サービスエリアに立つ乙奈。
乙奈「・・・この流れをわたくしが止めてはなりませんわ・・・」
理央「あの貴婦人は試合中ずうっと緊張しているよね。」
オジカ「乙奈姫櫨美・・・3年、元アイドルらしいが球技は未経験・・・
レシーブもパスもそこまでうまくないし・・・花原のように上背があるわけでもない。
チーム最大の穴だな。」
乙奈を見つめる白亜高メンバー。
華白崎「・・・乙奈さんってサーブできるんですか??」
ちおり「・・・サーブしてるの見たことあったっけ?」
花原「・・・そういやないかも・・・」
華白崎「乙奈さん・・・リラックス・・・!自信がないなら下打ちで・・・!」
ブーちゃんが3人に近づく。
花原「・・・え?みんなが帰ったあと、いつも一人で練習をしていた・・・?」
フローターサーブのフォームを構える乙奈。
のろのろした動きの乙奈「う~や~・・・」
オジカ「なんだ、あの動きは・・・」
アライ「・・・ウケ狙いか?」
ボールを打つ乙奈「たあっ」
ボールは高さが足りず、ネットに接近する。
理央「あれじゃあ入らないね。こっから反撃よ!」
すると、ボールが突然上に進行方向が変わりネットを超えてくる。
目を疑う理央「・・・な!きたよ~!!!」
ふわふわ風船のように浮きながら相手コートの上を漂う乙奈のサーブ。
理央「なんという滞空時間なの!!??」
オジカ「イノセ!シマダ!!」
シマダ「ちょっと待ってください!ええと・・・南西距離1.3m・・・!いやもとい90センチ・・・!!」
また方向が変わるボール。
シマダ「きゃあああまた曲がった!!」
シマダ「北北西仰角3度、距離95センチ!」
イノセ「よしきた!!」
イノセがボールに突進するが、ボールがイノセを避けて、バレーのポールに激突するイノセ。
花原「なんつー変化球よ!!」
ちおり「やったー!!」
アライ「あ・・・あんなやばいサーブ見たことねえぞ・・・
イノセからサービスエースとは・・・おい、あいつ本当に穴なのか!?」
オジカ「・・・信じられん・・・!
ボールに細工したんじゃないのか・・・!?」
ボールにヒヅメをたてるオジカ。
理央「お・・・落ち着いてオジカくん・・・!」
アライ「おい・・・オジカが取り乱しているの初めて見たぞ・・・」
クマガイ「貴重プー・・・」
ちおり「あんなこと科学的にできるの・・・?」
花原「・・・ボールに回転がかかっていないから、変な空気抵抗がかかっているのかも・・・」
華白崎「おそらく無回転フローターサーブの一種かと・・・」
ちおり「乙奈さん、もう一度あれやって!」
乙奈「あんなへっぽこサーブでよろしければ・・・」
もう一度サーブを打つ乙奈「たー」
観客「また変化球だ・・・!」
サーブを追いかけてクマガイのみぞおちに突っ込むイノセ。
観客「うわ!とれない・・・!!」
「三畳高のレシーバー陣が翻弄されてる・・・!すげえ!!」
理央「なんなの・・・あれは・・・」
オジカ「あそこまでランダムにカーブがかかるボールを正攻法でレシーブするのは不可能だ・・・
シマダ・・・」
シマダ「はい・・・」
オジカ「無理にあれをレシーブしようとは考えるな。しかし毎回のサーブの到達点のデータを記録してくれ。どこへ落下するかがわからない以上、確率に頼るしかない・・・」
シマダ「わかりました・・・!」
万石「リスは餌の少ない時期に備えて、地中に木ノ実を埋める分散貯蔵という行動をとる。
リスはそこで埋めた木ノ実の場所を記憶を頼りに探し出すのだ・・・
サーブパターンを記憶することなど訳はないだろう・・・」
乙奈のサーブに翻弄される、シカやくま。
理央「あーえらいこっちゃえらいこっちゃ・・・」
オジカ「慌てるな・・・!向こうで怖いのはサーブだけじゃねえか!
