チェーンのファミリーレストラン
ウエイトレス「きゃあああ食い逃げよ・・・!!待ちなさい!」
サーロインステーキをかじりながら、店内を逃走する若かりし頃のブーちゃん。
出口に集まってくる店員たち。
伝票を突き出すウエイトレス「もう逃げられないわ・・・お会計をしなさい・・・!」
すると、顔を腕で守って、窓ガラスを突き破って店外に逃走を図るブーちゃん。
ウエイトレス「逃げたわ・・・!」
厨房の裏口からコックが現れ、食い逃げ犯につかみかかろうとする。
コック「このガキ・・・この店で最も高いメニューであるサーロインステーキ1kgスペシャルディナーセットを注文しておいて、食い逃げとはいい度胸だ・・・!」
飛び掛かる屈強な大人のコックを、素早い身のこなしで体をさばき、かわすブーちゃん。
ぼそぼそと何かをつぶやく。
コック「なんだと・・・!こんなひどい調理をされちゃ、死んでいった黒毛和牛が浮かばれないだと・・・!?もう容赦しねえ!」
フライパンで殴り掛かるコック。
そのフライパンを中国拳法の発勁で止めてしまうブーちゃん。
銅鑼のような「ぐわ~ん」という音が鳴る。
コック「なんだと・・・!」
フライパンをまともについたので、手を振って痛がるブーちゃん。
コック「なんだ、このガキは・・・!」
ファミレスのメニューを開いて、両手で持ち、扇のように振り回し、コックに打撃を与える。
コック「ぐああああああ!!」
ウエイトレス「あれは・・・春秋戦国時代の伝説の中国拳法・・・索子(ソーズ)孔雀拳・・・!」
・
小さな町中華「桃源楼」
厨房で中華鍋を振っている店主「馬鹿者!」
びくっとするブーちゃん。
店主「わしが頼んだのは出前だ・・・!
ファミリーレストランで食い逃げとは情けない・・・先祖代々の家名を汚すつもりか!
なに!?あんな不味い店に客を取られて、なにが家名だ、だと・・・!?
一人娘だから甘やかしたが・・・もう許さん!わしの四川パンダ拳でお仕置きをしてやる!
かかってこい智子!!」
女将さん「あんた、やめときなよ!お客のカニチャーハンがさめるよ!」
娘に締め上げられる店主「あたたたたた・・・ギブアップ・・・!」
女将さん「智子!放しておやり!
父ちゃんがあんたに拳法を伝承したのは、食い逃げするためじゃないよ!」
店主をはなすブーちゃん。
女将さんが常連客にカニチャーハンを運ぶ「お待たせしました老師・・・」
常連客の小柄な老人「本場中国でもこれほどの中華料理を味わえぬというのに・・・
ファミリーレストランのチェーンに人気を取られるとは・・・世知辛い世の中になったものですな・・・」
店主「長年通っていただいているのに、すいません・・・私の力不足で・・・
あちらさんは資本が巨額で、テレビCMもすごくて・・・
実は・・・この店も地上げの話がありまして・・・
いい機会なんで・・・店をたたんで中国に帰ろうと思ってるんです。」
老師「なんと・・・さみしいですな・・・」
ショックを受けるブーちゃん「!」
店主「・・・なに?親友の乙奈さんと別れるのは許さないだと?
あんな不味い店に負けて悔しくないのか、ばか、はげ、デブ、サモハン・・・
キサマ・・・!親に向かってなんという口のきき方だ・・・!
かかってこい・・・!」
やっぱり娘に締め上げられる店主「あたたたたた・・・ギブアップ・・・!」
老師「ほっほっほ・・・元気のいい娘さんじゃの・・・」
店主「へ・・・へえ・・・じゃじゃ馬娘で手に負えねえんでさあ・・・親として情けない限りで・・・」
老師「お主・・・その怒りを食い逃げではなく、料理にぶつけてみてはどうじゃ・・・?」
ブーちゃん「?」
老師「お主が言う通り、あのファミリーレストランのステーキに2500円の価値なぞない・・・
焼き加減は雑だし、ソースも工夫がない・・・
なぜ、スーパーで半額以下で買える牛肉のステーキを、客はわざわざ外食で食べたいのか・・・?
