『80日間宇宙一周 The Stargazer』脚本②

木星最大の国家アマルテア。
日干しレンガの建物が並び、エジプトや西アジアのようなエキゾチックな雰囲気を醸し出している。
遠くには巨大な宮殿やモスクが見える。
青空マーケットでは様々な人種が交易品の取引をしている。

オープンテラスのカフェ&バー。
ラジオ「――JNC木星民族会議のンゴロ・アルベド議長は“木星の新しい夜明けだ”と惑星連合の和平合意を歓迎しました。これにより帝国主義の時代から続いた植民地は木星からすべて無くなることになります。
しかし民族の境界を無視してひかれた国境線は今もなお資源をめぐる対立の火種となっており、平和への道のりは長く険しいと言わざるを得ません。
貧困と紛争に喘ぐこの星が真に独立するには、内政干渉と国境の変更を認めないというJNCの条項を変更する必要があり、アルベド議長は・・・」


カフェのテーブルで指を組むYシャツ姿のミグ。木星は大気の影響で気温が高いがネクタイはちゃんと締めている。
ミグ「・・・で?お父さんの病気は大丈夫だったのか・・・?」
ライト「ああ、死にかけてたよ」
驚くミグ「帰ってきちゃっていいのか!?」
ライト「・・・というかあっちが勝手に宇宙船から飛び降りたんや」
ミグ「飛び降りた!!???」
「もうほっとけばええねん。(ウエイターの方を向いて)あ、ロイヤルアイスティー頼むわ」

テーブルに置かれるアイスティー
ミグ「なるほど。つまり・・・純粋にお前に会いたかっただけなんじゃないか・・・?」
ライト「い~やあれはお宝のことしか考えてへん。教授は昔からそうやった」
ミグ「教授・・・?」
ライト「オトンって感じせえへんねん。だって会ったの10回もないから」
ミグ「え??」
ライト「ミグの親御さんが亡くなったのって、あんたが10歳くらい?」
ミグ「そうだね」
ライト「じゃあお前の方がずっと親と会ってるよ・・・あんたは親とうまくいってた?」
ミグ「ああ・・・優しい両親だったよ。たくさん愛してもらったし。尊敬してる。
だから突然いなくなったのがショックでさ・・・」
アイスティーをストローでかき混ぜるライト「ふ~ん・・・」
ミグ「・・・家族との思い出が少なかったのなら、今から増やしていけばいいじゃないか。
私にはもう二度とできないんだから」

路地の奥からガラスの割れる音とけたたましい車のエンジン音が聞こえる。
ライト「まったくこんな市街地でカーチェイスやるなや・・・どこのバカ・・・」
後ろをふりかえり、テラスの外を見るライト。
見るとトラックに乗った男たちがひとりの裸の男を追いかけている。
追っ手「てめえもう許さねえぞ!クリストファー、金を返しやがれ!」
肩を落とすライト「・・・・・・。」
パンツ一枚のクリスが両脇にケースを抱えてトラックに追いかけられている「出世払い!」

銃撃される裸のクリストファーを見つめて口を開けるミグ
ライト「あれと暮らしたい?」
ミグ「・・・・・・。」
ライト「目合わせるな。因縁つけられるで・・・あ、近づいてきた。」

カフェのそばの石畳に停車しているバイクに股がるクリス「ちょうだい」
そばでタバコを吸っていたバイクタクシーのおじさん「待て!ドロボー!!」
構わずエンジンをかけるクリス。ブロロロロロロ・・・
オープンテラスを通り過ぎるバイクとギャングのトラック。
メニューで顔を隠すライト。トラックが遠ざかっていく。
ミグ「もう行ったよ・・・」

石畳の道を歩き、クリスがいたところへ向かうライト。
ライト「ま、こういうことや。気軽に関わったら火の粉がこっちにも飛んでくる・・・」
ミグ「お父さん歳の割にやたら動きが俊敏だったけど・・・でも、ほっといていいのか?」
ライト「自分で何とかするやろ・・・」

遠くで追っ手のトラックが横転し爆発する
男たち「うわ~~~!!!」
火が上がる方を見つめるミグ「・・・・・・。」
ライト「ほらね。」
何かに気づいてかがむライト
「・・・あのバカ、なんか落としていきおった・・・」
地面に落ちた小さなビニール袋を拾うライト。
ビニール袋の中のものを取り出すライト「カメラのフィルムやんけ」
ミグ「じゃあ届けてやらないと・・・」
小さなメモがついている。
メモを読むライト「・・・あいつ・・・」

(エウロパ大学のアレゴリー教授に解読頼むわ!ノシ)



黒板にチョークで板書する年配の女性教授
「現在木星には55の国家が独立しています。
しかし未だに紛争や内戦、飢餓といった深刻な問題を抱えている国も多い。
国境と資源に関係する地政学的な問題、歴史や文化に関係する民俗学的問題・・・
紛争の背景には様々な要因がありますが、私が考えるに、最も大きな原因はそれぞれの民族が異なる言語を使っているからだと考えます。」

