『ラストパーティ』脚本③

ドリームワールド城の地下にあるコントロールルーム
たくさんのモニターはパーク内の様子を映し出している。
着陸態勢に入るジェット機を眺めるサングラスの男。
ドリームワールド開発責任者にして、コマキの天才ゲームクリエイター結城秀夫である。
結城「ちょっと・・・会長の最終視察は来月じゃなかったかしら?」
オペレータ「ああ・・・違いますよ・・・」
結城「じゃあ誰?」
オペレータ「泉さんです。」
結城「泉!!??なんであの坊やが?
労働組合を作ろうとしてクビになったはずでしょう。」
湯浅「私が呼んだんだよ・・・」
結城「よその会社が余計なことをしてもらっちゃ困るわ・・・!
泉ちゃんがどういう人間か知ってるの?」
湯浅「・・・転送ゲームの開発に最初から携わっていたのは彼じゃないか・・・」
結城「正確には、夫妻よ・・・桃ちゃんはともかく、泉ちゃんをこのタイミングで呼ぶのはミステイクもいいところよん。泉ちゃんは転送ゲームの実装には反対していたんだから。」
湯浅「・・・今となってはそれが正解だったな・・・」
結城「冗談じゃないわ!ドリームワールドのオープンは来月なのよ!
ソー、だから、あんたはとっととマジックキングダムから桃ちゃんを連れ出してちょうだい。
来月の会長視察であのじいさんに“事故”がバレたら、このドリームワールドは閉鎖。
あたしたち開発陣の苦労は水の泡・・・
それどころか、あの守銭奴は責任をあたしたちに押し付けて損害賠償請求をするわ・・・」
湯浅「そんなメチャクチャな・・・会長の判断でこのテーマパークは建設されたのだろう?」
結城「コマキを舐めないでちょうだいな。この会社にそんな道理は通じないのよ。
自分の知らないところで現場スタッフが暴走し、大切な一人娘を奪った!って裁判を起こすに違いないわ。」
湯浅「私たちの出資した資金は回収できるのか?」
結城「フール!掛け捨てに決まっているでしょう!お花畑もいいかげんにして!
インショート、つまり、私たちはドリームワールドをオープンさせるしかないのよ・・・
そして、あなたが呼んだ泉ちゃんはその妨害こそすれ、協力は決してしないわ。
あのコンピューター坊やはね・・・スリルというものが大嫌いなの。
どんなにバイオレンスなことが起きても、プレイヤーはセーフティ・・・それがテレビゲームなんですって。」
湯浅「君の見解は違うのか?」
結城「おほほほ!あたくしは、音楽体感ゲームのパイオニアよん!
画面の中のクリボーを踏むよりも実際にダンレボのパネルを踏んづけたほうが楽しいじゃない!」

その時、コントロールルームの扉が勢いよく開き、ヨシヒコが入ってくる。
ヨシヒコ「妻に会わせろ、レゲエ・ユーキ。」
結城「あらあら・・・お久しぶりだこと、泉ちゃん。我がドリームワールドへようこそ・・・!
残念だけどオープンは9月なの。遊びたいなら来月またいらっしゃい。」
ヨシヒコ「くだらない冗談はやめろ。
この島で一体何が起きている?」
結城「計画は順調よ。何も問題は無し。」
ヨシヒコ「資金繰りに行き詰まっているんじゃないのか?
だから、そこにGASEの湯浅さんがいるんだろう。」
結城「随分な言い方ね泉ちゃん・・・あなたが途中で投げ出したプロジェクトの尻拭いをこっちはしてるのよ。感謝して欲しいくらいだわ・・・」
ヨシヒコ「お前が私を会社から追い出して、プロジェクトを奪っただけだろう。
いいから、妻を出すんだ。」
結城「いつまで旦那のつもり?あんたたちが離婚したのは何年前よ。」
ヨシヒコ「コマキアミューズメント第二開発部の姫川桃乃に会わせろ。」
湯浅「・・・君を呼んだのはほかでもない、その彼女の件なんだ。」
ヨシヒコ「・・・桃乃に何かあったんですね。」
結城「おほほ・・・バイザウェイ、ところで園内のキッチンカーにはいったかしら?
あそこのタコスは絶品よん。」
湯浅「・・・結城さん、もう隠すのは無理だ。ラストパーティ作戦を彼に話すぞ。」
ヨシヒコ「ラストパーティ?」