それは、プロの調理にそれだけの金を払う価値があると考えているからじゃ・・・
お前さんは中国一の料理人の娘じゃ・・・舌は確かであろう・・・
ひとの料理に文句をつけるのではなく・・・文句のない料理をおのれ自身が生み出すじゃ・・・!」
店主「老師・・・しかし、うちの娘は料理の修行などなにも・・・」
老師「店主よ。この娘さん、わしに預けてはくれぬか?」
店主「老師が・・・?」
ブーちゃんの方を向いて老師「わしが、お前さんを一流の料理人に育てて見せようぞ・・・
そして、フランチャイズからこの店を守るのじゃ・・・!」
強く頷くブーちゃん「・・・!」
店主「智子・・・お前本気なのか・・・?料理の修行は、中国武術の何倍も辛く厳しいんだぞ・・・!」
女将さん「あんた・・・止めても無駄だよ。
見てみなよ、智子の目を・・・父ちゃんの店を守りたいって、覚悟を決めた目さ・・・」
店主「智子・・・」
木の棒に風呂敷をひっかけて、老子と共に家を出ていくブーちゃん。
・
人里離れた竹林を歩く老子とブーちゃん。
おなかが鳴るブーちゃん。
老師「・・・腹が減ったか・・・そろそろ食事にするかの。」
よだれを垂らして頷くブーちゃん。
老師「ほっほっほ・・・わしは食えるものなど何も持っとらんぞい・・・
この竹林で現地調達し、調理するのじゃ。
今日のランチの満足度はお主にかかっておるぞ。」
ブーちゃん「・・・!!」
老師「ちなみにこの竹林は、日本なのになぜか人食い虎が生息しているので、山菜狩りの際には用心することじゃ・・・」
散策してキノコを見つけるが、毒を警戒して諦めるブーちゃん。
老師「ほう・・・なかなかやるのう・・・きのこは素人が手を出すと、命を失いかねんほど奥が深い食材・・・懸命な判断じゃ・・・」
しばらくして、筍を見つけて掘り返す。
川で筍を洗うと、生でかじるブーちゃん。
老師「ほっほっほ・・・自分が知っている野菜を食べるのはいいが・・・お前さんは、その野菜のことをどれだけ知っておるのかの・・・?」
ブーちゃん「・・・!」
しばらくすると、腹痛を訴えるブーちゃん。
苦しむブーちゃんを見つめる老師
(生の筍には、シアン系の毒素が含まれておるのじゃ・・・
そのため、筍は必ずゆでてアクを抜く・・・
文明のない大自然に出て初めてわかったであろう・・・
食のありがたみ・・・調理の英知を・・・
この竹林で生き延びよ・・・さすれば・・・お前さんは多くの知恵を学ぶじゃろう・・・)
不法投棄してあった粗大ゴミから鍋を見つけ、川の水をくむ。
水を沸かすため、火を起こそうとするが、なかなか火種ができない。
空腹に耐え兼ねたブーちゃんがとうとう錯乱状態になる。
老師「飢えても己を見失ってはならぬ・・・」
そう言うと、懐からカロリーメイトを出してかじる。
それに気づいたブーちゃんが、老師からカロリーメイトを奪おうと飛びかかってくる。
その攻撃をかわす老師。
空腹のいらいらで、次々に打撃を繰り出してくるブーちゃん。
しかし、カロリーメイトをかじりながらその技をすべてかわす老師。
老師「ほっほっほ・・・拳に力が入ってないのう・・・
悪いことは言わぬ。わしを打つ体力があるうちに、調理を続けたほうがよいぞ・・・」
怒髪天のブーちゃんが渾身の発勁を繰り出すが、老師にかわされ、後ろの巨石を殴ってしまう。
バラバラに砕ける巨石。
老師「・・・なんというパワーじゃ・・・!」
悶絶するブーちゃん。
老師「そりゃ痛いじゃろう・・・お主が砕いたのは太古のマリンスノーが堆積して出来たチャートじゃ・・・モース硬度は7はくだらぬ・・・つまり、鋼も砕くということじゃ・・・」
するとブーちゃんが粗大ゴミの中から金属片を探して、それをチャートの破片で叩きつける。
老師「ふむ・・・正解じゃ・・・」
無事、火打石で火をおこし、鍋で筍を煮るブーちゃん。
老師「お前さんの初めての調理・・・見届けさせてもらおう・・・」
