調整室を追い出されるミグ
ミグ「おい!話は終わってないぞ!」
社長「こっちは終わった。」
マネージャー「まったく最近のファンはマナーがなっちゃいないですよね・・・」
調整室のドアが締められ鍵がかけられる。
ミグ「ファン・・・そうだ・・・!」
客席の方にかけていくミグ。
大熱狂の客席。
カメラを構えるファンに話しかけるミグ。
ミグ「なあ君らファンだろ!」
ファン「なんだこのおばさん」
「ライブ中ですよ。迷惑だなあ・・・」
「頼む、今日のライブの曲で最もジュリエッタが映える曲を教えてくれ!」
「それなら・・・今歌ってる曲だよ。」
ミグ「え・・・!?じゃあ、この曲のどの部分の振り付けが一番ジュリエッタを抜ける!?」
「二番のサビでしょ。だからもうそろそろどいてくれない?」
インカムを押さえるミグ「ライト分かった!この曲の二番のサビでジュリエッタは一人になる!」
バックステージ
猛スピードでステージへ駆け出すライト「ってもうやないか~~!!」
・
ステージ。
数え切れない観客の熱気に圧倒されるアリエル
目をつむって衛星ファーディナンドでライトにだけ歌ったコンサートを思い出す。
ライト「さあ、聞かせてくれ!客はオレだけや、これなら緊張もせんやろ!」
リラックスして歌いだすアリエル。
会場の空気が変わる。
ファン「なんだあの子・・・すげえ・・・!」
・
バックステージ
ステージ横のライトが、客席からステージの方に向かって銃を構える警備員を見つける。
ライト「いた!ミグ!今、お前のいる場所からステージの方へ10メートルいったところや!」
ミグ「分かった!」
ピストルの引き金に手をかける警備員。
ライト「あかん間に合わへん!!」
ライトがステージに飛び出してくる
「ジュリエッタふせろ~~~~!」
ライトがジュリエッタに飛びかかり押し倒す。
銃声
人が撃たれて倒れる音。
会場が絶叫する。逃げ惑う人々。
警備員「落ち着いて!落ち着いてください!!」
会場はパニックになる。
ステージ
ライト「はあはあ・・・大丈夫か!?」
ジュリエッタ「ええ、私は・・・でも・・・」
ジュリエッタがライトの後ろを指差す
振り返るライト「!」
二人の後ろでアリエルが倒れている。
ライト「アリエル!!」
アリエル「・・・え?」
殺し屋「なんだと!なぜ振り付けが変わった!!?」
殺し屋の背後からミグが体当たりする。
「ぐわっ!」
殺し屋を取り押さえるミグ「お前は本当に運がいい。昔の私ならお前を殺していた・・・」
・
ステージ
アリエルに駆け寄るライト「アリエル!!」
アリエル「生きてます・・・でも・・・これって・・・まずいですよね・・・」
口径の大きい銃で撃たれ上半身と下半身がちぎれてしまっているアリエル。
ライト「そんな・・・」
アリエル「そうか・・・私なんかがオーディションにあっさり受かったのは、私をジュリエッタさんの身代わりにするためだったんですね・・・うまい話ってないんだな・・・」
ジュリエッタ「だから事務所は直前に振り付けを変えたんだ・・・ひどい・・・」
ライト「アリエル・・・」
アリエル「・・・全て分かりました・・・私がなぜ生まれたのか・・・
私は最初からジュリエッタさんの模倣品として作られたんだ・・・
私の夢は・・・あらかじめプログラムされていたんですね・・・」
アリエルの胴体からは配線が飛び出ている。
涙を流すアリエル「私は・・・人間ですらなかったんだ・・・」
アリエルの上半身を優しく抱きしめるライト「・・・・・・。」
・
ライブ会場の地下駐車場
車に乗り込み逃げ出そうとする社長。
ゲオルグ「天王星に逃げ帰るのなら送っていくぜ」
社長「な・・・」
ゲオルグ「第7惑星プロ、ジェームズ・キャリバン。殺人容疑、及びロボット保護法違反で逮捕する。」
社長「何だお前ら・・・!?なんの証拠があってそんなこと・・・!」
ゲオルグ「ミグが捕まえた殺し屋が全て吐いたよ。言い訳は天王星で聞こう。」
・
その後・・・
オセロ第一警察署
喫煙エリアでタバコをふかすゲオルグ
ミグに新聞を見せる「ったく、またアイツがいいとこどりだ・・・」
「地球の冒険家、人気アイドルを救う!」の見出し。
新聞をめくるミグ。
二面には「九死に一生を得たジュリエッタ。天王星と土星の領土問題に平和的に取り組むことを宣言」のニュース。
ゲオルグ「取り調べの結果、土星の一部の過激派と第7惑星プロの犯行ということになった。」
ミグ「サーペンタリウスの関与は?」
ゲオルグ「・・・あの強欲社長に天王星が再軍備に向かうようにそそのかしたのは、どう考えても土星じゃないだろ。必ず真相を突き止めてみせるさ。」
ミグ「それで・・・あの子は・・・?」
ゲオルグ「ああ、あのアンドロイドか。第7惑星プロが事務所の命令に忠実に動くアイドルを作ったらしいが、機械で人の心は動かないと判断し持て余していたみたいだな。かわいそうに。」
警察署の庭。
ライトに修理されて一命をとりとめた車椅子のアリエルがぼんやりと空を見つめている。
アリエルの隣に座るライト。
ライト「なあ・・・また笑ってくれよ・・・」
アリエル「・・・・・・。」
ライト「オレ、アリエルの笑顔が大好きなんやけどな・・・
あんたの笑顔を見ていると・・・恥ずかしいけど・・・夢を決して諦めなかった初恋の人を思い出してまうねん・・・」
「・・・その人・・・夢は叶いました・・・?」
「ああ・・・絶対叶わへんとみんなに馬鹿にされた夢やったけど・・・叶えたよ。」
「・・・叶ったんだ・・・。」
「キミといっしょや・・・」
「そうでしょうか・・・」
「キミだって夢を叶えたやないか。
ジュリエッタのライブに出て大勢のファンの前で歌ったんやから・・・」
「でも・・・人間でもない私の歌なんて気味悪がって誰も聞きませんよ・・・私の声はジュリエッタさんのサンプリングでしかない。」
「そうかな、少なくともあの会場にいたお客はみんな感動したんちゃうんか?
