「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆」
偉大な人物になれる男だが私に反発している。
偉大な人物になりたくないのよ。あなたがそう願っているだけ。
自慢だけど私って高校の頃一期だけ生徒会長をやっていて、全校生徒の前でいろいろスピーチする機会があったのですが、人前で話すのって場数を踏めば別に全然慣れちゃうもので、私は一度もカンペを見て喋りませんでした。ほぼアドリブ!
で、これは仕事によっちゃ悪い例だと思う。最近政治家の失言が多いけど、あれも人前で話すのに慣れすぎて、自分の立場を一瞬忘れちゃうのだろう。
この映画で吃音に悩む英国王ジョージ6世(元ヨーク公アルバート王子)はこれとは間逆。幼少期の厳しいしつけで、自分に自信が持てず失敗を常に恐れているようなところがある内気な彼は、兄貴がエロすぎたことから突然英国王を引き継ぐことになってしまう。
失敗を過剰に恐れるこの人が、こんな立場にいっちゃったのだから、心中察して余りありますよね。まあそれが逆に責任感のある立派な善良王になれたのかもしれないけど・・・
王室は生けるものの中でもっとも卑しい存在になった。我々は役者になったのだ。
と、作中先代の王が王族の役割の変化をアルバート王子に説教するシーンがあるのですが、確かにラジオやテレビの出現以降、大衆に積極的に語りかけるリーダー像がもてはやされるようになったよなあ。
ぶっちゃけジョージ6世はヒトラーの演説の映画を見てこいつうまいなあって羨ましがっていたほど。でもヒトラーの演説だけがスピーチの正解じゃないからね。真面目かw!
そのヒトラーと結局イギリスは戦争に突入することになってしまう。ボールドウィン首相はヒトラーを見抜けなかった、このリハクの目をもってしてもとかわけわかんない言って(※言ってません)ジョージ6世を置いて内閣総辞職、弱腰首相と知られるチェンバレンに首相の座を譲ってしまう。
そもそも王の立場すら嫌だったアルバートが、誰もやりたくないであろうこんな激動の時代のリーダーをやるはめになっちゃったのだから歴史は悪意あるよ。
王としての素質があるかないかなんてわからない。ただもう王となっちゃったからにはやらなければいけない。
西部邁さんは職業(オキュペーション)の意味とは「専従する」ということとか言ってたけど、確かに仕事なんてもんは、自分に素質があるかないかなんて置いといて、とりあえずやり続ければうまくなって、いつの間にか「オレの天職だ」とか言いだすものかもしれない(げんきんなヤツw)。
だから今の若者って自分に合った仕事をするっていうのに執着しすぎなきもする。これは自分自身を戒めるためにも言っています。
今の私がアメフト選手になることはほぼ不可能だろうけど、こういう思考の仕方はせっかくの選択肢を減らしているのではないだろうか?
『英国王のスピーチ』って結局、震災で電車が止まった影響で、惜しくも映画館で見れなかったんだけど、今観れて逆によかったと思う。
ベタかもわからないけど、今の日本の状況とすごい被って見えるんだ。菅さんにしろ野田新総理にしろ、実際こんな状況のリーダーなんてどう考えても貧乏くじなんだ。
なにをどうやっても叩かれる。これはブッシュジュニアの後を継いだオバマさんも同じだろ。
イギリスの王は内閣総理大臣じゃないから、政治を直接動かすことはできない。ただの海軍士官の私に何ができる!?と自分の無力さを嘆くシーンもある。
でもリーダーであることには変わらない。ジョージ6世は自分の弱さを認めながらとにかくあがいた。時にはビー玉を口に入れたりもした。
しょうもない女を取って王位をあっさり捨てちゃった兄と違い、ジョージ6世は臆病すぎて、仕事をほっぽり出して逃げ出すことができない。そんな大それたことする度胸がないから。逆説的だけど勇気のないことが彼を勇者にした。
つまり「お前には忍耐力がある」とお父さんに言われていた通り、リーダーとして大切なのは辛くても投げ出さない心の強さなのかもしれない。
だから菅さんってけっこうすごいリーダーだったんじゃないか?って再評価されるかもな。利権にしがみついていたわけじゃないからね。
すごいリーダーってなんなのだろう?リーダーがリーダーの素質さえ持っていれば、さもすごいリーダーになれるようにビジネス本とかには書いてあるけど、あれウソだと思う。
リーダーを取り巻く環境、時代がリーダーをリーダーにたらしめると思うんだよな。ジョージ6世は時代に見放されたところもあるけど、家族にも友人(言語聴覚士ライオネル・ローグ氏)にも恵まれた。それがリーダーとは最もかけ離れた位置にいた人間をリーダーにしたんだろうな・・・歴史って面白いね。
映画の構造としてはメチャクチャ教科書通り。対照的な二人のキャラを作るとドラマチックになるという物語作りの王道をやってます(スピルバーグの法則)。
人前で喋る機会はあるけど喋りが下手で嫌いな王、本当は俳優になりたいけど機会に恵まれない饒舌な言語聴覚士・・・とっても構図が分かりやすい。
それ以外のキャラクターはほぼ脇役として割り切って描いたのもいさぎよい。さすが主な登場人物が一人と言う「ミスタービーン」の国英国や~
あとコーチングの文脈からこの映画を論じている人もいそうだから、あまり掘り下げないけど、ローグさんに学歴がないのがいいよね。
日本もイギリスも階級や学歴と言った相手の権威で対応を変えるところあるじゃん。いくらその人に実力があっても「こいつは博士課程も取ってないなら学者として二流だ」とか決めつけちゃう。事情も考えずに。
でもジョージ6世は葛藤の末、資格のないローグ氏をコーチとして信頼し託した。ここで二人は真の友人となれたわけだよね・・・う~ん作り方がベタすぎてわかりやすいけどうめえ。
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