『ごっちゃんです!!』語り解禁

 私のブログではプロの漫画作品の感想は意図的にやらないようにしていたんだ(映画はやるけど…)。だって素人の分際で偉そうだし、じゃあてめえはこれを描けるのかってなるじゃん。でも『ごっちゃんです!!』はやっぱどうしても喋りたくなっちゃうよね。今まで読んだ中で一番好きな漫画だし。
 
 つの丸先生は『モンモンモン』野球編や『みどりのマキバオー』とか描いていた位だから、スポーツ漫画が好きでけっこう読みこんでいたんだろうな。『アストロ球団』とか『あしたのジョー』とか。だからスポーツ漫画特有の文脈を知ってる。
 スポーツの文脈とスポーツ漫画の文脈ってやっぱり微妙に違うんだよね。それをどこまで「ご都合主義」とか言われずに騙せるかだよね。これはかなり難しい。K氏の言う『スラムダンク』と『アヒルの空』の違いってやつ。

 そもそも、つの丸先生は今まで動物の擬人化漫画をやってきたんだけど、先生自身も仰っているように『ごっちゃんです!』では人間の擬獣化を試みているんだよね。
 動物って見た目は可愛いけど何考えているか分からないし、親切にしたって向こうは感謝もしない。それでも人は愛でてしまう。典型例はネコ。
 正確にはごっちゃんのモデルはネコじゃなくてウサギなんだけど、まあ似たようなもんだろう。でなんであいつらは態度も悪いのに愛されて人気ペットのポジションにいるかって言ったらやっぱり「外見」な気がする。あれが見た目がテヅルモヅルとかだったらみんなグロくて飼育してない。

 動物じゃないけど(いや動物かw)峰不二子ちゃんのような自分勝手でわがままな小悪魔系女性を好きな心理も、やっぱり利己的ながら「可愛い」って言うのがあるんだろうな。
 また仮にそんな美人じゃなくても、その人がふと見せるそぶりが可愛かったら、多少態度が悪くても許せてしまう。もっといえば「ブサ可愛い」って言うのもあるらしいし。
 かつて「BSマンガ夜話」で『みどりのマキバオー』を取り上げた時、マキバオーの声をやった声優の人が「あまりに不細工すぎてかばってやりたくなる」とかいうようなことを言っていたけど、確かにこれはブサカワ心理の一つの根拠にはなっていると思う。
 まあマキバオーはごっちゃんみたいに態度も悪くないし、なによりも人間と普通に会話していたから、そこはかなり違うんだけど・・・
 そもそもマキバオーはその不細工にも負けず本編でけなげに頑張っている描写があったから一般受けしたのかもしれないし。

 それに対してごっちゃんは見た目はマキバオーと同じブサカワキャラなんだけど、言葉を発しないし、特に健気ってわけでもない。どちらかというと尊大な奴だ。
 つまりまずもってつの丸先生の画風を可愛いと思えなきゃ、ごっちゃんは単なる「ムカつくデブ」で終わってしまうってこと。
 で、ホントにそこで終わっちゃっている批判が多かったことに驚いた。ムカつくキャラで笑わせるというのは『モンモンモン』からやってきたつの丸先生お馴染みの技法だからだ。それが通用しない。純粋なギャグ漫画ならともかくスポーツ漫画では許せないってことなのだろうか。

 なんかシンガーソングライターとしての所ジョージさん並に過小評価されている気がするけど、つの丸先生って実は(「実は」っていうのも失礼)画力も演出もすっごい高くて、漫画としての完成度は半端無い。
 だから後はあの画風が受け入れられるかどうかって単純な話なのかもしれない。つの丸先生の絵を少しでも可愛いと思えれば『ごっちゃんです!』の評価はかなり変わると思う。

 『ごっちゃんです!!』で具体例を挙げてみよう。この漫画には「カチ」っていう超おっかない凶暴かつ馬鹿なジャイアンみたいな先輩が出てくるんだけど、実を言うとごっちゃんの最大のファンはカチなんだ。何とカチはごっちゃんが関取になった時も国技館に応援に駆けつけている!ここら辺の作り方がすごいうまい。
 ツンデレってあるけれどカチはまさにツンデレに近い。アキラや純太、さらにヤンキーでさえ恐れるカチなのに、ごっちゃんにはすっごい優しい。このごっちゃんにだけ見せる可愛い一面。そしてキタジやヒデといった同学年(実はダブったんだがw)と絡む描写がカチの魅力を重層的なものにしている。

