科学VS司法

 米物理学会誌にデータ改ざんの論文を発表したとして、2008年8月に懲戒解雇された筑波大大学院数理物質科学研究科の長(ちょう)照二(てるじ)・元教授(56)が「解雇は無効」として同大と当時の学長らを相手取り、地位確認と2000万円の損害賠償などを求めた訴訟が1日、水戸地裁土浦支部(犬飼真二裁判長)で結審した。判決は4月19日の予定。

 訴状などによると、長元教授は06年、米物理学会誌に自身を筆頭著者とした論文を掲載したところ、大学側から「不適切なデータ解析があった」として08年8月に懲戒解雇された。長元教授は同年10月、「解雇には合理的な理由がない」として提訴した。

 これまでの11回にわたる口頭弁論は、主にデータ改ざんの有無について事実関係が争われた。原告弁護団は「改ざんの事実はない。大学は科学的真実を隠蔽(いんぺい)し、恣意(しい)的に研究不正行為と認定した」と主張。これに対し、大学側は「原告の主張はいずれも根拠がない」と反論している。

 長元教授の支援団体は6日、つくば国際会議場(つくば市)で市民集会を開く。

(2010年2月2日 読売新聞)


 私はプラズマのデータ解析なんて全然分からないけど、このニュースってけっこう興味深い。この長教授は学生たちにデータの改ざん、ねつ造をさせたから、大学側に解雇されたらしいのだけれど、どうも問題は「データの改ざん」ではなくて、「データの解析の方法がそれでよかったかどうか」のようです。
 つまり複雑な乱流現象であるプラズマの振る舞いのデータは、規則性が見つけにくい「豆まきグラフ」で、素人にはぶっちゃけどうとってもいいように見える。逆に言えばこのデータは科学的理論を導くのにはパンチが弱いのかもしれない。
 結果から要素を抽出し理論化するのを「帰納法」といいますが、この帰納法は科学にとっては重要かつとっても難しい問題。
 生物学では対照実験などを試みますが、分子生物学のノックアウトマウスの実験結果(特定の遺伝子をとってもネズミは健康→ネズミに遺伝子の欠損は関係ない??)のように、データをどう解釈していいかすぐには分からない場合もあります。
 
 ・・・で物理学。物理の実験において微小な誤差をグラフに合うように補正するのは珍しくもなんともないことだと思う(高校の物理の実験の経験から言ってるだけだけど)。
 で、問題は補正の程度であって、あまりにデータ補正を強引にやってしまうと、データから導き出される理論の信ぴょう性はかなり疑わしくなるし、あまりにデータのディティールを気にしすぎると乱流現象から理論を抽出するのは不可能になると思う。
 あちらを立たせればこちらは立たず・・・と。

 長教授や彼を支持する学者さんたちは、データから問題のグラフを導き出すことはX線解析をやったことがある人なら誰でも出来ることとして「これはデータの改ざんではない、正しいデータの解析の方法に則った科学的な結論だ」と、裁判を起こしたわけですが、こんな話専門的すぎて正直司法関係者には分からない(汗)。そして私も正しいかどうか分からない・・・
 そしてそれが解らないと次の問題・・・「大学側の長教授の解雇は正当な判断だったか」が解らない・・・
 ただ長教授を支持する学者さんたちが言っていた「データがこういうグラフに沿うように並んでくれたらいいな・・・」ていう先入観って科学においてはもろ刃の刃だとは思う。
 でもそれを100%排除はできない。仮に排除しちゃうと大胆な研究ができなくなるし、そもそも理論が立てれなくなるから難しい・・・

 このニュースってTBSが取り上げてるけれど、ネット上ではあまりソースがない・・・これは科学哲学を考える上でかなり重要な話だと思うから、もっと世間の関心は高くてもいいんじゃないかと思うんだけど・・・
 ちなみに4月の判決では長教授は敗訴。私が思うに「長教授はデータのねつ造はしていない」と思う。これはあくまでも、データの解析に用いた方法が的確だったかどうかの問題だと思うので、大学側の解雇はちょっとやり過ぎかな?セクハラしたわけじゃないしね。
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