32.キリンは完全体か

 さて、このような話をすると、さも「キリンA」が究極進化生物、環境に適応しきったパーフェクトな完成品というイメージを持つ人もいるかもしれない。
 事実この首の長いキリンは長い歴史において様々なライバル(戦友=とも)を蹴散らしてきた強者だ。以下に現在のキリンのメリットを列挙してみよう。

①首が長いので誰も食べられない高い所の植物に頭が届く

②舌が長いので、痛くて誰も食えない棘のあるトゲアカシアを上手に食べることができる。

③首をしならせてぶっ叩く一撃は1トンの物を1メートル高く吹っ飛ばすほどの威力。

④背が高いので遠くの外敵にいち早く気付いて逃げることができる。

⑤脚が長いので体の位置も高い。そのためライオンもなかなか体にしがみつけず、蹴りで返り討ちにされる。だからライオンはキリンをほとんど襲わない。「あいつはヤバすぎる・・・」と。

 この様に見てみるとキリンはサバンナ最強動物のような気もするが、しかしそれと引き換えにおめえさん何か大事なものを忘れちまったんじゃねえのか?って感じで、背の高いことに関するデメリットも実はかなりたくさんある。

①いちいち横になるのが面倒なので立ったまま睡眠、そして出産(動物園では横になって寝る場合もある)。

②高い位置にある頭に血液を送るためにとんでもなく血圧が高い。上が260、下が160。だから麻酔を打って眠らせる場合、頭を上に向けていないと脳に血が行き過ぎて異常が出てしまう。

③気管も長いので、窒息しないように深い呼吸をたくさんの行わなければならない。

 お笑い芸人「さまぁ~ず」の妄想ではないが、キリンライフもなかなか大変そうだ。ではこのデメリットを引き受けながらも、今なおキリンの首が長いのはなぜか?
 現在「ダーウィンのドーベルマン」として知られる生物学者リチャード・ドーキンスはこのように言っている。それはトレードオフの原理が生物の進化に働いているからだ、と。
 つまりメリットがほんの少しでもデメリットを上回ればその動物は現在の環境に適応したことになり、淘汰を免れ生き残るのだ。
 会社の経営と一緒だ。赤字が黒字を上回れば遅かれ早かれ倒産(=淘汰)だし赤字を出してもそれより黒字が多ければ、経営は順調(=適応)だと言える。生物の進化に100%いいとこどりの完成形などない。
 そして時代と環境が変わり、背の高いアカシアが滅んでしまえば、首の長いキリンの時代は終わってしまう・・・
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