よく考えてみろ・・・
あんなめちゃくちゃな動きに気を取られているが、サーブである以上必ず9m四方のコートの中に落ちてるんだ」
理央「・・・どうするの?」
オジカ「ゾーンディフェンスを敷こう・・・6人がそれぞれ決めた場所をしっかり守れ・・・
その6分割したいずれかにボールは必ず来る・・・!」
理央「なるほど・・・さすがオジカくん・・・」
主審「ピー!」
アライ「来たぞ・・・!」
オジカ「いいか!慌てて動くな!冷静に自分の持ち場だけを守れ!!」
アライの方に飛んでいくボール。
オジカ「アライ・・・!」
ボールの進路が変わる。
オジカ「・・・と見せかけて理央だ!」
なんとかレシーブする理央「てい!」
オジカ「よーし、よくとった!」
オジカ「イノセ!フォローだ!」
シマダ「南東へ6.2m!」
イノセ「発射!!」
ボールをオジカにあげるイノセ。
角をふるってものすごいアタックを決めるオジカ「借りは・・・返すぜ!!」
華白崎「速い!!」
あまりの剛速球でブーちゃんがレシーブできない。
山村「なんという剛球・・・!」
病田「す・・・すごいスピードでしたよ・・・!」
オジカ「・・・久々だよ・・・このオレが本気のスパイクをするのは・・・オレは口だけかと思ったか?」
花原「あ・・・あれは・・・あの時の・・・角アタック・・・!!」
華白崎「角アタック・・・?」
オジカ「1点返したな・・・」
アライ「しかし、あの変化球でまだ9点差だぜ?」
オジカ「ふん、ゲームが進むにつれあのサーブは克服するさ。
施行が多いほど確率は正確になる・・・
まあ、乙奈にはもうサーブ権は回ってこないかもしれんがな・・・」
理央「よしっ!追いつくよ!」
サーブを打つオジカ「任せておけ!」
剛速球を乙奈に向かって打つ。
オジカのサーブが取れない乙奈。
乙奈「きゃああ!」
オジカ「容赦はしないぜ、弱肉強食ってやつだ。あんたに点を取られたぶん・・・もらう!」
山村「監督。まずいのではないか?」
さくら「なんで?」
山村「三畳高は強力アタッカーが有葉、オジカ、アライと3人もいるんだ・・・
間違いなく、向こうはオフェンシブチーム・・・
それをブーコック長と華白崎副会長だけに任せるのは厳しいのでは・・・」
さくら「こっちにもいるさ・・・強力アタッカーは・・・」
オジカ「逆転まで行くぞ・・・!」
角を振り上げサーブを打とうとした瞬間、雷が近くに落ちて、合宿場が停電する。
理央「うわ・・・停電だ!」
万石「ブレーカーはどこだ?」
暗闇で光る無数の野生動物の目。
ブレーカーを上げる観客のサル。
照明がつく。
みると、オジカのサーブがネットに阻まれ入っていない。
観客「あ~!入っていない・・!ついてねえ!!」
理央「どんまい・・・オジカくん・・・」
オジカ「ガッデム・・・!」
乙奈「天が味方しましたわね・・・!」
華白崎「次のサーバーが更に点差をつければ・・・!」
自信なくサービスエリアに入る花原「・・・・・・。」
アライ「おっ・・・あいつはアンダーしかできないんだよな・・・」
理央「チャンスね!」
華白崎「花原さん・・・オーバーハンドでいきませんか・・・?
