Mr.ビーン カンヌで大迷惑?!

 「面白い度☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆」

 ビーンはまったく成長してなかった。

 ついに前作の映画版から12年ぶりにミスタービーンが帰ってきた!

 いや~中学生の頃クラスで仲良かった友達に「田代ミスタービーンって知ってる?すっげえおもしれえよ」と言われ、その人の家でビデオを見せてもらい、今まで体験したことのないタイプの笑いに抱腹絶倒した思い出があるのですが、それから10年以上の時が経ち、ローワン・アトキンソンが辟易とするほど熱病のように流行ったビーンブームも遠い昔の話・・・私の本棚に今なお並ぶ『ミスタービーンの秘密の日記』が懐かしい。

 しかしビーンの故郷、本国英国では状況は違う。イギリスではテレビ番組は質の高いものをじっくり時間をかけて作るのが普通。よって面白い作品を何度も何度も再放送するそうです。実はビーンブームの時もそんなに作品数は無かったじゃないですか。え?これしか(13本)作ってないの?と。
 「ミスタービーン」はそんな英国で数え切れないほど国民に繰り返し愛されているコメディなのです。
 主演のアトキンソンは確か英国俳優所得番付第一位になった経験もある大スターで、世界に数台しかないマクラーレンF1マシーンも所有している根っからのカーマニア。21世紀にはいっても「ミスタービーン」がアニメ化したり根強い人気があるそうです。今はどうだ?

 さてこの作品、NHKが深夜にテレビ放送した時からギャグが日本人にはどぎついということでいろいろカットされ、しかもビデオ版でもカットされ、結局ノーカット版は国際線の飛行機の中とか(あとは英国)でしか見れなかったという伝説があるのですが、その反省を生かしたのか映画版ではビーンはけっこう良くも悪くもまともになってしまい(けっこう喋る)、大衆受けはしたもののコアなファンにはギャグがユルユルで物足りないと評価されたそうで。

 たとえば今回の映画もそうだけど、映画版のミスタービーンってちびっ子と友情をはぐくむじゃないですか。でも精神年齢8歳のビーンにとって子どもはライバル。子どもの漫画は横取りするわ、頭をモヒカンにしちゃうわ、飛行機でゲロをぶちまけるわ(これは善意が裏目に出たw)・・・子供とも対等に戦うのがビーン流。
 もっと言えばビーンって社会的弱者にも容赦しない。儒教の国日本ではこの手のギャグが主にバッサリカットされているんだけど、障害者、重傷者、老人も自分の邪魔になるなら徹底的に痛めつける。良くも悪くもこの人って平等主義なんです。

 私はかつて『悪い障害者』というギャグ漫画を担当編集者に見せたところ「これは危ない」と没になった経験があるのですが私は思いましたよ。中学生のパンチラやSEXを大々的に載せてる雑誌に言われたかないわ、と・・・
 この漫画は「障害者」というレッテルを逆手にとり健常者の同情をかい、己の欲望の為にハンデキャップを利用するというとんでもない障害者が主人公のギャグ漫画で、「障害者」ってだけで、健常者が彼らになにか親切にしようとするのは逆に障害者にとっては余計なお世話で失礼なのではないか?というメッセージを込めた内容でした。
 特別支援学校の先生をしている友人の評価は高かったのですが・・・やっぱこういう笑いってまだまだ日本には早いのかもしれない。

 イギリスでなんでああいうきわどい笑いがOKかといえば、障害者や病人が普通に社会に溶け込んでいて、いい意味で特別扱いしないんですよ。
 障害者を健常者のコミュニティから遠ざけるとか、結果的に家に引きこもるしかないとか・・・そんな感じの日本とは違い、ヨーロッパはやっぱり社会福祉政策が進んでいる。
 なにしろちょっと前までハンセン病の断種やってた国が日本なんで、バリアフリーはスロープ付けるだけでいいのか、物質的な話だけで済ませちゃいけないんじゃないか?と、思うわけです。

