『青春アタック』脚本㊹生殺与奪

実況「事前の打ち合わせで、先攻が白亜高校、コート選択が聖ペンシルヴァニアとなっています!」
海野「レイちゃん・・・脚は大丈夫・・・?」
狩野「へいちゃらよ・・・」
サーブを打つ狩野に、海野が相手に見られないように、おしりに手を乗せてサインを出している。
頷く狩野。
花原「なにあれ?」
大此木「ハンドサインだ・・・」
花原「あんなの6人制であった?」
大此木「いっとくが、ビーチバレーはコートが若干狭いだけで、たった2人で6人分のプレーをこなさなきゃならねえ・・・つまり、相手の打ったボールを見てから反応しちゃあ間に合わねえんだ。
レシーバーがアタックするしかねえからな・・・
そこで、事前に次の動きを決めてしまう・・・」
小早川「あのダートでは、助走も加速が難しそうです・・・」
大此木「わかっているじゃねえか・・・(いったい誰だコイツは・・・?)」

狩野がボールを放り投げ、回転をかけないように優しくフローターサーブを打つ。
海野「ナイスサー!」
花原「狩野さん・・・あのガタイでサーブがめっちゃ優しいんだけど・・・」
ちおり「お腹すいてるのかな。カップヌードル買ってくる?」
乙奈「いえ・・・あれが正解だと思いますわ・・・現在、こちらのコートが風下・・・
回転をかけたら向かい風にボールが煽られてしまう・・・」

咲がレシーブする。その直後、すでに走り込んでアタックモーションに入る。
幹がトスを上げる。
アタックする咲。
壁のような狩野のブロックをかいくぐってクロス(カット)方向にスパイクを放つ。
それを予見して、すでにレシーブに入っている海野。
海野「レイちゃん!!」
狩野のトスを勢いよくアタックする海野。
それを幹がブロックし、二段攻撃で咲が相手コートに叩き落とす。
ネット際の低い攻撃に長身の狩野が苦戦する。
それを海野がリカバーする。
狩野「ごめん!」
海野「だいじょぶ!!」

実況「お互いになんというコンビネーション・・・!
天才鮎原姉妹に、海野・狩野ペアは一歩も譲らない・・・!」

ちおり「なんか・・・1.6倍速で試合を見ているみたいだね!」
花原「確かに、お互い全く息つく間がないような・・・」
乙奈「テニスのダブルスの試合のようですわ・・・」
花原「シングルスをバレーでやったカッシーはどう思う・・・?」
華白崎「これ・・・めちゃくちゃハードですよ・・・私はあれで骨を折りましたし・・・」

なかなかラリーの決着がつかない。
咲「あのコンビ仲が良すぎない・・・!?」
幹「私たちはお母さんのお腹の中からずっと一緒だったじゃない・・・!」
咲「そうだね!」
幹がかなり高いオープントスを上げる。
咲が海野の方へアタックを打とうとする。
ブロックに入り頭上を見上げる海野。
すると、咲のメタリックブルーのビキニに太陽光が反射し、一瞬だけ海野の視界が奪われる。
海野「・・・う!」
咲「もらった~~!」
クロス方向と思わせて、ストレート(ライン)方向へ渾身のアタックを決める咲。
スクールファイター「1本!!」
大歓声。
実況「最初のラリーはやはり鮎原姉妹が制しました・・・!
しかし、素人の白亜高校も予想以上のナイスファイトです!」

海野「ごめん・・・上を見すぎちゃった・・・」
狩野「こっちこそごめんね・・・カットが来ると思った・・・」
海野「さすが鮎原姉妹ね・・・本当にビーチバレー初経験なのかな・・・」

咲「いや~・・・これけっこう難しいぞ・・・!
目まぐるしくて・・・すき家で一人で働いているみたい・・・」
幹「すき家でバイトしたことあるの・・・?」
咲「ないけど・・・
まず、砂地に足を取られやすいし、ボールにエアがないから力が乗らない・・・
屋内バレーが硬式テニスだったら、こっちはソフトテニスよ・・・」
幹「かもね・・・」



次のラリーでも、鮎原姉妹が点を決める。
海野「はあはあ・・・こっち側、太陽が眩しいなあ・・・」
狩野「両チームの合計点数が7点になったらコートが変わる・・・それまで頑張ろう・・・」
海野「うん・・・!」

咲「ねえ・・・幹ねえ・・・このメタリックカラーの水着を選んだのって誰?」
幹「芝さんじゃないの?」
咲「なるほどね・・・それで、あのトスを上げたと・・・」
幹「なによ・・・今から墨汁でこのビキニを塗れって言うの?」
咲「そうは言ってないけどさ・・・いつも大人が気を使ってくれるなって・・・」
幹「応援してくれる大勢の人の期待に応えるのもプロゲーマーにとって大切なことだよ。」
咲「私はプロゲーマーじゃないし・・・」