 また、少年漫画のポイントとして「弱点を作る」というのがある。ドラえもんならネズミといった具合に。超凶暴なカチにも天敵がいる。それがOBのランディー先輩だ。カチは絡む相手によってさまざまな一面を見せてくれる万華鏡のようなキャラ。
 さらにさらにカチは最後の最後にまだ新たな一面を見せてくれる。どれだけあるんだって感じだけど、主役のごっちゃんが作劇設定上動かしにくい分、カチがもう一人の主人公となってくれているのだろう。少年漫画の展開の王道「成長」を見せてくれるのがカチだから。 
 
 つの丸先生の漫画って男は顔じゃないを実践してそれができているからカッコいい。K氏が言うとおり単行本5巻の48ページのカチは惚れる。あんなゴリラみたいなキャラにさえ愛着を持たせてしまうのだから、つの丸先生の「キャラ力」は尋常じゃ無い。
 最近は見た目だけで誤魔化すアニメや漫画が多いけど、つの丸先生は見た目であえてハンデを背負いながらも漫画力でそれを補ってしまう。もちろん見た目でハンデの無い読者はさらに楽しめる。
 例えば大きな角を持つシカはメスにモテるんだけど、よく考えると大きすぎる角は邪魔で生存戦略上ハンデキャップになる。なのになんでメスはそいつと子供を作りたがるんだろう?って謎があった。
 これをハンディキャップ理論っていうんだけど、つまり俺はこんなハンデを背負えるほど生命力や競争力があるぜってことらしいんだ。
 
 このように『ごっちゃんです!!』の大きな魅力となっているのが「カチ」に代表される脇を固める先輩キャラだ。
 相撲部というなんか上下関係もけいこも厳しそうな部活の話なのに、やたら読後感がいいのは先輩が優しいからだ。その理由は簡単で後輩のくせにとんでもなく偉そうなごっちゃんをなんだかんだ言って受け入れているから。
 その中でも特に三年生ってやっぱいいんだ。キタジ先輩みたいな人は本当「上司にしたい相撲取り」だよw賢くて冷静でめっちゃ頼りがいがあって強い。パーフェクトな男。カチの女房役をやっているだけあってすっごい気配りもできて優しい。

 また描写としてはそこまで多くはないんだけど、主人公たちのライバル校「甲山工業高校相撲部」もアレだけの断片的なカットで、部内の雰囲気を読者に感じさせてしまうのだからすごい。
 たった五冊しかない漫画だけど作者の中でちゃんとイメージが完成されていたんだろうな。

 この漫画ってやっぱり少年ジャンプではあっさり打ち切りになっちゃった漫画なんだけど、五冊でサクッと終わったってのも実は逆によかったのかも。何度も何度も読み返しやすいしね。
 とにかく何から何まで漫画の作り方の勉強になるし、純粋に読み手として楽しめちゃう『ごっちゃんです!!』・・・まあ人にお勧めはしないけど私のフェイバリット漫画です。
 最近の美形キャラばっかでてくる漫画に食傷気味の方は中和剤として読んでみたらいかがでしょうか?

 最後にふと思ったんだけど、スポーツ漫画はいまだに「友情」「努力」「勝利」がちゃんと機能しているジャンルなんだろうか。
 なんでこんな事言うかと言うと、もはや一部の野心家をのぞいて「勝利」というものに熱くなれない時代だと思うかただ。
 「勝利」という目標がこければ「努力」がこける。だからどういう風に今の世の中にスポーツ漫画が最適化しているのか気になるんだ。相変わらず同じことをやっているのか。

(※余談だが、実は『ごっちゃんです!!』の最後の試合は結末が描かれてない!かつてのジャンプ漫画だったら必ず明確な「勝利」を描くはず!)

 「スポ根」だけがスポーツ漫画ではなくて、生涯スポーツ論やリーダー論、マネジメント論、コーチングの観点からだってスポーツは描ける気もする。スポーツじゃないけど『オーケストラ!』とか『英国王のスピーチ』がそれに近い。
 面白いのはさ、芸術系の部活の漫画だよね、音楽(のだめ)とか美術(ハチクロ)とか。そういう部の「勝利」ってなんだ?コンペ出典とか?まさか『けいおん!』はメジャーデビューが目標の漫画じゃないだろ。
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