アウトレイジ ビヨンド

 「面白い度☆☆☆☆ 好き度☆☆☆」

 模範囚が刺されるかよ。

 そういえば刺されてましたね。


 北野映画初の続編映画ついに公開!言うまでもなくこの映画は何ヶ月も前からすっごい楽しみにしてて、もう予告編のつくり方からしてワクワクして「えええ、どうなっちゃうの?」って感じだったんですが、見事に予告編に裏切られました。
 もう予告編でイメージしていたお話の筋と全然違う!公式サイトなどで説明されていたような単純な三つ巴抗争ではなく、ずっと複雑で立体的。

 わかりやすい起承転結のあるような物語ではなく、情報量が雑多でそれぞれのエピソードやシーンがバラバラに並列的に並べられ、伏線がとんでもなく緻密に絡まり合っている。
 なんというかクライトン作品で例えるならば『ネクスト』のような構成。伝わんないかwでも読んだ人ならわかると思う!

 北野監督は、出演者のたくさんの顔写真を机に並べて「これがこいつに恨みを持って、だからこいつは・・・」と軍隊の作戦本部の将軍のようにプロットを組み立てたらしいですが、それも納得。
 戦争になったらどないするんじゃボケ!というセリフにもあるように、これは人間の戦争をまるで神の実験のように描いたある種のシミュレーションなのかもしれない。

 だから、この世界に絶対的な力を持つチートキャラはいない。偉そうにしている奴もみんな立場が変われば命乞いも土下座も失禁もする。
 ・・・いや実はチートキャラいるんだけどそのチートキャラに対する使い捨てのチェス駒の最後の抵抗。それがアウトレイジビヨンドで描きたかったことなのか。

 たけしさんは公開前さんざんいろんな番組(ニコニコ動画すら)に出まくって「今回はエンターテインメントに徹した。今のテレビ番組はなんでもテロップが入ってて驚いた。あれくらいやらなきゃ今の視聴者はわからないのかって。だから今回はできるだけキャラクターに状況を言葉で喋らせて分かりやすく作った」とか言ってたけど、全然甘かったw

 分かりやすくセリフで説明することでいつもの難解さを捨てた分、情報量を増やして複雑化させたから結局すっごい頭を使って状況を整理しないと話が追えない。
 些細なセリフや描写まで全てが計算しつくされていて、ちょっとでも気を抜くとおいてけぼりを食ってしまう。
 やっぱりこの人常人の頭脳の持ち主じゃないわwこんな情報量のある脚本を新幹線で3時間では書けません(とはいえ震災で公開日が伸びてその間色々書き加えたらしいけれど)。

 さてこっからはネタバレごめんなキャラクターの紹介。これに関してはもうどうやってもネタバレになるので未見の人は読まないでね。
 絶対予想を裏切る内容になっている映画だから。

「大友」
 この映画ってなんか例えとしてどうかとは思うけれど、やっぱり『魔法少女まどか☆マギカ』に似ていて、この人はやっぱりまどか役だなあって。
 今回の大友の兄貴はとにかく消極的(まどかたる所以)。出所したあとはヤクザを引退して、以前にお世話になったフィクサーのおじいさんのコネで韓国にいくつもりだったし、もう年齢的な限界を感じている。
 ここらへんは「オレもう山王会とやる気ねえぞ」のセリフにすべてが詰まっている。たけしさんってちょっと前まで「オイラは最終的に芸能界のパンダになりたい」って言ってたんだよ。
 つまり、もう歳だし無茶なことは若手の人にやらせて、自分は上野動物園のパンダのように何にもしないでギャラをもらってればいいやと。確かにサーカスの動物と違ってパンダって何か芸があるわけじゃないもんね。
 最近は「あれ?この業界もしかしてパンダを買う余裕もないんじゃねえか」って思ったらしく、これまで以上にいろんな仕事を取ってお茶の間の私たちを楽しませてくれているんですが、とにかく今回の大友はちょっと前のTVタックルのたけしさんのように控えめ。
 そして相変わらずヤクザの義理や道理にこだわる。そこを利用されてまた大きな抗争に巻き込まれていくんだけれど・・・

「木村」
 この人が大友とコンビを組むとは思わなかった!一作目の顛末を知っていたら、もうその筋だけで続編見たくなるもんね。
 いや~木村さん相変わらずいい人wよく考えたら昔気質の大友とぴったりのキャラなんだよね。親分を尊敬し子分を大切にする、かっこいい兄貴分。
 しかしこの映画では決してヤクザを美化しない。屈折したアウトレイジの世界ではこういう人は結局貧乏くじを引いてしまうのだ。・・・ええと、さやかちゃん。

「嶋&小野」
 木村が面倒見ている子分。まるで少年マガジンのヤンキー漫画の主役のような、地元では負け無しの喧嘩上等コンビって感じだが、やっぱりアウトレイジではそういうものを手放しに礼賛はしない。
 一見爽やかそうに見えるヤンキーの若者も、結局カタギの弱い者(工場の作業員やウエイトレス)いじめて恐喝しているだけじゃんって事実をかなりリアルに見せてくれる。こんな奴らに絡まれたくないよなあ・・・
 木村や大友を慕って犬のように付いてくるが、マル暴の繁田に蹴り一撃でやられた挙句、山王会のボディガード舟木に惨殺される。

