職員室
紅茶をかき混ぜるロングヘアーの美女が隣の席の海野に話しかける。
3組芸能クラス担当、乙奈ひろみ(音楽科担当)「海野さん、お聞きになりました?
また4組の授業で担任と生徒が衝突したらしいですわ・・・」
2組フィジカルクラス担当、海野美帆子(体育科担当)「またか・・・生原さん大丈夫かなあ・・・」
乙奈「あの方の理科の授業は毎週クレームの嵐みたいですし・・・
どうでしょう校長先生・・・4組の担当生徒を変更することも考えてはいかがかしら・・・」
禿げた中年サラリーマンのような羽毛田校長が情けなくつぶやく「とはいえ私たちには理科が教えられないんだよね・・・」
京冨野先生(社会科担当)「・・・病田お前いけるか?」
首を横に振る病田先生(国語科担当)は、気弱そうなボブヘアーの若い女性で詩集を持っている。
1組プロフェッショナルクラス担当、華白崎桐子(数学及び生徒会担当)「・・・校長、花原さんは研究資金とか言って、いくら学校に借金してるんです?」
はぐらかす羽毛田校長「え?い、いや、それは・・・まあ。」
乙奈「まあ、学校からお金を借りてるんですの??」
羽毛田校長「授業の難易度をもう少し下げるように私からも伝えるので・・・」
華白崎「我が校の経営状態を知ってるんですか?そもそもうちには部活動がありすぎるんです!
部員が一人しかいない、科学研究部に始まり、女子バレー部、死せる詩人の会、任侠同好会、育毛クラブ・・・」
慌てて職員室を出ていく面々。
海野を呼び止める華白崎「海野さん・・・ちょっと。」
振り返る海野「・・・・・・」
華白崎「例の大会の見通しは?」
乙奈「昔のチームメイトには会えたのですか・・・?」
海野「うん・・・やっぱり協力は無理だって・・・」
華白崎「そうですか・・・では、女子バレー部は約束通り廃部の流れで破産申請を・・・」
海野「で、でも・・・素晴らしい逸材を見つけたんだ・・・!お願い、もう少しだけ待って・・・!」
華白崎「約束は約束です。」
乙奈「まあ、もう少し待ってあげてもいいじゃないですか。
・・・大会さえ優勝すれば、この学校は一点大幅な黒字なのでしょう?」
海野「乙奈さん・・・ありがとう」
乙奈「昔からの仲じゃないですか。」
華白崎「乙奈さんが言うなら・・・分かりました・・・しかし・・・バレーボールをやるには最低でも6人は必要・・・あと4人をなんとしても見つけてください・・・」
・
チャイムが鳴る。
男子「は~馬鹿らし・・・おい、飯にしようぜ。」
女子「生原さんはお弁当持ってきてる?」
ちおり「草むらさえあれば現地調達できます。」
男子「・・・おい、ブーちゃんの学食を案内してやれよ・・・」
女子「おいで・・・」
ちおり「私、あの先生と食べたい!」
男子「あいつと・・・?」
女子「そういえば花原さんってランチタイムに姿を見たことがない・・・」
男子「お友だちがいないんだろ」
駆け出すちおり「じゃあさがしてくるね!」
・
薄暗い校舎の奥にある科学研究部の部室。
扉には「詐欺師」「クソ授業」「金返せ」などの張り紙がたくさんついている。
出資者に片っ端に電話をかける花原「自己増殖型ワクチンに投資しませんか?ワクチンは接種ではなく感染させる時代です・・・!」
別の機関に電話をかけなおす。
「21世紀には化石燃料の時代は終わります!一家に一台小型原子炉!もしもの時は自爆装置としても使えます・・・!」
受話器を置く花原「くそ・・・だめか・・・
財布に26円しかなかったから、さんま定食の食券が買えなかった・・・」
ため息をつく「なんで天才のこの私が、こんなひもじい目に・・・」
・
茂みの中で雑草を食べているちおり。
「うん、うめえ・・・」
後ろから声をかける花原。
ちょっと引いている花原「あんた・・・本当にそんな害獣みたいな食生活を送っているのね・・・」
