イスラム教の概要
イスラム(サラーム):平和の意。
ムスリム:神への服従(をする人)。
コーラン:イスラム教の聖典。ブタとイヌを不浄とする。
ウンマ:イスラム共同体。
ジハード:本来は神の教えを広めようと努力すること。
カリフ:イスラム教の代表者。初代~4代を正統カリフという。
メッカ:イスラム教の聖地。サウジアラビアにある。
六信
①神 ②天使 ③聖典 ④預言者 ⑤来世 ⑥天命
五行
①信仰告白: 「アッラーのほかに神はなく、ムハンマドはその使徒」
②礼拝: 1日5回聖地メッカの方向へ行う。
③喜捨: 財産を貧しい人に分け与える。
④断食:ラマダーン月(9月)には日中の飲食は禁止。
⑤巡礼:一生に一度メッカのカーバ神殿に巡礼をする。
イスラム教は三部作の最終章
イスラム教においては旧約聖書や新約聖書も啓典!
※ただし聖典コーランが絶対不可侵のナンバー1。
アッラー
唯一絶対の超越神でユダヤ教とキリスト教の神と同一のもの。
人間なんぞが偶像を作れるような存在ではない(偶像崇拝禁止)。
①アブラハム
旧約聖書に登場する預言者だがイスラム教では彼が最初のムスリムだとしている。
②イエス
二番目の預言者。キリスト教と違い、彼を神と同一視はしていない。
③ムハンマド
神(アッラー)の言葉を唯一正しく伝えた最大にして最後の預言者。
シーア派とスンニ派
多数派・少数派という違いはあるが、どちらが正統でどちらが異端、どちらが原理主義的でどちらが世俗的だという区別は一切ない。お互いにどちらもイスラム教であると認めている。
決定的な違いは、正統カリフ及び、その後のウマイヤ家のイスラム統治を認めるのがスンニ派で、否定しているのがシーア派。
シーア派(全体の10%)
ムハンマドの後継者を、ムハンマドの血をひく人物(アリーなど)に限定する考え方。血統主義。シーアとは「党」の意。
殉教王子フサインを熱狂的支持し、偶像化して崇拝。
スンニ派に比べて五行などの手順はやや簡素化(礼拝回数が少ないなど)。
スンニ派(全体の90%)
ムハンマドの後継者を、みんなで話し合い、ムハンマドの教え(スンナ)に相応しい人物に決めようとする考え方。実力主義。
コーランを厳格に守るが、国によってはシーア派に比べてやや世俗的。
イスラム史の特徴
①スタート地点はアラブ
その後ペルシャ(イラン)、トルコにも受け入れられる。
②グローバル・ジハード
世界宗教としての完成度が高く、貿易をする商人の宗教であるため、
中東、インド、アフリカ、ヨーロッパへと広まっていく。
当然最大勢力のキリスト教と衝突する。
③帝国の逆襲
以前は、湾岸諸国(サウジアラビア)、トルコ(オスマン帝国)、イラン(ペルシャ帝国)の三つ巴だったが、中東の混乱でアラブの勢力が弱まりトルコVSイランの2大決戦になりつつある。
イスラム史の大まかな流れ
1.ササン朝(226~651年)
2.イスラム教誕生(7世紀初頭)
3.ウマイヤ朝(661~750年):アラブ人至上主義
4.アッバース朝(750~1258年):ムスリムは皆平等
5.セルジューク朝(1038~1194年):十字軍の原因
6.オスマン帝国(1299~1922年):ムスリム以外も公認
※対象エリアがアラブ、イラン、イラク、トルコ、エジプト、イベリア(スペイン)、インドと広いため、同時に複数の王朝が存在するのに注意!