狩野「ねえ海野さん・・・ここで負けたら、白亜高校のみなさんに申し訳が立たないわ・・・
だから・・・“あれ”を解禁していいかな・・・」
海野「え・・・?もしかして・・・」
狩野「うん・・・“ボルチンスカヤ”をやりたい・・・」
海野「でもあれは・・・肉を切らせて骨を断ち・・・」
狩野「骨を断たせて命を狙う・・・
だいじょうぶ・・・このボールのエアなら、あの子達が腕を失うことはないわ・・・」
海野「う~ん・・・」
狩野「変わらないね海野さん・・・
でも相手は本気でかかってきているのよ・・・こちらも本気で戦わないと相手に失礼よ・・・
その甘さは相手を見くびっていることと同じ。」
海野「わかった・・・相手は日本で一番バレーがうまい双子姉妹・・・やってみよう・・・!」
狩野「ええ・・・3年ぶりの殺人スパイクのお披露目よ・・・!」

白亜高校の方に声をかける芝。
芝「・・・さくらちゃん・・・ちょっと・・・」
車椅子のさくら「ごほごほ・・・」
芝「そういうのいいから。あの子・・・狩野紗耶さんの娘だよね・・・?」
さくら「らしいね。」
芝「しらじらしい・・・ということは・・・あれができるの?」
さくら「知らんよ・・・この前、破門戸のところから移籍してきたばっかりだし・・・」
芝「冗談じゃないわ・・・うちの選手に大怪我をさせるつもり・・・?」
さくら「スポーツに怪我はつきものさ・・・」

山村「向こうの監督・・・何を慌ててるんだ・・・?」
花原「さあ・・・へんなババアね・・・」



1986年ウクライナ――
原発事故で廃墟になった遊園地。
手をつなぐ母子。
狩野(6)「・・・母さん・・・今度はどこへ行くの・・・?」
母親「国境へ行くのよ・・・もうここにはいられない・・・」
狩野「日本でバレーボールはもうしないの・・・?」
母親「西側陣営への裏切り者って言われちゃったからね。」
狩野「なにそれ?あたし・・・わからない・・・」
母親「私にもわからない・・・この世界が二つに分かれて殺し合いをしている理由が・・・」
狩野「じゃあ、母さんもソ連に帰ろうよ。」
母親「それは無理。あなたはこれから一人で生きるの。
強くなりなさい・・・誰よりも。
そして・・・私が授けた力を・・・大切な人を守るためだけに使いなさい。
決して、私欲のために暴力を振るってはダメ・・・
その末路は・・・私のような惨めな死よ・・・」

これが、母さんとの最後の別れだった。
私をソ連に亡命させたあと・・・多くの政府要人を葬った母さんは蜂の巣にされたという・・・



レシーブ体制に入る狩野。
狩野(鮎原姉妹は目ざとい・・・
身長がある私のほうがレシーブが苦手なことは、すぐに気づくはず・・・
さあ・・・打ってきなさい・・・)

3点目を決めようと、サーブの準備をする幹。
サインを出す咲「ナイスサーブ!」
幹「咲ちゃん・・・わたしはあなたと違ってリアリストなの。
勝利への最短距離を狙うのが私のやり方。
ファミ通の攻略本があるなら買うし、大技林の裏技があるならやるのよ・・・」

狩野の予想通り、狩野にジャンプサーブを打ってくる幹。
飛び込みレシーブで幹の強力なサーブをレシーブする狩野。
狩野「海野さん!十字トスよ!」
すると、腕をクロスさせてトスに変化を付ける海野。
花原「なにあのトス!?」
大此木「し・・・知らん!」
すると、重い巨体を飛び上がらせて、狩野が拳を握り締め、ボールが破裂しかねないほどのフルスイングを叩き込む。
重く速い弾道を咲がとっさに拾おうとするが、ボールの威力が砲弾並みでレシーブした腕ごと砂地にめり込んでしまう。
咲「え!?」
そのまま、逆立ちしてひっくり返ってしまう咲。
咲「きゃあああああ!」
スクールファイター「勝負あった!」

咲にかけよる幹「咲ちゃん・・・!」
砂に顔が埋まっている咲「い・・・息が・・・」
足を掴んで、大根のように地面から妹を引っこ抜く幹。
咲「ごほごほ・・・!一体何が起きたの・・・!??」
幹「スクールファイター!タイムを・・・!」
頷くスクールファイター「ブレイクターイム!!」