 まあ、とにかくそういうきわどいお笑い文化がイギリスにはあって、というか実は「ブラックアダー」とかは「ビーン」よりもずっとブラックでやばいらしい(人種差別ネタ、王室ネタ、エログロ何でもあり)のですが、いかんせん私は英語が駄目でヒアリングできないんだよな・・・
 しかしそんな濃ゆ~いギャグをそのまま映画として世界中に発信するわけにはいかないので(自国のお笑いにプライドのあるイギリスはしようともしないだろうけど)ミスタービーンの映画版は御家族みんなで楽しめるように薄めて作っております。

 でもやっぱり黒いところもあります。その黒いところとは(前作の映画『ビーン』とも共通するんですけど)芸術批判。
 前作では古典絵画、今作では前衛的な映画をことごとくちゃかしてます!やっぱり「ビーン」はこうじゃなきゃ!
 ウィレム・デフォーが演じた傲慢で自己満足的な(本人に言わせれば芸術的な)作品を作る監督ってけっこう実際にいそうだし、そんな映画をカンヌ映画祭で見させられて退屈している観客の描写が何ともシニカルw。そんな自己満足的フィルムをビーンはことごとくぶち壊す!いいぞもっとやれビーン!!
 そしてビーンが自分のシーンをカットされてしまった可哀想な女優さんの為に、自分のビデオカメラで撮った映像をつなげて作った映画は観客から大絶賛!もうこの映画が何が言いたいか解りますよね?芸術なんて理解している奴はいないんだよ。

 今回は前作でやたらビーンを喋らせてしまった反省からか、テレビシリーズ往年のネタを引っ張ってきて、ビーンを喋らせずにシーンをつないでいます。
 これはかつてあったミスタービーンのBEST版(「ベスト・ビッツ・オブ・ミスタービーン」)みたいな構成で、ビーンにハマった人は「ああそんなネタあったなあ・・・!」って楽しめるし、初見の人は爆笑すると思う。
 過去にホテルでかっこいい男と張り合って腐った生ガキを大量に食べてしまいホリデーをベッドで過ごした経験から、2007年のビーンはカキを食えなくなっているしw、それを喰わずに隠すのは誕生日のタルタルステーキのネタと一緒。
 またビーンが盗んだ自転車は戦車に踏まれてしまうのですが、あれもビーンファンなら愛車のミニクーパーが戦車に踏みつぶされてぺしゃんこになったネタを思い出すはず。
 「昔と同じことをしているだけじゃん」と言う人もいるかもしれませんが、笑いって何回見ても面白いものってある。志村けんさんのコントとか。だからいいじゃないですか、小ネタくらい。あの自閉傾向気味の動きは何度見ても破壊力抜群!

 それに中心軸のプロットは今回はかなり異色ですからね。テレビでやったネタだけじゃさすがに映画の長尺は持ちませんから、今回はビーンに好意を持つ美人の女優さん(ミニクーパーの塗装のセンスもドンピシャ!)が出てきて結構後半でストーリーに絡んでくるんですよ。まさかビーンでラブロマンス!?
 でもビーンって女性のヌードも見れないほど異性に興味がなくて(さすが精神年齢8歳)、おかげでクリスマスには彼女に逃げられたことがあるのですが、今回もあんな美人な女優さんにキスされて、その直後に拭ってますからねw。ほんとあんたって人は・・・ 

 さて今回でビーンは最後の作品になるらしいのですが、最後の作品である今作にビーンの唯一の相棒であるクマのぬいぐるみの「テディ」(あと宿敵?リライアントリーガル)が登場しなかったのはとても残念!(これが☆4の理由)
 そしてやっぱり「アメリカ」「フランス」とアウェーで戦ったのだから最後はやっぱり母国「イギリス」を舞台にした映画版を作って終わりにしてほしいなあ(テディにも会いたい!)。
 もう一回やってくれませんか?アトキンソンさん!
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