生原「鳥が食べた形跡があったので、野鳥を信じました。」
花原「・・・お前本当に現代人か・・・」
生原「花原さんの分もあるよ!」
草の束を差し出す。
花原「私は人間としての尊厳を捨てたくない・・・」
生原「タラの芽、山ウド、コゴミもあるよ。」
花原「山菜の??」
生原「うん、裏の山からとってきたの!」
花原「でかした・・・!」
・
学食
キッチンでは肝っ玉母さんのようなぽっちゃりの女の子がプロ顔負けの調理をこなしている。
ランチタイムもピークを超えて、学生の数はまばら。
花原「ブーちゃん・・・」
ブーちゃん(学食及び家庭科担当)は無言で花原に包丁を突きつける。
花原「え・・・?ツケはいつ返すんだ??それは、来週必ず・・・
でさ・・・ブーちゃんって天ぷらあげれる・・・?」
・
芝生の上で並んで座る二人。
山菜の天ぷらをかじる花原「さすが私・・・これでフリーランチが料亭クオリティに・・・
ほら、あんたも食べなさい」
感動する生原「こんな美味しいもの食ったことないっす・・・!ありがとうございます!」
花原「ねえ・・・あんたはなんでこんな学校に来たの?」
生原「みんなとバレーボールをしに来たんだよ!」
花原「バレーボールって、ああ、海野さんがやってたってやつか・・・
で、バレーやって何がしたいの・・・?プロにでもなるの?」
生原「プロを目指さないとやっちゃダメなの・・・?」
花原「いや・・・そういうわけじゃないけど・・・
海野さんってほら、プロチームのスカウトが来てたくらい上手かったらしいから・・・よく知らないけど」
生原「まじで!?かっけー!そんな人にスカウトされちゃった、わ~い!」
花原「あんたを・・・?そんなにチビなのに?」
生原「花原さんはおっきいよね!アタッカーでいい?」
花原「なんで私もやることになってんのよ・・・」
生原「大親友のために人肌脱いでよ!」
花原「いつあんたの大親友になったのよ・・・私はね、スポーツが嫌いなの。
大の大人がボールで遊んでて・・・恥ずかしくないのかしら・・・」
葉っぱで口をふく生原「花原さんは、なんでこの学校にいるの??」
花原「・・・こんな学校、好きで通っているやつなんかいないわ・・・」
生原「すごいよね、理科の先生もやってて!」
花原「教師を雇う金がないから、いいように使われているだけよ・・・
ここはダメ人間のふきだまりよ・・・
いじめ、不登校、貧困、病気、障害・・・普通の学校に通えない子どものね・・・」
生原「花原さんは・・・?」
花原「私は違う・・・こんなところにいるべきじゃないんだ・・・絶対に抜け出して・・・
ひとかどの大人になるんだ・・・絶対・・・」
生原「いい学校だと思うけどなあ・・・」
立ち上がる花原「まあ・・・私は恩を忘れない人間よ・・・
友だちは要らないけど・・・家来になら・・・してやってもいいわ。」
生原「ホントに!?わ~い!花原さんの家来だ~!うれし~!!」
悪い顔をする花原(コイツさえいれば当分食事には困らなさそうだからな・・・)
・
科学研究部の部室に戻ろうとすると、部室の前にガラの悪い男が立っている。
「出てこい!この野郎!レオタード着せてCMで躍らせるぞバカヤロウ」
花原「・・・!」
とっさに身を隠す花原。
花原「あいつら・・・学校にも来やがった・・・!!」
生原「親分のお友達?」
花原「しっ!」
京冨野が近づいてきて男に話しかける「よう・・・ここは学校なんで勘弁してくれねえか・・・」
借金取り「ここの学生が借金を焦げ付かせてましてね・・・」
頭を下げる京冨野「とりあえず今日は俺の顔を立てて帰ってくれねえかな、生徒も怖がってる・・・」
借金取り「京冨野さん・・・あんたももうカタギなんだから、兄貴ヅラするのはやめてくれませんか・・・こっちも仕事でやってんだよ・・・あんま甘っちょろいこと言ってると・・・ただじゃおかねえぞ。」