大学の廊下を歩くミグとライト
ライト「は~こういう学校の雰囲気は好きになれへんねん。冥王星を思い出すわ・・・」
ミグ「悪かったな・・・で、誰なんだ?」
「ああ、マーガレット・アレゴリー・・・言語学者や。
宇宙のすべての文字を知っている。」

エウロパ大学の講堂
ほとんどの大学生は白人であくびをしている。
マーガレット「民族ごとの異なる思考体系の形成は、まさにその民族がどのような言語を用いているかに大きく規定されており、それらを相対的かつ系統学的に比較研究することは、民族紛争を客観的に分析する一つの手がかりになるはずです・・・
言うならば、これは言語の進化の道筋をたどることであり・・・
M・フーコーが論じた“知の考古学”にほかなりません。」

講義終了のベルが鳴る。ぞろぞろと出て行く学生たち。
教壇でテキストを揃えるマーガレット「・・・・・・。」
ライト「アレゴリー先生」
マーガレット「あら・・・久しぶりねライト君・・・今更単位を取りに来たの?残念だけど手遅れよ。」
苦手そうなライト「い、いや・・・ちょっと解読して欲しい文字があるんやけど・・・」
「ふ~ん・・・誰かによるわね」
「え?」
「あなたが言語学に興味を持つはずないでしょ?(廊下の学生たちに顎をやる)官僚候補の連中だって興味がないのに・・・この星の平和は当分お預けね・・・」
ライト「ははは・・・あきませんね~学校の授業はちゃんと聞かんと・・・(学生に怒鳴る)お前らちゃんと勉強せえよ!」
にじりよるマーガレット「で・・・誰の差し金なの?」
ライト「そ・・・それは・・・」
ミグ「私です」
マーガレット「あなたは?」
ミグ「ミグ・チオルコフスキー、冥王星の小惑星解体部隊のものです。小惑星を解体中に奇妙な碑文を発見したので、その写真をアレゴリー教授に見ていただきたく参上しました」
ライト(ミグ・・・!)
マーガレット「ああディープインパクトの・・・未解読言語に興味がおありなんですか?」
ミグ「え?ええまあ・・・遺跡探検が趣味なので・・・」
マーガレット「なるほど・・・例えばどんな未解読言語をご存知なの?」
ライト(んなもん知らんがな・・・)
ミグ「ええとインダス文字、ミノア語、エラム文字、ファイストスの円盤・・・」
マーガレット「なるほど・・・失礼しました、あなたには教養がある。
私の研究室へ案内しますわ。」
廊下の方へ歩き出すマーガレット
ライト「ミグ・・・」
黙ってうなずくミグ。マーガレットのあとをついて行く二人

研究室は本棚だらけで狭いが綺麗に整理整頓されている。
窓際には手入れの行き届いた花や観葉植物が並んでいて、小さな英国庭園のようになっている。
丁寧に紅茶を入れるマーガレット。
「あなたはメロンソーダよね。気が利かなくて本当ごめんなさいね・・・」
ライト「いや紅茶でええです・・・」
紅茶とケーキを差し出すマーガレット
「ヒマリアのプランテーションで採れた茶葉なんだけど・・・冥王星の方の口に合うかしら」
ミグ「いえ、いただきます・・・」
プロジェクターをセットするマーガレット「ところで、ええと・・・」
かがみ込んでプロジェクターの配線を繋ぐライト「あ、オレがやります」
「あ、どうも。で、チオルコフスキー将軍、どのあたりの小惑星でくだんの碑文を?
太陽系外縁天体?」
ミグ「ええ」
考え込むマーガレット「・・・・・・」
ライト「セットできました」
マーガレット「・・・まあいいわ。とりあえず見てみましょう」

研究室の照明が落とされる。
スクリーンに石版の写真が映し出される。
メガネをかけるマーガレット「これは・・・」
ライト「なんて書いてありますかね?読めますかね??」
マーガレット「ちょっと静かにして。今読んでいるんだから」
ライト「さーせん」

「・・・そこまで古い言葉じゃないわ・・・2世紀あたりね。

王は太陽の子
神に知恵という強大な力を授かり王国を築きし者
全知全能のその力は地を揺るがし、海を引き裂き、天空の星をも落とす
王は神にも等しい力を得た


ええと状態が悪くて読めないわ。

・・・よって王は神の地を去り、その力を封印することに決めた
アストライアの大神殿と迷宮は、探求者に試練を与えるであろう
星の運河を辿り、星の欠片を手にした女神の舞によって真実の扉は開かれるのだ


マーガレット「書かれているのは以上よ。照明をつけて構わないわ」
照明をつけるライト
ライト「・・・で結局どういうこと?登場人物をイラスト付きで整理してくれへん?」
マーガレット「私の専門は解読するだけ。意味を見出すことじゃないわ。
それを得意とする学者をライトくん、あなたは知っているはずよ。」
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