壁の巨大モニターの前に立つ湯浅。
モニターには園内マップが映っている。
湯浅「まあ、座りたまえ・・・ご推察のとおり、資金は底をついている・・・
深未今日子教授の量子転送技術の権利買収で300億・・・その特許申請に12億・・・
土地買収に1兆、転送ポートの設置に1000億×7・・・」
ヨシヒコ「7基・・・!?アトラクションエリアは4つのはずでは・・・」
湯浅「井伊会長が7つの方がキリがいいということで増やしたそうだ・・・
そして、7つめの追加エリアで事故が起きた・・・」
結城「事故という表現が良くないわね。ちょっとしたトラブルよ・・・」
湯浅「追加エリアは、異世界に飛べばカジノ規制は治外法権だということで設置されたギャンブルエリアのビリオンパラダイスと、連続猟奇殺人の犯人を名探偵と推理するゴシックホラーの世界、ホーンテッドレジデンス・・・
そして・・・あなたが初期探検であまりに危険だと閉鎖した・・・」
ヨシヒコ「マジックキングダムか・・・」
結城「オープンまでに新しい転送先(リージョン)を探す時間がなかったのよ。」
ヨシヒコ「嘘はやめろ。最も安全なヴィーナス・スプリングスが閉鎖されているじゃないか。」
湯浅「取締役会に、そのエリアは集客が見込めないと判断された。
そして、なぜ剣と魔法の世界であるマジックキングダムを加えないんだとお叱りを受けたらしい。」
ヨシヒコ「役員たちに初期探検のレポートは見せなかったのか!」
結城「見せたわよ。」
ヨシヒコ「会長は客が虐殺されるテーマパークを許可したのか?」
結城「あのじいさんはこう言ったわ・・・危険なら安全にすればいいってね。」
湯浅「ということらしい。コマキはさらに5000億円を追加して保安設備を揃えた。」
ヨシヒコ「保安設備?」
湯浅「わかりやすく言えば兵器の類だ。対戦車誘導弾に迫撃砲・・・
そういったものを装備した傭兵をマジックキングダムに送り込んで転送ポータル周辺を無力化したんだ・・・転送ポータルのサイズを拡張したのも、武装ヘリや戦車を転送できるようにするためで・・・」
ヨシヒコ「異世界を侵略したのか!?」
結城「お客を受け入れるエリアだけよ・・・つまり、5つの村と2つの砦、1つの城は現代兵器によってデストロイ!陥落させたわ・・・
野生のモンスターどもも、さすがに機関銃には敵わなかったわ。
これで、安全なファンタジー世界の完成よ。」
ヨシヒコ「なんという暴挙を・・・
マジックキングダムの社会情勢を知らないのか!?ブリジット王国とガリア大陸は王位継承権を巡って一触即発の状況・・・そんな中、王国領がひとつ滅ぼされたら・・・!」
結城「そんな難しいこと、あの会長がわかるわけないわ。」
ヨシヒコ「戦争犯罪だぞ・・・!」
結城「天井法務部長いわく、異世界に法は適用されないわ。だいじょうぶよ。」
湯浅「実際、キャッスルヴァニア地方を攻略して3か月は治安が劇的に改善されたらしい。
我々が封建制を廃止し、農奴を開放・・・民主化させたことが功を奏したと・・・
そして最終チェックで・・・姫川開発部長が現地に入った・・・」
ヨシヒコ「それはいつことですか?」
湯浅「先月の・・・2日かな・・・」
ヨシヒコ「で・・・今も現地にいると・・・?」
結城「ええ。」
ヨシヒコ「では、今すぐ帰ってこさせてくれ。子どもたちが会いたがっている・・・」
結城「まあまあ、落ち着いて・・・ほら、小田順子!タコスよ!タコスを買ってきなさい!
まったく気が利かない子ね!」
駆け出す小田「!す・・・すいません・・・!!」
ヨシヒコ「そんなものはいらない!
キャッスルヴァニアのどこにいるんだ!エゼルバルド城か?クヌート砦か?」
結城「わからないのよ。」
ヨシヒコ「わからない・・・!?」
結城「あの世界のやつら・・・圧倒的武力を前に従順になったと思ったら・・・
あたしたちの世界の有力者がやってくるのを待っていたのよ・・・」
ヨシヒコ「おまえは何を言っているんだ・・・」
湯浅「姫川部長は・・・拉致されたんだよ。」

ヨシヒコに殴られて吹っ飛ぶ結城。
慌ててあいだに入る小田「ぼ・・・暴力はやめましょう・・・!」
ヨシヒコ「馬鹿かこの会社は!!
いきなり軍事侵攻して恨みの一つも買わないと思っていたのか!!
異世界は都合のいいオモチャじゃないんだぞ!
ああ・・・まったく・・・なんて短絡的なんだ・・・!
会長の狂った命令を役員連中が誰も止めないのも愚か極まりない・・・!」
結城「うちの役員はイエスマンばかりだもの。あなたも知ってるでしょう?」
ヨシヒコ「・・・で、この件を会長は知っているのか?」
結城「バカ正直に話すわけ無いでしょう!
長期滞在のロケテストをやってるってことになってるわ。」
湯浅「井伊会長が現地を訪れるのは、オープン直前の来月5日・・・
つまり、それまでに姫川部長を救出しなければ・・・この事故は会長にも知れてしまう・・・
君は現地の風俗に詳しい・・・
ぜひ、最後の救助隊ラストパーティを指揮して欲しいのだ・・・」
ヨシヒコ「1200万円のギャラの理由が分かりましたよ・・・
おい、結城・・・最後ということは、何回か救助隊は送っていたのだろう?」
結城「ええ・・・」
ヨシヒコ「その資料をすべてよこすんだ・・・」
湯浅「ということは・・・」
ヨシヒコ「桃乃が拉致されて35日も経っている・・・すぐに現地に飛びます・・・」
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