微笑む京冨野「偉くなっちゃったなあ・・・」
振り向きざまに借金取りをぶん殴る京冨野
吹っ飛んで科学研究部のドアを突き破る借金取り
借金取り「やめてくださいよ・・・教師がこんな暴力ふるって・・・問題になりますよ・・・」
借金取りの口をこじ開け、花原の開発したアンプルを無理矢理飲ませる京冨野
痙攣して泡を吹く借金取り
生原の目を覆いながら、部室を覗き込む花原「あ・・・やっぱり、失敗作だった・・・」
京冨野「花原・・・ちょっと職員室に来なさい・・・」
花原「は・・・はい・・・」
・
廊下
花原「生徒指導ですか・・・」
京冨野「そんな野暮なことはしねえよ・・・俺の仕事は生徒を守ることだけだ・・・」
扉を開ける京冨野「だが・・・生徒会はあんたに話があるらしい・・・」
・
借金の明細書を机に置く華白崎
「こんな悪質な金貸しにお金を借りるなんて・・・十日で5割複利って・・・年利で・・・」
電卓を叩く「1825%ですよ?」
華白崎「あなたも理数系なら、こんな計算くらいできるでしょう・・・」
花原「・・・私がした借金じゃない・・・」
華白崎「孤高のあなたが他人の借金の肩代わりを・・・?」
花原「・・・・・・。」
華白崎「いずれにせよ・・・借金返済のために、お金を借りてリスクの高い研究開発をするのは、悪循環だと思いますよ・・・」
暗い表情のまま口角を上げる花原「それくらいしないと、歴史に私の名が刻めないじゃない・・・」
華白崎「ならば・・・なぜ学会に学位論文を発表しないのかしら?」
花原「・・・・・・。」
華白崎「・・・あなたは恐れているんだ。自分の評価が社会にくだされることを。」
立ち上がる花原「そんなことない・・・!私の母さんは私を天才だって・・・」
華白崎「ほかには・・・?」
花原「それは・・・」
華白崎「・・・なら、現実を教えてあげます。
あなたは天才でもなければ、とりわけ頭がいいわけでもない。
趣味嗜好が少し人と変わっていただけだ。」
花原「・・・言ってくれるじゃない委員長。」
華白崎「私は委員長じゃない・・・
しかし・・・あなたには誰もが認める絶対的な才能が一つある・・・」
・・・それはその身長です。」
とあるチラシを前に出す。
華白崎「あなたは、その身長を活かしてこの大会に出場するべきだ・・・」
花原「高校バレー春のバトルロイヤル大会・・・あなた、この私に球技をやれっていうの・・・??」
華白崎「高体連は・・・いずれやってくる少子化に向けて部活動を縮小しようとしている・・・
理想としては部活動廃止だが、高校の部活動からプロスポーツ選手が出てくることもある・・・
そこで・・・優秀な成績を残す学校の部以外は廃部にすることにしたのです・・・」
花原「プロが出てくる見込みのない部活は潰すということね・・・」
華白崎「その部を決める大会が3ヶ月後にある・・・」
花原「くだらない・・・なんで私が・・・」
華白崎「あなたにも旨みがありますよ。この大会の優勝校以外のバレー部はすべて廃部ということは・・・全国のバレー部の運営予算の一部は・・・」
花原「もしかして・・・」
チラシのウラ面をめくる花原。
華白崎「優勝賞金となる・・・」
“優勝賞金6億円”と書いてある。
華白崎「部員で山分けしても、一人あたり1億円・・・どうかしら?」
花原「・・・ノーベル賞の賞金額だ・・・」
華白崎「才能とは・・・自分が決めるものではない・・・社会が決めることです。
あなたはでかい。それに発想力もある・・・
科学という枠にこだわらず、スポーツにもそれは活かせると思いますが・・・」
花原「・・・・・・。」
・
女子更衣室に入ってくる華白崎
練習着に着替えている海野「・・・どうだったかな・・・?」
華白崎「・・・あと3人。」
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