咲に駆け寄る芝「咲ちゃん!怪我はない・・・!?」
咲「う・・・腕の骨が粉砕・・・はしてない・・・よかった・・・」
幹「でも、腕が真っ赤だよ・・・手当しないと・・・」
咲「い・・・痛い・・・」
咲の腕を見つめる芝「やっぱり・・・ボルチンスカヤ式殺人スパイクに間違いない・・・!」

実況「な・・・なんてスパイクだ・・・!
狩野選手の巨体から繰り出された垂直落下式のアタックはまるで殺人兵器です!
レシーブをした咲選手は無事でしょうか・・・!?」

花原「・・・な・・・なにあれ・・・レシーブした選手が地面にめり込んだんだけど・・・」
大此木「本で見たことがある・・・」
山村「なに?知っているのか、雷電・・・!」
大此木「俺様は雷電じゃねえが・・・
おそらくあれは、日ソ2強時代にソ連の選手が使用していたとされる、ボルチンスカヤ式殺人スパイクだろう・・・」
花原「え・・・?人が死ぬの・・・?」
大此木「選手生命という点では、確かに人は死んでいるな。
レシーブをした選手は必ず大怪我をしてしまうという必殺スパイクだ・・・
しかし、ソ連選手がドーピングをしていたことが発覚し、公式試合では禁止となったんだ・・・
俺様もこの目で見るまで、60年代の都市伝説だと思っていたがな・・・
まさか、その使い手がいたとは・・・」

芝「そのとおり・・・あのスパイクの使用は禁止されているはずよ・・・!」
さくら「あら・・・それは春高バレーのルールブックの何ページに書いてあったの・・・?」
芝「う・・・あんなの打てる高校生がいるわけないでしょう!!
こんなのスポーツじゃない・・・」
さくら「あんたの娘が言っていたわよ・・・すべてのスポーツは暴力だと。」

観客の方に呼びかける芝「観客の皆さん・・・マスコミ各社の皆さん・・・!
神聖なバレーボールの試合で、こんな暴力が許されるのでしょうか・・・!」
ドン引きする観客「た・・・たしかに・・・あれはひどい・・・」
鮎原ファン「そうだ・・・咲ちゃんを傷つけるなんて許さないぞ~!」
白亜高校にブーイングが飛ぶ。
実況「おおっと、白亜高校のラフプレーにブーイングの嵐だ~!」
海野「・・・まずい・・・」
狩野「・・・ごめん・・・やはり失敗だったかな・・・」

怒鳴る咲「うるさい!やめろ!!」
幹「咲ちゃん・・・」
立ち上がる咲「私はあなたがたの可愛いフランス人形じゃない!痛みを感じれば、怪我もする!
いい加減、私たちに純粋なバレーボールをやらせてよ・・・!」
幹「・・・怪我は大丈夫なの・・・?」
咲「いや・・・めちゃくちゃ痛いよ・・・でも、スパイクを強く打ちすぎてはいけないなんて、そんなくだらないルールはないでしょう?」
幹「そうだね・・・」
口を使って腕をテーピングする咲「・・・芝さん・・・私たちに好きにやらせてください・・・
大丈夫・・・殺人スパイクだろうが、ギロチンアタックだろうが・・・絶対に攻略法はある・・・
そうでしょう、幹姉?」
幹「ええ・・・そのひとつはもう見つけた。」
咲「さすがゲーマー・・・!」
芝「咲ちゃん・・・」
咲「約束します・・・芝さんの借金は私たちがきれいにするから。」
芝「知ってたの・・・?」
咲「もちろん・・・」



タイムが終わり、コートに入ってくる鮎原姉妹を見つめる狩野。
狩野「さすがね鮎原姉妹・・・あれを受けても、まだ立ち向かってくる・・・」
海野「そうだね・・・」
狩野「この殺人スパイクの効果は、初見で相手に大けがを負わせ、強い恐怖心を植え付けること・・・それに失敗したら・・・」
不安そうな海野「レイちゃん・・・」
微笑む狩野「心配しないで・・・海野さんは私が守る。」

幹「咲ちゃんも見たでしょ・・・あのスパイクの前にミホミホが出したトスを・・・」
咲「うん・・・十字トスって言ってた・・・」
幹「殺人スパイクは、あのトスからじゃないと繰り出せないと見たわ・・・
なら対処方法は簡単よ。」
咲「ええ・・・十字トスをさせなきゃいいだけ・・・海野さんにレシーブをさせれば、殺人スパイクは絶対に打てない・・・」
幹「とどのつまり、あれは一撃必殺技なのよ。ここで相手を殺せなければ、もう使えない。
腕は大丈夫?さあ・・・逆襲するよ。」
咲「オーケイ・・・!」
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