無心で、鍋の中の筍を見つめるブーちゃん。ヨダレがとまらない。
すると、茂みが揺れて、人食い虎が飛び出してくる。
老師「なんと・・・冗談じゃったが、本当におったか・・・!」
虎は、ブーちゃんが楽しみにしていたたけのこの鍋をひっくり返してしまう。
お湯が焚き火に掛かり、消えてしまう火。
二人に牙をむくトラ。
ブーちゃん「・・・・・・!!」
老師「ここはわしが囮になる・・・!逃げるのじゃ・・・!」
虎への恐怖よりも、料理を台無しにされたことへの怒りが勝るブーちゃん。
猛獣のふるう爪をかわし、懐に入り、百烈拳をお見舞いするブーちゃん。
ボコボコにされ「にゃー」と情けない声を上げて逃げ出そうとするトラ。
しかし、ブーちゃんはトラのしっぽを掴んで離さない。
そのまま、ジャイアントスイングをしてトラをチャートの壁に叩きつける。
動かなくなるトラ。
老師「・・・なんじゃと?トラは食えるのかじゃと・・・!?」
トラを竹で串刺しにして、丸焼きにしてしまうブーちゃん。
老師「これがお前さんの最初の料理とは・・・
中国ではその昔、虎肉は不老長寿の薬として食されておったが・・・
現代ではおそらくワシントン条約的にアウトじゃ・・・」
トラの丸焼きを泣きながら食べるブーちゃん。
老師「そうか・・・うまいか・・・それなら、死んだトラも本望じゃろう・・・」
・
ファミリーレストラン「ロイヤルコスト」本社
脚を組んで、キセルを吸う女社長「食い逃げ犯に返り討ちにされたですって・・・?」
コックとウエイトレスたち「・・・・・・。」
社長「こういう時の為に、あんたたちにはユーキャンの通信講座で拳法を取得させたのよ?」
コック「あのデブのガキ・・・索子孔雀拳の使い手で・・・」
ウエイトレス「少林寺拳法3級では歯が立たないです・・・」
社長「言い訳はたくさん。わたしはたった一度の失敗も許さない・・・先生。」
手を叩く社長。
チャイナ服を着たオカマの殺し屋「およびかしら?」
社長「役立たずを始末なさい。」
身構えるコックとウエイトレス。
コックはフライパンを握り、ウエイトレス3人はそれぞれ鉈、鎖鎌、棒を構える。
殺し屋が、指をチョキにして鉈を振るうウエイトレスの目をつぶす。
「きゃああああ!」
殺し屋「上海拳・・・!」
ウエイトレスの鎖鎌をよけると、彼女のエプロンをめくりあげて、顔を覆って縛り上げて、窒息させてしまう。
殺し屋「広東拳・・・!」
棒を振り回す3人目のウエイトレス。
バックステップでかわし、口から火を噴いてウエイトレスを焼いてしまう。
殺し屋「四川拳!!」
コック「ちくしょう!死んでたまるか!!」
殺し屋「あら、いい男じゃな~い」
フライパンをよけて、懐に入りコックにディープキスをする殺し屋。
一気に息を吹き込むと、コックの体が丸く膨らんでしまう。
コック「ぐえええええ!」
破裂するコック。
殺し屋「北京拳!!!」
あっさり四人を倒してしまう殺し屋。
社長「さすがは満漢全席の韓信・・・見事ね・・・」
殺し屋「で?孔雀拳のお嬢ちゃんは何者なの?」
書類を投げる社長「地上げを拒んでいる小汚い町中華の娘よ・・・」
殺し屋「うふふ・・・中華はわたしの十八番よ・・・いいわ。更地にしてあげる。」
・
竹林を下山する2人。
老師「見事この竹林で3か月生き延びた・・・お主に教えることはもうない・・・
命を譲り受けるが、食の真髄・・・忘れるでないぞ・・・」
頷くブーちゃん。
老師「10年後・・・お主が自分の店を構えた時・・・再び会おうぞ。」
タクシーを止めて立ち去る老師。
老師「運転手さん、銀座まで。」
見送るブーちゃん。
その時、ブーちゃんのもとに中華料理屋のバイトの女の子が走ってくる。
バイト「お嬢様・・・!早く店にお戻りください・・・!旦那様と奥様が・・・!!」
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