『80日間宇宙一周 CRIMSON WING』脚本①

とある農村部。
内戦状態の土星。
戦車の機甲部隊が農村の花畑をキャタピラで踏みしだく。
空は爆撃機で埋め尽くされ街が空爆されている。
炎で赤く染まる空。
街を追われた難民たちは恐怖と飢えに苦しんでいる。
定期的に聞こえる爆発音。

教会
ステンドグラスに祈りを捧げている人々。
教会の冷たい壁にもたれかかるようにして地面に座っている男の子と女の子。
かじかんだ手に息を吹きかける女の子。
ろうそくのあかりで壊れたおもちゃのお人形を修理する男の子
「できた・・・はい。クリスマスプレゼント」
女の子「うわ~ありがとう」
男の子「メリークリスマス、サーシャ」
人形を大事そうに抱く女の子「あのさ・・・神さまはいるよね?」
男の子「ああ・・・」
女の子「じゃあなんで何も悪いことしてないのにこんなに辛い目にあっているの?」
男の子「正しい人にも災いは降りかかるんだ・・・」
女の子「家に帰りたい・・・」

革命軍が教会に入ってくる
難民「革命軍だ!!」
問答無用で信者たちを捕まえていく革命軍。
祭壇を蹴飛ばす革命軍「科学の時代にくだらねえもん信じてやがる。」

教会の外に追い出される信者たち
革命軍兵士「オラ!とっとと歩け!」
銃を突きつけられる女性「お願いします!子どもたちだけは・・・!」紙幣を渡す。
金を受け取りニヤニヤする革命軍の兵士「どちらか一人だけだ。早く選べ。」
膝まづく女性「そんな・・・!」
カウントダウンをする兵士「10、9,8,7・・・」
怯える子供たち
「5,4、3,2・・・」
女性「選べない!」

怒りに震える男の子(こいつらは強いんじゃない・・・ただ武器を持っているだけ・・・それだけなのに・・・)
引き金を引く兵士「時間切れだ」

ナレーション「正義は一体どこにある!?正義はこれだ!」

悪のテロリストが撃ち殺される。
テロリスト「うわ~!」
戦場の空にシャープなデザインの真紅の戦闘機が現れる。
空を指差し歓声を上げる市民「プロメテウス社の新製品ミラージュが来てくれた!助かった~!」

ミサイルを担ぐテロリスト「くそがああ!」
真紅の戦闘機は地対空ミサイルをあっさりかわし、顔認識センサーでテロリストだけを機銃で正確に撃ち殺していく。

「民間人は絶対誤射しない超精密狙撃システム!」

テロリストが地下のシェルターに逃げていく。
テロリスト「へっへっへ・・・ここなら攻撃できまい・・・!」

「地下の敵も逃がさない!これが新兵器パイルバンカーミサイルだ!!」

戦闘機から巨大な杭のようなミサイルが垂直真下に発射され、地面の底が抜けたように吹っ飛ぶ。
シェルターのあった場所には大きなクレーターが残る。

「悪党どもに正義の鉄槌だ!!」
テロリストを殲滅し帰っていく戦闘機に手を振る市民たち。
「ありがとうSX32ミラージュ!」

VTRが切り替わりスタジオのセットを映し出す。
高級ブランドのスーツを着てメガネをかけたイケメン社長が笑顔でプレゼンをする。
ヴィンセント「いや~みなさんこんばんは!プロメテウス社CEOのヴィンセント・レイセオンです!
土星にいるテロリスト緋色の旅団、まったく困ったやつだよね!
ということで今回は最新鋭ステルス戦闘機SX32ミラージュを紹介だ!」
スポットライトが灯り、スタジオに巨大な戦闘機が現れる。
観覧客の喝采「ワ~オ!」

ヴィン「このミラージュ、なにが一番すごいかっていうと無人戦闘機だってこと!
自軍から一人の死者も出さずに作戦を遂行できるんだ!
戦いが長期化した軍隊にとっての悩みの種は戦死した兵士に対する補償だよね。
国防長官の手紙よりも遺族が欲しいのは軍人恩給だ。
しかしこのミラージュさえあればそんな心配はない。
敵地に出撃させたら、エアコンの効いたオフィスでコーラでも飲みながら吉報を待てばいい。
ミラージュは必ず作戦を成功させ戻ってくるでしょう。」
観客席の軍服を着た大佐が腕を振り上げる「イエ~!」

ヴィン「今回はこの最新鋭無人戦闘機SX32ミラージュと、奥様が嬉しいガンコな汚れも落ちるスチームクリーナー、キッチンの心強いお供トースターとミキサーもお付けして、お値段なんと5億アースドルでのご提供!分割金利手数料はすべてプロメテウスが負担!
このパイロットのいらない最強の武器で我々は永遠の安全と平和を手に入れることができるのです!私はここに宣言します!兵士諸君!死ぬような仕事はしなくていいから!
電話番号はフリーダイヤル・・・」

