆法である。
隋~唐時代(6~10世紀)
隋時代の書は、南北朝から唐への過渡期に当たるものと言われている。
三過折(起筆→送筆→収筆の3段階で線を引くこと)を備えた方正な字形である楷書はかなり洗練され、唐を待たずすでに完成期に近づいていた。王羲之七代目の子孫である智永は、中学校の美術のレタリングの授業で習う永字八法の創始者である。
隋の禅譲を受けて、統一王朝の唐ができると、大宗が宮中に弘文館を設立し文武官に書を学ばせた。大宗は王羲之の書を愛好し、また自身も書をたしなみ、行書の『晋祠銘』や『温泉銘』を残している。
草書(行書をさらに崩した筆記体のような字体。形を覚えないともはや読めない)では、則天武后が書いた『昇仙太子碑』などがある。
中唐の玄宗の治世には最も文化が爛熟し、文学では李白、杜甫が出た。
書では、張旭(ちょうきょく)、懐素(かいそ)が登場し、自由奔放な草書(狂草)が書かれた。
楷書は形骸化した。
宋~元時代(10~14世紀)
形骸化した唐代の書に対して、宋代では個人の精神性を尊重した。
蘇軾(そしょく)、黄庭堅(こうていけん)、米芾(べいふつ)、蔡襄(さいじょう)は宋の四大家と呼ばれる。
元時代になると趙孟頫(ちょうもうふ)が王羲之をリスペクトし、鮮于枢(せんうすう)とともに併称され、後半にはトルコ系の康里巙巙(こうりきき)が登場し、章草(隷書と草書のちょうど間の字体)を得意とした。
明~清時代(14~20世紀)
製墨技術が最高潮に達した時代。
明末期の書家は、連綿(つなげ字)を多用した行書体を追求し、特に長条幅(長い掛け軸状の半紙に書く)という新しい表現形式を生んだ。
清代前期は、名跡の模本や法帖を学ぶ帖学派の時代とされている。
清代末期は、趙之謙(ちょうしけん)や呉昌碩(ごしょうせき)のように、詩、書、画、篆刻をよくして独自の境地を築いた文人が輩出し、日本にも影響を与えている。
また1880年に来日した楊守敬(ようしゅけい)は北碑の書法を伝え、これにより日本の近代書道が始まった。
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