それに海兵隊どもだって・・・アリエルが人間かどうかなんて関係ないんやないか?」
「じゃあ、私と結婚してくれますか?」
「え・・・?」
「人間かどうか関係がないなら、私と・・・!」
真剣な表情になるライト「ああ、お前がそれでええなら結婚でもなんでもしたる。
でもアイドルの夢はいいんか。お前の大事な夢やったんやないのか。
オレが大好きなアリエルは、どんなことがあっても決して夢をあきらめないんや。」
微笑むライト
アリエル「・・・・・・。」
・
警察署の窓から庭を見下ろすミグ
ミグ「あいつ・・・何日も何日も彼女を励ましてる・・・」
胸に手を当てるミグ。
ゲオルグ「ふん、いつまでやってんだ。ま・・・相変わらずだがな。」
ミグ「あの・・・ライトとは古いんですか?」
ゲオルグ「ああ、まあな。前にあいつがこの星に来たとき、あの野郎、オレが長年追ってた事件を勝手に解決してまた飛んでいっちまったんだ。オレの刑事のプライドはズタボロだよ。」
微笑むミグ
ゲオルグ「何がおかしい?」
ミグ「いえ、私も同じようなことをされましてね・・・空から突然降ってきて私の暮らしはシッチャカメッチャカ・・・」
ニヤリとするゲオルグ「ふん、どこに行ってもはた迷惑なやつだな・・・」
ミグ「ええ・・・でもアイツに会えてよかった・・・」
居酒屋フォンブラウン
デニス「でもライト君が来てからあなた変わったわ・・・前は機械のように無表情だったのに・・・感情が芽生えたというか・・・彼はきっととっても人間的な人なのね。」
ミグ「ふん、あいつが?秩序は乱すしどっちかというと人でなしだよ。」
デニス「そうかしら。私は好きだなあ。ああいう男性。
正直言うとね、うちの旦那に似てるんだ。普段はノーテンキけど、ひとつのことに夢中で取り組めて、なんだかんだで必ず私の味方でいてくれる・・・助けてくれる。」
「独身の私には理解できん世界だよ」
笑うデニス「ミグ、忘れてるみたいだけど、誰だって最初はひとりで生まれてくるのよ?」
ミグ「私・・・あいつに何度命を助けられたんだろう・・・?何度孤独から救ってくれたんだろう?」
ゲオルグ「あんたもあのアリエルといっしょってことか。」
ミグ「それならいいな・・・」
・
トポロ劇場
バックステージ
アリエルの背中を押すライト「さ、行ってこい。」
不安なアリエル
幕が開く。拍手と大歓声。席は満席で立ち見もいる。
ファン「アリエル~~~!」
アリエル「なんで・・・」
ファン「俺たちファンは機械だろうが人間だろうが関係ない!アリエルの歌が聞きたいんだ!もう一度歌ってよアリエル!」
涙ぐむアリエル「・・・はい・・・」
・
リンドバーグ号に乗り込むライト
「じゃあなアリエル、すっごいアイドルになれよ~!」
リンドバーグ号に駆け寄るアリエル「ライトさん、ありがとう・・・大好き!」
離陸するリンドバーグ号。
リンドバーグ号船内。
ミグ「大好きだって・・・天王星に残っても良かったんだぞ、ん?」
ライト「からかうなよミグ。それに・・・アリエルはもう立派なアイドルやないか。」
ミグ「・・・なあ、ひとつ聞いていいかな?」
ライト「なに?」
ミグ「お前は夢を諦めたことって一度もないのか?」
ライト「・・・ないね。」
「前から不思議だったんだ。どうしたらお前のような強い心をもてるんだ?」
「・・・オレはな、ある人と約束したんよ。絶対夢は諦めないって。」
「約束?」
「その人はオレの友人でもあり・・・憧れの人だった。」
口をあんぐり開けるミグ。
「なんやねん・・・」
「お、お前にまさかそんな人がいたなんて・・・破天荒を絵に書いた君が・・・!」
「うっさい、もうその話は終わり!」
・
教会。
レオナの葬式が終わり出席者がぞろぞろ帰っていく。
最後に教会から出て、振り返り、空を見上げるライト
ライト「・・・わかったよ・・・」
・
宇宙を進むリンドバーグ号
歯磨きしているライト「おはよ~ミグ・・・ん?なんやこの明細書・・・
ミグ・チオルコフスキー様あなた様のシングルが売れ、印税収入が発生したので振り込み額をご確認ください??」
慌てるミグ「あ、勝手に読むな!」
ライト「お前いつの間に天王星で歌手デビューしてたんや!?なに?初音ミグ、ファーストシングル“寿司屋”?宇宙オリコン6万位ってすごいのかなんなのかわからへんけど・・・ちょ、歌ってみて!」
ミグ「やだよ恥ずかしい。」
「一回!その寿司屋って曲聞かせて~や!俺はお前の歌が聞きたいんや!」
「怒るぞ!」
おしまい
『80日間宇宙一周 Galaxy Minerva』脚本⑧
2012-08-27 15:36:27 (11 years ago)
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