「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆」
探さなかったのは探しだす意味がなかったからだ。
世界一銀行強盗が起こる街らしいボストンのチャールズタウンを舞台にしたギャング映画。って言うと北野映画的バイオレンスものって感じがするけど、なんというんだろう、この映画って上手く言語化できない爽やかさがあって心になんか引っ掛かるんだ。
でもそういうとまた誤解を生みそうなんだよな~別に青春映画とかなわけじゃないし、結構結末はそれなりに悲惨なんだけど・・・む~・・・創作ってやっぱ奥深いなw
あらすじだけ読むと、けっこうベタなんだよね。ある若者ギャングが昔馴染みの友達と共にいつものように銀行強盗を実行するんだけど(!)そこで人質にした美人銀行員と恋に落ちてしまうって感じ。
でもあらすじ斜め読みして「な~んだありきたりじゃん」って馬鹿にしちゃ勿体ないぜ。確かに前半の展開は結構ありがちな「なりすまし劇(の亜種?)」なんだけど(三谷幸喜ならここはこうやってコメディにするな~とか見てたw)中盤から後半の熱量がなんかすごい。脚本のここの技術がどうこうとかじゃなくて全体的なアベレージ、お話の持っていき方がただただ上手いんだ。
まあ、とにかく重火器持って銀行や現金輸送車を襲うんだから、ちびっ子ギャングのいたずらのレベルを超えているんだけど、なんていうんだろ、当の本人たちは本当駄菓子屋で万引きする感覚でやっちゃうから、あんまり悪党に見えない。
だって小学生が駄菓子屋で万引きした位で「こいつらは悪の権化だ!」ってあんまり憎まないでしょう?しょうがねえなあって感じじゃん。
高校生くらいがやるとさすがにワルのレールを感じちゃうんだけど、やっぱこの映画のギャングたちって描き方が上手いのか『ルパン三世 カリオストロの城』みたいに清々しい。
こういう勉強できない悪ガキって小中学校の頃は結構いたんだけど、やっぱり義務教育が終わっちゃうと途端に疎遠になっちゃうよね。別にケンカ別れしたわけじゃないのに。
最近リアルが充実していないのか、子どもの頃の友だちと遊ぶ夢をよく見るんだけど、やっぱりあの頃は付き合っている友達の「振れ幅」が大きかったと思う。
いい子、悪い子、賢い子、バカな子、金持ち、貧乏人、いろいろな子どもが強制的に一つの部屋に放り込まれていたから、本当社会に出てサラリーマンをやるよりも社会を学べたような気がする。
大人になるとなんか似たような仲間とばかりつるんじゃうんだよね。ツイッタ―だって「クラスタ(特定の興味によってできるフォロワーのまとまり)」ってのができるくらいだから。
で、他者の些細な違いを受け入れられなくなってしまう。まあさすがに「銀行襲撃なう」は受け入れられないけどさw
でも仮にこいつらが『刑事ナッシュ』とか『24』とか『CSIマイアミ3』とかの刑事ドラマの世界で同じことをやったら、問答無用で撃ち殺されちゃう悪役Aになっちゃうんだろうな~って考えると、作劇の仕方で同じ事象もどうにでも描けるってことだよね。
みのさんの「どうぶつ奇想天外!」とかで、ペンギンが主人公の回ではオタリアってすっごい凶悪で残虐非道な海の殺し屋なんだけど、オタリアが主人公の回ではシャチ母子の知育玩具にされちゃうかわいそうな奴になっちゃうんだよ、あれと似たようなもんだよね。
とはいえ彼らの犯罪を決して軽く描いているわけではなくて、銀行強盗に巻き込まれた女性銀行員がトラウマになるシーンや、主人公たち実行犯を裏でピート・ポスルスウェイトさんが操っているシーンとかもあって加害者と被害者の関係を重層的に描いていたりする。
主人公は加害者でもあり、チャールズタウンの被害者でもあるのだ。陳腐な表現だけど、やっぱり人間って親と生まれる街は選べないわけで、そのスタートラインで人生の半分以上はすでに決定されちゃうんじゃないか?ってこの映画を観ててすっごい感じた。
人間の人生ってぶっちゃけなるようにしかならなくて、それを死ぬ前にどれだけ受け入れられるかどうかだけなんだろうなって思う。個人差はあるけど今まで全ての人が例外なく老いて死んでいったわけだからね。
それに私って近代的な「自由意思」なるものもあまり信じてないから、自分の運命は自分で切り開く!って言う考え方もなんか違和感があるんだ。
なんか典型的な「いまどきのバイタリティーのない若いもん」の思考って感じがして情けないけど、おれ達は世代的に高度経済成長もバブルも知らないんだから、いかにこの慢性的不況と、ぬるま湯的な豊かさに付き合っていくかだよね。どっちもいずれあっさりなくなる気もするけど。
ただこの考え方も突き詰めて考えると、まあつまらないニヒリズムだ。私一人で日本の不況や栃木県足利市は変えることはできないけれど、そんなに嫌なら群馬や埼玉に逃げてもいいし、日本が嫌なら国外逃亡だってできる。別に銀行襲ったわけじゃないんだから選挙に出たっていいわけだしね。
でもやらないし、できない。それで「ぶーぶー」街(=自分の置かれた境遇)の悪口を言ったり未来を悲観している人が最近すごい多い気がする。
この映画の主人公ダグ・マクレイはそういった意味ではあがいた。これじゃダメなんだって。友達や家族や町や過去を捨てて、まっとうな人生をやりなおそうってあがき、その希望の象徴が女性銀行員だったんだけど、結局多くの犠牲を払って街は出れたものの彼女との堅気の生活は手に入れられなかった。
この映画に「ひっかかり」を感じた大きな理由は、生きて街を出られた彼が最後のシーンで何を思い感じているのかがうまく想像できないところだ。
私、絶対この主人公も「たけし映画」のように最後は死ぬと思っていて(犯罪者Aだしなw)それが予想を裏切って無事生きて警察から逃げられたんだから、普通の映画なら「よかった~!ハッピーエンドでスッキリ!ちゃんちゃん」ってなるんだけど、なんかすっごい複雑な気持ちになったwそれは決して「なんだよ結局助かっちゃうのかよ、甘っちょろい結末だな~」とかではなくて。
それはやっぱり最後に見せる彼の何とも言えない表情のせいなのかもしれない。友人や家族を失った悲しみなのかな?それともアメリカにいる限りおっかけてくるであろうFBIへの恐怖なのかな?そのどちらでもない虚無感なのかな?
『ジュラシックパーク』の原作小説の最後のセリフって知ってますか?「もともと人はどこかへいけるわけではないのですよ」なんだよ。
最後にラストのテロップについて。
チャールズタウンは強盗の温床として名高い。だが昔も今も市民の多くは善良は人々である。この作品を彼らに捧げる。
捧げられても!
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