『はじめての構造主義』

 タイトルに偽りなし!

 著者はご存じ橋爪大三郎さん。中学生でも完全に構造主義を理解できる。本当にマジだって!あのベストセラー哲学本『ソフィーの世界』の10倍分かりやすい。『構造と力』の1000倍分かりやすい。そして口調が面白い。みんなこれを読んで、無知な大人をせせら笑ってやろうぜ!

 とにかく説明が巧い。もう天才的。小難しい言葉を並べて誤魔化そうなんて文章は一切ない。全部面白いけれど、特に構造主義のルーツを数学に探る第三章は必見!
 なぜ複雑系数学(カオス理論や位相幾何学)を学ぶマルカム(『ジュラシック・パーク』に出てくる数学者)がハンナ・アーレントを引用していたりしたのかが、納得した。納得しまくった。
 この第三章で、近代以降の科学と哲学の歴史がどうリンクしていたかが、ほとんど分かる!ああ、こんな本を私は待っていた!

 ・・・といってもこの本は2009年に出た新書だけど書じゃない。「第四章 構造主義にかかわる人々」で「こないだM・フーコーが死んじゃったよ」とか書いてあって「ええええ?」って驚いたんだけど、実はこの本初版は1988年で、その名作を新書として再販したんだ(ちなみにデリダさんはこの前まで生きていた)。
 そのおかげで私はこの名著を本屋で買う幸運に恵まれたわけだ。ありがたや~。

 そういえば、最後の方にジャック・ラカンについての簡単な解説があるんだけど、やはりラカンは難しいようだ。プロの橋爪さんでさえ「彼の書くものは難解を極めている。『エクリ』が主著だが、むずかしくて、何を言っているのかよく分からなかった(206ページ)」って本当に書いてあるんだよ(笑)。
 ラカンの鏡像段階論についてはYukiko T.さんの記事に触発されて、このブログでも批判的に取り上げたことがあるんだけど、それは私の勇み足だった気もする。
 本家フランス人でも読解できないような本を作ったラカンも悪いけど、ラカンはやはりそこまでバカじゃない。ラカンの言う「鏡像」とは言葉通りの鏡に映る像ではなく、もっと比喩的なものの(アナロジーでしかない)可能性がある。
 橋爪さんは「鏡像」を「自分以外の全てのもの」と説明している。なるほど。これならラカンの鏡像段階も納得できるぞ。つまり赤ちゃんは、自分と自分以外のものを区別できずにまるごと自分の一部だと受け止めて、強引に自己同一性を作り上げてしまうということらしい。
 中学生や昨今急増中の子供大人の病気(セカイ系症候群)の原因もここにあるんだろうなあw。一気にラカンが好きになった。そして誤解してごめんよラカン。でもやっぱり原著『エクリ』は難しいから読みたくないわ。
 
 あと第五章のポスト構造主義批判は明快かつ痛快!本を締めくくるのにふさわしいラストだ。ポスト構造主義は構造主義に対する本質的な批判になっていないというのだ!その理由がいちいち鋭くて大爆笑。
 言うならばポスト構造主義は構造主義に匹敵し得るような学術体系にすらなっていない。構造主義があったおかげで存在できる金魚のフンなんだ。文句だけ言って「じゃあその代わりの体系は?」って聞くとないんだよ。せいぜい苦し紛れで言ったのが「リゾーム」くらいのものでさ。
 でも構造主義のパイオニアであらせられるレヴィ=ストロース様は器が大きいから(もしくはポスト構造主義なんてはなから眼中にないからか)全然それをほうっておいて、むしろ「批判大いに結構結構」って余裕のスタンスなんだよ。
 つまりポスト構造主義は、論者が言うような構造主義を揺るがすほどの批判になっていないんだな。

 とにかく本当にみんな買った方がいいって!たった720円だよ?でも中身は7200円に匹敵するよ!それくらい濃い読書体験ができる。全然難しい本じゃない。小学四年生でも読める!それは私が保証します!モバゲーなんて捨ててしまえ!

 最後に私が気に入った素晴らしい一文を。

 人間の思考は一直線に進歩していく、と考えるのがあまりにも単純であることの。もしかすると、人間の思考のレパートリーはあらかじめ決まっていて、それを入れかわり立ちかわり、並べ直しているだけなのかもしれない。歴史をしっている文明社会は、ただのなにかのはずみで、それをストックしていっただけなのかもしれない。(181~182ページ。強調は引用者)

 これら(構造主義の源泉であるマルクス主義、地質学、精神分析)に共通するのは、目に視える部分の下に、本当の秩序(構造)が隠れていると、想定している点だ。(206ページ)

 構造主義――自文化を相対化し、異文化を深く理解する方法論――はきっと大いに役に立ってくれるに違いない。(232ページ。ラストの一文)
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