テス勉コーナー。というか、もう明日と明後日なんだけど・・・
最近築造された某宗教団体の礼拝堂を写真に納め、絵はがきとして売り出すことの可否について、次の(1)~(3)の問題点に沿って論じなさい。
(1) この礼拝堂の著作物性について
著作権の保護対象が著作物である。
著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものをいう。(著作権法第2条1項1号)
この考え方(著作物の概念)は、1886年にフランスの作家ヴィクトル・ユーゴーが呼びかけたベルヌ条約によって生まれた。
作者が登録や申請といった手続きをせず、作品を作れば自動的に著作権が発生するという考え方(無方式主義)や、海外の作家の著作権も国内の作家と同様の基準で認める(ただし有効期限についてはその海外作家の国のルールに準じる)という内国民待遇は、このベルヌ条約に由来している。
ちなみに1989年までアメリカはベルヌ条約に加盟していなかったため、著作者は著作権を申請しないと自分の著作物がパクられ放題だった(方式主義)。(『知的財産法入門』266ページ)
だが、著作権法第13条では、著作物であっても憲法や条例、裁判所の判決文といった、国や地方が作成するものについては、その性質上国民に広く開放して利用されるべきものだと考えられるため、著作権の保護対象にはならない。
とはいえ今回の案件は宗教団体であり、公共性は高いもののあくまでも民間の法人である。
また、礼拝堂はその宗教の「思想または感情を創作的に表現し」ているが、建築物であり、著作権法2条の“美術”に該当するかが要点となる。
建築物は、絵画・彫刻といった純粋な芸術作品と比べて、安全性、環境衛生、敷地、景観、構造といったさまざまな制限が多く、デザインが収斂することが多い。
したがって建築物に著作権を容易に与えてしまうと、似たような建物が作れなくなるため、東京スカイツリーや国立西洋美術館といった、観光スポットや芸術性の高い建築物においてのみ、建物が著作物として認められているのである(つまり、一般的な住居やビルディングは著作物とは認められない)。
ちなみに著作権の有効期間は、著作者の死後50年、また礼拝堂の著作権を宗教団体が持っていた場合は公表後50年となる(映画は公開後70年)。(『知的財産法入門』3ページ)
しかし、所有権については、その所有物(実態があるものに限る)が存在する限り、有効期限はない。(民法206条所有権の恒久性)
以上をまとめると、この礼拝堂が著作物であるかどうかは
・その礼拝堂のデザインにどこまでオリジナリティや芸術性があるか
・その礼拝堂が経ってからどれくらいの年数が経っているか
がポイントになると思われる。
問題では最近建造されたとされているので、デザインが独創的でさえあれば著作物として認められるであろう。ただし、建築物が著作物と認められるケースはかなり稀だという。
(2) この礼拝堂が建築の著作物とされる場合、これを写真に撮ることは、複製権侵害として禁止されるか
著作権法第46条では、
美術の著作物で……屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず利用することができる。
とされており、いくつかの例外を除けば、礼拝堂が著作物として認められても写真撮影することは禁じられていない。
ただし、著作物に当たらない建築物においても、写真を撮ることによってその建築物の住人や社員のプライバシーを侵害することは許されない。
また、建築物や敷地の所有者や管理者が、関係者以外の立ち入りや敷地内での写真撮影を禁じた場合も同様である。しかし、管理者が敷地外からの撮影までを禁じることは認められていない。
つまり、礼拝堂の所有者である宗教団体が、敷地内での写真撮影を禁じていなければ写真は撮影できるし、敷地外(例えば公道から)であればプライバシーを侵害しない限り、原則自由に写真は撮影できる。
(3) この礼拝堂の写真がすばらしい出来ばえだったので、増刷して販売することに問題はあるか
著作権法第46条における例外(著作物に対して外部の人間による利用が認められない場合)には
一 彫刻を増製し、又はその造成物の譲渡により公衆に提供する場合
二 建築の著作物を建築の方法により複製し,又はその複製物の譲渡により公衆に提供する行為
三 前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合
四 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合
の4つが挙げられている。
礼拝堂の写真を量産して販売するのは、この中の四に当たるため、その礼拝堂の所有者である宗教団体に許可を取る必要がある。
また、著作権法第48条1項3号に従えば、写真のどこかにコピーライトのcマークで宗教団体の名前を入れる必要がある。
さらに、今回のケースとは異なるが、ほかのカメラマンが撮った写真の場合、礼拝堂の写真はそのカメラマンの著作物となるため、写真を商業利用する際は撮影者の許可もいる。
ちなみにパブリシティ権(その人のカリスマ性=顧客吸引力についての権利)は、人物には認められるが建築物には認められない。
よって、著作権が切れた京都の寺社仏閣などについては、その写真での商業利用(広告に使うなど)は可能であるという(ただし、合法的に撮影された写真に限る)。
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