都市インフラ、通信技術、輸送機械、医療機器・・・
あなたの街を灯す企業プロメテウス


生放送が終わりピンマイクを外すヴィンセント。
テレフォンショッピングのセットの裏には会社の株価を示すモニターが並んで社員がコンピュータで取引をしている。
ヴィン「どうだ?」
コンソールを叩く社員「社長見てください!株価が・・・」
ヴィン「なんで下がってんの?発注のほうは?」
受話器に手を置いて首を振る社員「まだ一件も」
ヴィン「どういうことだ?」
大慌てで新聞を持ってくる副社長エド「ヴィンセント大変です!」
エド「天王星の大物アイドルジュリエッタが土星と和平交渉を進めました!
戦争は回避、軍需関連株はストップ安です!」

カッシーニ証券取引所
ジュリエッタの暗殺が回避されて株価が上がらず阿鼻叫喚のデイトレーダー。

スタジオ
新聞を折りたたむヴィン「テレビつけろ」
モニターにテレビのニュースが映る。60ミニッツ風のインタビュー。

レポーター「・・・つまりあなたが天王星と土星の架け橋になるということですかジュリエッタ?」
ジュリエッタ「ええ。これからはお互い憎しみ合うことをやめて共存の道を歩んでいきたいなって」


ヴィン「いきたいなじゃないよ。あれ、こいつ過激派に暗殺されたんじゃなかったっけ?」
エド「撃たれる寸前ジュリエッタを助けた奴がいて、弾は別の子に当たっちゃったみたいです。」
ヴィン「冗談じゃねえよ。まいったなあ、こっちは戦争の準備して待ってたってのに~調子狂っちゃうよ・・・」
パラパラと電話が鳴る。
コンソールの社員「発注の問い合わせは現在4件です。うち1件は間違い電話。」
ヴィン「土星でだよね?」
社員「いえ全宇宙で・・・(受話器に向かって)うちはチャーハンなんてやってねえ!」
ヴィン「全宇宙でたったそれだけなのか?」
エドの方を向くヴィン「冥王星は?これさえあれば無人で隕石も吹っ飛ばせるぜ。」
エド「あの星は政府が軍事産業にとんでもない関税をかけて国内メーカーを保護していますし、我が社も参加したノーチラス計画でクーデターが起きちゃったんですよ。」
ヴィン「それは気の毒にな。海王星は?」
エド「被災してデフォルトって騒いでいる星ですよ。」
ヴィン「我が社の兵器があったら隕石落なかったのにね。天王星の再軍備はもうないの?」
エド「その可能性は低いかと・・・あの星は政治家よりもアイドルの発言力のほうが強いですから」
ヴィン「・・・ったく誰だよジュリエッタ救った奴。
あ、そういえば二本撮りしたゴルディオンハンマー12のほうは天王星でバカ売れなんだろ?」
エド「ええ」
ヴィン「やっぱこれからは建設重機だよ!宇宙戦争の時代じゃねえよ。今度の航空ショーでも入札されなかったら、ミラージュのプロジェクトチームは解散するから。」
頭をかくエド「大変なことになってきた・・・」

ニュースでジュリエッタの暗殺シーンが流れる。
ジュリエッタが突然ステージに現れた男によって押し倒される。
TVモニターに見たことのある顔が映る

ヴィン「あいつは・・・」
エド「あ、彼ですよ。くだんの冒険家。」
ヴィン「いや冒険家じゃない・・・同業者だよ。」
エド「知ってるんですか?」
ヴィン「ライト・ケレリトゥス・・・この星にいたのか・・・くくく・・・面白い!」
エド「一体何者なんです?」
ヴィン「宇宙で最も恐ろしい最終兵器を作れる頭脳がありながら、ラジコンヘリしか作らない趣味人ってところだな。じゃ出かけてくるから」
エド「あの・・・二時間後の食事会は?」
ヴィン「ウチの商品を買わないやつとなんでメシ食わなきゃいけないんだよ。」

プロメテウス社の本社ビルの廊下を歩くヴィン
廊下にはプロメテウス社のたくさんの業績を讃えた記事や表彰状、写真が飾ってある。

「太陽系のボーダレス化に乗じて年商1000兆ドルかせぐ宇宙一の大社長ヴィンセント・レイセオンは死の商人?」

「プロメテウス社が医療分野にも革命!メディカルサーバー「ラ・メトリー」によって死を乗り越えた土星人。永遠の美と健康が実現!保険会社の倒産相次ぐ。」

「電気水道ガス、科学大革命で破壊された都市インフラを科学の力で再生。
万里の長城を発電所に改造――4万都市に灯り。市民に笑顔戻る。土星のモウタクサン国家主席から表彰」


通路を進むほど飾ってある写真が古くなり、記事が小さくなっていく。

「ベンチャー界の若きルーキーが語る夢――土星に住むすべての人を幸せにしたい」

廊下の一番奥に古い白黒の写真がかけてある。
若かりし頃のヴィンセントとライトが肩を組んで笑っている。
「前身企業ライト&レイセオン社創業」
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