クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲

「面白い度☆☆☆ 好き度☆☆」

 ひろしの話。

 ――映画のドラえもんになると一際輝くのがタケシ・ゴウダなら、クレヨンしんちゃんではそれはヒロシ・ノハラだ。

 とワシントン・タイムズの記事に書かれそうなほど、このパターンはお約束で、しんちゃんが主役としてしっかり暴れてくれる『ヘンダーランドの大冒険』が「しんちゃん映画」のフェイバリットな私としては、しんちゃんが大人しい映画版は複雑な思いがするのですが、この映画はまさにそれ。
 観客のほとんどはしんちゃんのお父さん「ひろし」に感情移入するはずでしょう。だってそういう風に作っているんだもん。物語の構造が。

 埼玉県に「20世紀博」という大阪万博のようなテーマパークが出来るんですけど、それが万博世代にノスタルジックな「あの頃はよかった」的感情を想起させ、しんちゃんの街にも空前のレトロブームが到来します。
 なにせ大人が自分が子どもだったころにしていた遊びや文化に没頭し、子どもに逆戻りしている始末で、あっけに取られているのが、しんちゃんを始めとする現役子ども世代。
 「マサオんち黙って置いてきちゃお」でお馴染みのしんちゃんの友だちマサオくんが「懐かしいって、そんなにいいことなのかな・・・?」と一言。
 そう、この映画のキーワードはまさにそれ。しんちゃん達子どもは「懐かしい」がない。五年しか生きてないから。彼らには「過去が無い」ので、大人たちの行動が奇行にしか映らないのです。これっていい歳してサブカルから卒業できない大人たちを暗に皮肉っていてけっこう小憎いw。
 
 そして子どもになった大人たちと現役子どものそれこそ「大人げない葛藤」が始まります。幼稚園の送迎バスのカーチェイスシーンは『ヘンダーランドの大冒険』のラストシーンで完成形を見た「背景動画」を駆使し圧巻。
 激走するバスに上がった、「ああ・・・今年の暮れには仮釈に・・・」でお馴染みの園長先生が看板に当たるシーンは『スピード』のパロディかな?・・・組長の首とれなくてよかった~。
 愛車を傷つけられて「トサカに来たぜ!」とつぶやく敵のボス(ケン)も強いんだか弱いんだか分らなくて結構良かったですw。

 結局大人たちの奇行の原因は、20世紀博をしかけた「イエスタディ・ワンスモア」という組織が電波塔から放射した「懐かしい香り」に洗脳されていたからということですが、これは過去を懐かしむ大人の急所を突いてくる用意周到な方法で、歴代クレしん映画の敵の組織としては異色。
 彼らは「現代人が失ったものを取り戻す」という独自の哲学の下行動しているわけで単純な悪ではない。しかし彼らは確実に間違っている。
 なぜならば“大人を演じること”を放棄し、それを懐かしむ過去すらない子どもの未来を奪っているから。
 しかし作中の子どもになった大人(及びこの映画を見ている大人の観客?)は、彼らの行動を絶対的な悪だと強く否定できない。それどころか「彼らの言い分もわかるじゃないか」くらいのことを言う。
 だから「イエスタディ・ワンスモア」はアニメの悪役史上最もたちが悪いんです。

 この映画の主人公ひろしは「懐かしい香り(=過去)」と「大切な家族(=未来)」の間でただ一人葛藤します。そしてひろしは「未来」を取ります。「家族の素晴らしさをあんたらにも教えてやりたいぜ・・・!」と。
 この映画はここが落とし所で、上手くはできているのですが、要約すれば「後に戻って、そこから進んで、またもとの位置に来た」話で、日常の尊さの再確認の映画(ラストのセリフが、しんちゃんの「おかえり、父ちゃん母ちゃん」に対しての、ひろしの「ただいま」だし)で、成長譚ではないような気がします。
 そう考えるとこれは子ども映画としては渋すぎるんじゃないか・・・?と思います。この映画はしんちゃん映画で『戦国大合戦』と双璧をなす最高傑作と言われていますが、私はちょっと・・・(苦笑)

 もっと言えば、私がノスタルジーブームで過去ばかり振りかえって「あの頃はよかった」って過去を美化する風潮が好きじゃないからなのかもしれません。
 これって「ジュラ紀は愚鈍な恐竜がいて火山がドッカーンで野蛮な時代だろ?」って現代の価値観で単純に決めつけちゃうのと一緒で、いわば過去に対する冒とくな気がします。
 「あの頃はよかった」の「あの頃」は「今思う過去のイメージの残像」であって「過去そのもの」ではない。高度成長期は今よりずっと不便で苦労はたくさんあった(公害もあった)し、人間の温かさが・・・ってそう数十年で人は変わらない。

 そもそもこの映画はそういった風潮を否定して物語は落ちているはずなのに、この映画によって逆に「プチ昭和ブーム」が来ましたからね。クライマックスのシーンで魚の乱獲を批判?した『ニモ』が、クマノミの乱獲を促したような感じですよ。
 マサオくんじゃないけど「そんなに過去っていいものなのか」って思っちゃいます。私は絶対嫌ですね。タイムマシンで高度成長期に送られるのは(笑)。

 私もいい歳なので過去(特にジュラ紀とか)はそこそこ好きですが、今が一番好き。そして未来がどうなるかとても楽しみです!
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