スパイクをやや上に打つようなイメージでボールを叩けばいいんです。」
花原「・・・ほんと?」
ボールを投げる花原。
思い切り振りかぶる花原。
勢いが付きすぎて、自分のみぞおちをついてしまい、床に膝をつく花原。
アライ「ぎゃはは!」
その時、アライの真横をとんでもない剛速球が突き抜け、ラインズマンのカルガモに当たる。
ボールは勢いがとどまらず、カルガモごと壁にぶつかり、キャットウォークと床のあいだをバウンドしていく。
アライ「な・・・なんだ今のは!?」
理央「早すぎて見えなかった・・・」
花原「・・・?ふふふ・・・素人相手に大人気なかったかな・・・?」
理央「な・・・なんですって!?」
花原「これこそが私の真のサーブ!KDD(花原しかできない誰も)!」
でもやっぱりアウトだった。
理央「もう一羽しか残ってません・・・!」
花原「ごめん・・・」
観客「すげええ!力だけはめちゃくちゃだ!最強の女子高生!」
花原「ははは・・・インドア派で通っているのにな・・・」
華白崎「・・・次のサーバーもパワーがありますよ・・・ディフェンス一本!」
クマガイがボールを持つ。
万石「ツキノワグマはおとなしい動物だが・・・身を守る際に繰り出すパワーは人間が敵うもんじゃねえ・・・」
アライ「パワーにはパワーよ!クマガイのロケットサーブを喰らいやがれ!!」
クマガイ「よ・・・よ~し、いくぞ!」
強力なサーブを繰り出すクマガイ。
アライ「よっしゃー!!」
クマガイのサーブがアライの後頭部に当たる。
――クマガイもサーブが苦手だった・・・!!
クマガイを蹴飛ばすアライ「このバカヤロー!」
クマガイ「ごめんプー!!」
アライを励ます花原「・・・わかるよその怒り・・・」
アライ「・・・な・・・?」
華白崎「よーし、ラッキーです!一気に行きましょう!!」
サイドハンドサーブを打つ華白崎。
理央「アウトよ・・・!」
ライン上ギリギリで地面に当たるサーブ。
カルガモがラインズマンフラッグを下げる。
観客「うおおお!入ってる!!」
感心する理央「・・・いいサーブね・・・」
華白崎「このセットは絶対にいただく・・・」
憧れる病田「さすが華白崎さん・・・!」
山村「海野部長がいないのに見事な闘志よ・・・2年3年を引っ張っておるわ・・・」
オジカ「華白崎桐子・・・成績優秀な才女だが、学力だけではなく負けん気の強さもチームナンバー1だ・・・1年だと思ってなめると痛い目を見るだろう・・・」
理央「確か、中学バレーで県代表だったんだよね・・・上手いわけだわ・・・」
オジカ「・・・お前らに任せていいか?」
シマダ「了解しました!」
もう一度激しいサーブを打つ華白崎。
イノセが全力で拾う。
観客「うお、拾ったぞ!」
トスを上げる理央「アライ!」
アライ「くらいやがれー!」
アライのアタックを飛び込みレシーブで拾う華白崎。
トスを上げるちおり「花原さん・・・!」
花原「まかせろ!」
助走して大ジャンプする花原。
前衛がシマダとイノセなのでブロックができない。
クマガイ「た・・・高いぞ!!」
乙奈「今ですわめぐなちゃん・・・!」
花原が高さを活かして渾身のアタックを打つ。
観客「!ほぼ垂直真下に打ったぞ!!」
イノセが拾いに行く。
イノセ「FIRE!」
キョロキョロするシマダ「方位は・・・!?」
シマダの真上に降ってくるボール。
ぷちという音を出して潰れるシマダ。
主審の笛「ピー!」
ちおり「やったー!」
ちおりとハイタッチする花原「ちおり、ナイストス!」
さくら「あれは・・・76年モントリオール五輪での日本代表の必殺技“稲妻降ろし”ね・・・」
山村「監督・・・あんな技も教えたのか・・・?」
さくら「・・・酔っ払ってて記憶にないんだよな・・・
でも・・・あの打ち方は見よう見まねで出来るものじゃない・・・」
アライ「大丈夫かシマダー!」
マリオに踏まれたクリボーのようなシマダ「つ・・・つぶれました・・・!」
乙奈「さすがですわ花原さん!」
華白崎「・・・花原さん・・・前言撤回します・・・」
花原「・・・へ?」
華白崎「このチームに戦力外などいない・・・謝るわ・・・」
花原「いいよ、もう・・・」
クマガイ「あの身長ですごいジャンプ力だ・・・!」
アライ「あの馬鹿カンガルーが・・・
やるじゃねえか素人ども!もう手加減しねえぞ!」
オジカ「・・・クマガイ・・・花原を力でねじ伏せられるのはおそらくお前だけだ・・・
前衛の心づもりをしておけ・・・パワー勝負になるぞ・・・」
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