ササン朝ペルシャ(226~651年)
ゾロアスター教を国教とするイランの帝国。
シルクロードの西のエリアを持っていたが、西のビザンツ帝国(東ローマ)と東のクシャーナ朝(インド)を攻めたため、シルクロードは通行止めになってしまう。
商人はアラビア半島を迂回路として使ったため、ムハンマドの故郷の湾岸諸国が発展することに。
ゾロアスター教(拝火教)
紀元前2000年以上前の古代イランの民族宗教を救済宗教に高めたもの。
光の神が闇の神を倒し、世界は大火災による終末をむかえ、人々は最後の審判を経て救済される。
世界最古の宗教とも言われ、ユダヤ教の元ネタにもなった。動物愛護や地球を愛する宗教でもある。
アラビアンナイト
ササン朝の王様を楽しませるための物語。
ディズニーのアラジンや、メダルゲームのアラビアンジュエルなど(え)。
イスラム教誕生(7世紀初頭)
三大宗教(仏教:紀元前5~6世紀~。キリスト教:1世紀~)の中では誕生が最もあと。
ムハンマド
610年頃アッラーから啓示を受け、厳格な一神教であるイスラム教を開く。
ヒジュラ(聖遷)
富の独占を批判したため、メッカの商人に迫害され、622年に少数の信者たちと共に一時的にメディナに逃れたこと。
メッカ占領
630年。一万のムスリム軍を率いてメッカを無血征服。
カーバ神殿の偶像を破壊し、イスラム教の聖殿にした。
その後、ムハンマドが没するまでアラビア半島は緩やかに統一された。
正統カリフ時代(632~661年)
カリスマ指導者あるあるだけど、ムハンマドは後継者を明確に指名しなかっため、ムハンマドが亡くなると信者のあいだでごたごたが起きた。シーア派が生まれるきっかけがこれである。
初代カリフ:アブー=バクル
ムハンマドの部族の長老。※ムハンマドの血は引いていない。
ムハンマドの死後、共同体を離れた離反者を討伐し、ジハードによってイラクやシリア、エジプトを征服。
相次ぐカリフの殺害
カリフの権限が強大になり継承権争いが激化。アリーまでの4人のカリフを正統カリフという。
3代カリフ:ウスマーン
不満分子に殺害される。
4代カリフ:アリー
ムハンマドの従兄弟であり、娘婿。
まぎれもなくムハンマドの血統の人物だが、過激派に暗殺される。
シーア派は彼のみを支持する。
ウマイヤ朝(661~750年)
カリフの後継者争いを収拾したウマイヤ家のシリア提督ムアーウィヤによって開かれた王朝。都はダマスクス。
広大な経済圏が形成されたが、支配階級のアラブ人ムスリムに多くの特権が集まり不公平だった。
そこで、ムハンマドの血をひくものこそがイスラム共同体の指導者にふさわしいと、シーア派の協力を取り付けたアッバース家に滅ぼされる。
ウマイヤ家はイベリア半島(スペイン)に逃げ、後ウマイヤ朝を建設。
アッバース朝(750~1258年)
アブー=アルアッバースが開く。
アラブ人の特権を廃止し、民族間の差別をなくしたためイスラム帝国として繁栄した。
首都のバグダートは人口100万人を擁する国際都市に。
ハールーン=アッラシード
アッバース朝の第5代カリフ。
『アラビアンナイト』にも登場し(※ディズニーのアラジンのジャスミン王女のパパのモデルでもある)、バグダードをつくばのような研究学園都市にした。
同じく学問に熱心なカール大帝とは使節を送りあっている。
彼の時代がアッバース朝は最盛期とされる。大陸ヨーロッパの原型を作ったカール大帝のフランク王国ももちろん偉大な王国だったが、当時のアッバース朝はそれを遥かに凌駕していた。
イスラム帝国の分裂
アッバース朝のカリフの権威はやがて名目的なものとなり
ハールーン=アッラシードの死後はイスラム帝国は分裂してしまう。
サーマーン朝(ペルシャ系):イラン独立
ファーティマ朝(アラブ系):チュニジア→エジプト独立
ブワイフ朝
イラン系シーア派の軍事政権がバグダートに入り、カリフから大アミール(司令官)に任命される。
アッバース朝は存続するが、カリフは宗教的権威を持つだけになる。
セルジューク朝(1038~1194年)
トルコ系のトゥグリル=ベクがイラン人の軍事政権(ブワイフ朝)を倒し、アッバース朝のカリフから史上初のスルタン(スンニ派イスラム国家の世俗君主)の称号を受けて興す。
シリアに侵攻してエルサレムを占領、ビザンツ帝国を圧迫したことで、ローマ教皇ウルバヌス2世に応援を要請、十字軍遠征のきっかけをつくる。