「加藤」
 山王会の現会長。物静かで話のわからない人じゃない。しかし加藤会長には大きなアキレス腱があった。自分が前会長を裏切り殺したことを見た人間がいたのだ。
 普通ならそんな奴消しちゃえばいいんだろうけど、加藤はそいつに他の古参幹部が羨む好待遇をしてしまう。そこがこの人の転落人生の原因。

「石原」
 山王会もうひとりの裏切り者。裏切り者って結局内心は怖くて怖くてしょうがないんだろうな。自分がやったことをいつ自分がやられるかわからない。
 とんでもない若さで関東最大の暴力組織のナンバー2にまで上り詰めたけど、古参幹部になめられないように必死だった。頭はいいのだろうが、大友の影に怯えて冷静さを欠き、刑事片岡や花菱会の策略に踊らされてしまう。
 CMでも分かるようにバッティングセンターのピッチングマシーンでお仕置きされる。痛いんだろうな、あれ。

「舟木」
 加藤の命を取ろうと無謀にも殴り込んできた少年マガジンの主役みたいなヤンキーコンビをあっさり返り討ち。ヤクザの世界はヤンキー漫画のそれじゃなかった。
 だが大切な子分をなぶり殺しにされた木村と大友によって、前作を彷彿とさせる痛いことをされる。先代会長の死の真相を知る人物でもある。

「富田」
 山王会の古参幹部。金より仁義の古いタイプのヤクザで、友達の白山、五味と共に加藤&石原新体制の愚痴をこぼす。なんというかクラスの中に必ずいるB級女子のグループっぽかったwだから友達にいいように担ぎ上げられ落とされてしまう。
 この映画の世界観を説明するために最初に犠牲になった可哀想なキャラ。いわばマミさん!しかし中尾彬さんが最初に退場するとは予想できなかったなあ・・・

「白山&五味」
 兄弟の冨田を切り捨てたのは自分たちがのし上がるためでは決してない。臆病者の彼らは自己保身のために兄貴分を見殺しにした。
 完全に冷たくもなければ情に厚いわけでもない、やっぱり女子みたいなコンビ。こいつらが結局山王会の会長とナンバー2になるんだけど、その時点で新生山王会の前途は多難だ。

「布施」
 関西花菱会の会長。ひょうひょうとした性格で、うまくすっとぼけながら山王会を徐々に潰していく徳川家康ばりの狸じいさん。
 宣伝では山王会と花菱会は勢力が拮抗、もしくは山王会の方が力が大きいって感じだったけど圧倒的な実力差で山王会を撃破。最終的には傘下にしてしまった。
 干しぶどう食いながら「ま、てめえの子分を平気でハジくようなやつはハナから救いようがな一ちゅうこっちゃな」とぼやく通り、実は花菱会の結束はかなり強い。内ゲバをやっていたのは山王会だけだったんだよね。

「西野&中田」
 花菱会の極悪コンビ。超怖かったです。実はそんなに出てこない!(衝撃の事実)
 花菱会の大物幹部はよそ者に簡単に心を許すようなお人好しじゃない。そう考えると山王会の人たちってガードゆるすぎだよなあ・・・彼らにとってみれば羊とか鴨ネギの類に見えたのだろうか・・・

「城」
 無口な凄腕ヒットマン。日本一贅沢な高橋克典さんの使い方だと思うw

「繁田」
 マル暴の刑事。先輩片岡のやり方に疑念を抱く。「ヤクザは人間のクズだからな!」と言いながら本当のクズのようにヤクザをみすみす死なせたりはしない。
 …なんというか体育の先生みたいな人だったw変な作業着だかジャージみたいの着てるしw

「片岡」
 もうね、アウトレイジビヨンドはコイツの話だってくらい終始出ずっぱり。嘘の情報を片っ端から流しまくってヤクザを疑心暗鬼にさせガンガン同士討ちさせていく。片岡にしてみればヤクザなんてみんな馬鹿に見えてしょうがなかったんだろうな。
 この映画のチートキャラでありゲームマスター。全部こいつの計画通りに動いていき山王会はほぼ壊滅。最後の最後の最後まで片岡の思い通り。ラストシーンを除いて。そりゃいいかげんにしろってなるぜ(笑)

 というわけですっごい情報量の映画でした!何度か見れば「あ、あれがこれのフリになってたんだ!」とかいろいろ気づくと思う。片岡の「オレの生き様見てろよ」とかw
 でも『魔法少女まどか☆マギカ』と一緒でキャラクター性はかなり希薄。ヤクザの言葉で「鉄砲玉」っていうのがあるけどそんな感じで、本当にみんなチェスのコマだもんね。
 チャートでもノートに書いて、この迷宮のようなプロットに散りばめられた仕掛けを探していくと面白い発見があるかもです。

 て、たけしの挑戦状かバカヤロー!
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