著者は千葉大学名誉教授の新藤宗幸さん。
2022年度から高校の公民には「現代社会」に代わって「公共」という必修科目ができて、この科目が高校の道徳教育の中核になると捉えられているんですが、その目玉が主権者教育なんだ。
で、今回ちょっと勉強不足だったなって思ったので、改めて文科省のサイトとか読んでみたんだけど、お役所の文章って、まず長いし、しかも読んでてハッキリしろよこのやろー!みたいなストレスもあり、解説本に逃げた次第です。
さて、オルテガの『大衆の反逆』の記事でも書いたんだけど、私は正直、政治的な話題って面白いっちゃ面白いんだけど、けっこうセンシティブというか、あまりに真剣にのめり込んじゃう人が相手だとファナティックでちょっと怖くて、まあ、会話する相手によるよなあってスタンス。
シールズとかも、どっちかというとシンパシーは大して感じないし(著者の進藤さんはシールズを応援しているタイプで、そこは政治的ニヒルな私とはちょっと違うところ)、市民運動的なこともしたことないし。
だから公立学校で一斉に政治参加を呼びかけるって正直どうなんだろうっていうのと、あと、今の政権の動向を踏まえるとさ、お前ら本気で主権者教育なんかやる気ねえだろっていうのが見え見えで、だったら、いっそ安倍さんの100の魅力を高校で教えなさいくらいのことやったほうが面白いんじゃないかなとも思う。
私も12個くらいは安倍さんのいいところ答えられそうだけど、憤りを感じるのはさ、やっぱり森友学園問題なんだよ。
あの籠池さんっていう結構右翼的な教育やってた人いたじゃん。あの人ってすっごい安倍さんのこと好きで、すごい忖度して、お国のために生きなさいみたいな教育を熱心にやってたのにさ、結局安倍さんはかばってくれなかったじゃん。あれは超かわいそうだなあって。
だから、高校の先生がさ、一生懸命政府の意向に沿って右翼教育やってもさ、いきすぎて世論に叩かれたら、絶対政府はかばってくれないぞっていう悲しいジレンマがあるよ。お前が勝手にやったことだろ、みたいな。
安倍さんや自民党のイデオロギーは置いといてさ、もしあそこでさ、安倍さんが国会で、「籠池さんは私の友人です。誰がなんと言おうとも私は彼の味方です!」って言ってくれたらさ、イデオロギーは置いといて、私は安倍さんがかなり好きになったんだけど、あれはガッカリしたよ。
まあ、とどのつまりさ、権力者におもねるような思考停止人間を増やそうとしている気はするんだけど、あまり露骨にやっちゃうと、さすがに愚鈍な国民にもバレちゃうから、一応こういう企画でもやっとくか~ってのが本音なんだろうなっていうのが、この本を読むとよくわかります。著者が主権者教育にかぎかっこをつけた意図は本当によくわかる。
以下は、勉強になったり、同感だなって思うところね。
・選挙権年齢の18歳への引き下げは、他の先進国に習ったというのもあるが、日本国憲法の改正手続における国民投票の投票権年齢が18歳からだったので、これに合わせたという事情もある。(3ページ)
・主権者教育の大きな目標は文科省と総務省による『副読本』によれば
①政治に参加する意義や政治が自らに与える影響などを生徒に理解させること。
②違法な選挙運動をおこなうことがないように選挙制度を理解させること。(5ページ)
・ところが、(略)「主権者教育」と表裏一体で強調されているのは、「教育における政治的中立性」だ。自民党議員の一部からは、「教育における政治的中立性」を逸脱した学習指導をおこなう教員には刑事罰を科すべきとの声が、臆面もなく発せられている。(5ページ)
・「主権者教育」のための教員用『指導資料』は、「一つの結論を出すよりも結論に至るまでの冷静で理性的な議論の過程が重要であることを生徒に理解させることが重要である」と、くりかえしている。だが、二〇一五年通常国会での安全保障法制の審議において憲法上の疑義を問われた安倍晋三首相は、「わたしは首相なのです」と自らの憲法解釈を「絶対視」する発言をかさねた。また政権に都合の悪いことを発言しかねない内閣法制局長官を更迭し、自らの意に沿って忠勤を励むであろう人物を長官に任命した。最高権力者のどこに「冷静で理性的」な議論への態度を見出すことができるのか。(9ページ)
・「不思議」なことに『副読本』には、現代民主制の基本である権力と自由についての記述がまったく見られない。『指導資料』においても、まったく触れられていない。選挙権をもち選挙を通じて法律・予算などの規範をつくり、国家・社会の秩序を維持することが「政治」であるというならば、共産党一党支配の社会主義国はもとより戦前期日本にもあてはまる。(12ページ)
・『副読本』も『指導資料』も政治的教養のゆたかな若者を育てるという。そうであるならば、「国家・社会の形成者」を強調するのではなく、現代民主制において個人は法によって自由を保障されているのであり、権力が個人を抑圧する法律・予算をつくるならば、個人はそれに抵抗する権利を留保していることを教えなくてはなるまい。(14ページ)
・ところが『指導資料』は、「特定の事項を強調しすぎたり、一面的な見解を十分な配慮なく取り上げたりするなど、特定の見方や考え方に偏った取り扱いにより、生徒が主体的に考え、判断することを妨げることのないように留保することが求められる」と、教師に注文を付ける。いったい「偏った取り扱い」とはなにを意味するのだろうか。(20ページ)
・「憲法を守れ」という市民の運動を抑制することは、思想・良心の自由や言論・集会の自由についての抑圧である。「政治的中立」を理由とした市民の活動への介入こそが、まさに「政治的」といわねばならない。(23ページ)
・政治から離れるということによって、教育の政治的中立性が得られるかのように見える(略)現実にはこういう法律が成立することによって、教育者が政治問題に触れることを恐れて、結局教育の中に正しい政治的判断する力が養われないような、そういう無気力な教育になってしまう虞れがある。教育公務員というものは一般公務員と違って政治的な問題について十分な関心を持ち、政治的な問題というものを取り上げる責務がある、これが民主主義の要求である。(27ページ※憲法学者鵜飼信成氏の国会答弁)
・第4章の文科省の答申を読む限り、高校生の政治活動はほとんど自由にできないことがわかる。ポーズなだけだという。
・ところで、「Q&A」は、届出制の導入にあたって届出をした生徒の政治信条を問わないなどの配慮を求めているが、このくらい「つまらぬ」条件付けもないだろう。(53ページ)
・政府見解が教科書に記載されることを否定する必要はない。だが、政府見解と異なる意見の存在や説明がしめされないのならば、政治についての見方は平板となり、思考力を養うことはできない。同じ文科省発行の「主権者教育」の『副読本』が、「中立・公正」に複数の意見を説明せよといっているのと、どこで整合するのか。結局のところ、「中立・公正」な記述や説明とは、政府見解を踏襲することになってしまうだろう。(69~70ページ)
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