12世紀半ばになると衰退し分裂。
アイユーブ朝(1169~1250年)
エジプトのファーティマ朝(シーア派)は、アッバース朝(スンニ派)に対抗して、独自にカリフを立てるが、宰相のサラディン(※スンニ派!)によって滅ぼされ、アイユーブ朝が開かれる。
クルド人のサラディンはアッバース朝のカリフの権威を承認し、再びイスラム世界の統一を目指した。
その後はマムルーク朝になり、エジプトとシリアを支配する。
サラディン
十字軍から90年ぶりにエルサレムを奪還した稀代の英雄。
第3回十字軍では、あのイギリスのリチャード1世も下す。
敵にも非常に寛大だったため、イスラムはもちろんヨーロッパからも、その武勇は賞賛されている。
アッバース朝滅亡(1258年)
フラグ率いるモンゴル軍がバグダートを陥落。600年余り続いたカリフ制度もいったん消滅する。
イランとイラクを占領し、イル=ハン国を建国。
フラグはイスラム教に改宗したため、異民族のモンゴル人支配のもとでイラン=イスラム文明が花開いた。
ティムール帝国
14世紀半ばに東西に分裂したチャガタイ=ハン国の武将だったティムールが建国。
マムルーク朝からダマスクスを略奪、アンカラの戦いでオスマン軍を破り大帝国を樹立した。
首都はサマルカンドで、王様は遊牧君主だったが積極的に都市建設にかかわった。
ティムール
中国の明も侵略しようとした矢先に病に倒れる。
もとは盗賊の首領で勇猛果敢な人物だった。
サファヴィー朝
ティムール帝国が衰退した16世紀初めに、アゼルバイジャン(トルコとイランの間にある国)出身でサファヴィー教団のイスマイル1世がイランに建国した国家。
シーア派を国教とし、スンナ派のオスマン帝国ムガル帝国と争った。
オスマン帝国(1299~1922年)
トルコ系のオスマン=ベイ(オスマン1世)がトルコのアナトリア半島で興す。
東ヨーロッパのビザンツ帝国、シリアのマムルーク朝を滅ぼし600年も繁栄した。
モーツァルトなどのトルコ行進曲は、この時のトルコ軍の強さから作曲された。
イスラム教徒ではない人にも、ミレットという共同体を作らせ自治と信仰を認め、帝国内のヨーロッパ人には治外法権を保障した。
スレイマン1世
第10代。在位1520~66年。
オスマン帝国最盛期の王で以下の戦果が有名。
第一次ウィーン包囲(1529年)
ハンガリーを支配し、ウィーンを包囲してヨーロッパ諸侯を恐怖に陥れる。
プレヴェザの海戦(1538年)
スペイン・ヴェネチア連合軍を破り地中海を掌握。
バルバロス・オルチ(赤ひげ)
オスマン帝国の海軍を率いてプレヴェザの海戦を勝利に導いた地中海の海賊。
勇猛果敢な人物だったが無益な殺生は好まなかった。
イェニチェリ
オスマン帝国常備軍。
当時は世界最強の軍隊と恐れられた。
バルカン半島の白人キリスト教の少年の中から身体能力が高い者を集めてイスラム教に改宗させ、軍事訓練を施した。
東方問題
巨大になりすぎたオスマン帝国において発生した19世紀の帝国領内の民族独立運動と、ヨーロッパ諸国からの干渉のこと。
エジプト=トルコ戦争(1831~1833年と1839~1840年)
エジプト総督ムハンマド=アリーVSトルコ
第一次はムハンマドの勝利、第二次は敗北。
クリミア戦争(1853~1856年)
×ロシア(ギリシャ正教)VSトルコ○
露土戦争(1877年~1878年)
○ロシア(スラブ民族)VSトルコ×
ナイチンゲール
ロシアを警戒しオスマン帝国を支援した英仏軍の負傷兵の衛生状態を劇的に改善。
クリミア戦争はオスマン軍の勝利で終わる。
トルコ革命(1922年)
トルコ国民党がオスマン帝国を打倒する。
これによりカリフ制度は廃止。世俗化した。
現在はトルコ共和国に。
ムスタファ・ケマル
トルコ共和国初代大統領。トルコをイスラム国家の中でいちはやく近代化、世俗化させた。
新オスマン主義
現在現職のトルコのエルドアン大統領が推し進めている政策。
エルドアン大統領は「トルコの暴君」とも呼ばれ、世界遺産のアヤソフィア教会を博物館からモスクにするなど、世俗化したトルコを再びイスラム主義へ戻そうとしている。
「我々はオスマン帝国の子孫だ。セルジューク朝、オスマン帝国の歴史はトルコの誇りだ」と発言。
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