リムジン
マーガレット「・・・あ、査読しなきゃいけない論文があったんだ、取ってきていい?」
ケセド「また今度にしていただけませんかね奥さん・・・」
ため息をつくマーガレット「は~・・・だからクリストファーには関わりたくないのよ・・・
あの男は例え離れていてもこっちに干渉してくるんだから」
ケセド「・・・強力な電磁波のような人だな」
意識を回復するミグ「う・・・」
マーガレット「眠り姫のお目覚めのようよ」
ミグ「どこへ連れて行くつもりだ・・・
その人に手を出したらライトが黙っちゃいないぞ」
ケセド「キミ達を傷つけるつもりはない。ただ会ってもらいたい方がいる」
ミグ「会ってもらいたい方?」
ケセド「セレマだ。」
ミグ「セレマ?」
マーガレット「まさか・・・」
ケセド「我が木星の偉大な父、ンゴロ・アルベド議長。」
・
アマルテア中心部――木星民族会議議長ンゴロ・アルベドの宮殿(夜)
宮殿の上空を飛ぶリンドバーグ号
ライト「誰の家なんや」
クリス「木星の偉大な父さ」
ライト「あんたと対極にいる人物ってことか」
クリス「言うよね~・・・でも私もなにげにいい父親だったろ?」
ライト「お前正気か。」
クリス「万が一にもうざい父親ではなかったはずだ。我が子を信頼し自由にさせたのだから」
ライト「つーかいなかったやろ」
クリス「・・・その点、私の父は厳しかった・・・私を規則でがんじがらめにした。
人を殺すなとか、人の物は壊すなとか、勝手に持ってくなとか・・・」
ライト「・・・当たり前やんけ。」
クリス「歴史上の偉人は大抵その全てをやっているんだよ、ハリソン・フォードでさえ」
ライト「あの人は演技でやっとんねん!いい加減にしろ馬鹿!」
クリス「やっぱ教育の仕方間違っちゃったのかなあ・・・」
ライト「まあいい。で、なんでそんな偉大な人物が母さん誘拐すんねん」
クリス「誘拐したんじゃないさ・・・これから会う人物はそんな小悪党じゃない。ずっと大物だ。」
・
宮殿の待合室
扉の向こうではたくさんのスタッフが夜までせわしなく働いている。
ケセド「セレマの執務が終わるまで、もうしばらくお待ちください」
ソファに緊張して座るミグ「セレマとは?」
マーガレット「氏族の名前ね。最高の敬意を表す呼び方よ。
ンゴロ・アルベド議長についてはご存知?」
首を振るミグ
マーガレット「少しは冥王星以外の新聞を読んだほうがいいわ。
人種差別が激しかったアマルテアで差別政策を撤廃した人物よ。
アマルテアの治安がここまでよくなったのはセレマのおかげってわけ。
ミグ「なんでそんな人が私たちを・・・」
マーガレット「さあね・・・愛と寛容の平和主義者として有名だけど、強い意志と決断力がある闘士でもあるわ。まあ、わざわざ宮殿に招待してくれたんです。とりあえず会ってみましょう。」
ケセド「それではこちらへどうぞ。セレマがお待ちです。」
宮殿内の大ホール
豪華な装飾が施されたホールの中心にアルベド議長が立っている。
アルベド「マーガレット・アレゴリー教授にミグ・チオルコフスキーさん。お会い出来て光栄だ。
急な招待を許してくれ。部下が手荒な真似はしなかっただろうか」
ミグ「いえ・・・」
マーガレット「ご招待にあずかりまして光栄です、議長」
アルベド「美しいお二人とゆっくり食事でもしたいところなのだが、なにぶん私も多忙の身なので無礼を許して欲しい。さっそく本題に入ろう・・・」
ケセドがうなずき壁のパネルを操作する。
「この星は今、歴史的に重大な分岐点に立たされている。
つまり民族の宥和に向かうか、血で血を洗う復讐の泥沼に向かうかの・・・
この機会を逃したら永遠に民族紛争はなくならないだろう・・・
ここで争いののろしが上がることは何としても避けたい・・・わかるかね。」
ミグ「・・・しかし・・・私たちと木星の社会情勢にいったい何の関係が・・・」
アルベド「ではお見せしよう」
ホールの壁が持ち上がり、中から巨大な石碑の写が現れる
アルベド「あなたがたが探していたのは、これではないのかな」
マーガレット「これは・・・小惑星の石碑に書かれていたものと同じ碑文・・・」
ミグ「え・・・?」
アルベド「その通りだ」
ミグ「なぜこれが・・・」
アルベド「教授はセバ族を知っているかね?」
マーガレット「アストライア大神殿を守る、いにしえの扉の民族・・・
しかし大神殿と共に彼らも遠い昔に滅びた・・・」
アルベド「大神殿を隠し、生き残っていたらどうかね?」
「なんですって?」
アルベド「私はセバ族の末裔なのだよ。」
マーガレット「アストライア大神殿が存在するって言うの?」
うなずくアルベド「スターライン運河の先に・・・」
アストライアの大神殿と迷宮は、探求者に試練を与えるであろう
星の運河を辿り、星の欠片を手にした女神の舞によって真実の扉は開かれるのだ
ケセド「これは政府の一部の人間しか知らない、機密事項だ。
しかしあなたのご亭主は小惑星からこの碑文を見つけてしまった・・・」
マーガレット「冗談でしょ・・・」
アルベド「私の部族は扉を守るだけだ。神に近しい存在がいるかどうかはわからない。
だが、我々の先祖がゼウスが封印した力を守ったように、その力を求め解放しようとする者もいた。
ケレリトゥス教授によって、その悪しき心の持ち主がスタータブレットの存在を知ってしまったのだ・・・」
ケセド「スマイル・マルドゥク・・・ニグレド族の末裔、その最後の生き残りだ。」
マーガレット「ニグレド族・・・古代木星に死と破壊をもたらした戦闘部族・・・」
ケセド「20年前からマルドゥクはメインベルトの小惑星を武力で支配し、その資源を一手に牛耳った。だが連中の本当の目的はレアメタルでも天然ガスでもなかった・・・」
マーガレット「それが、これだったってわけね」
アルベド「ニグレド族の手にスタータブレットが渡れば、平和への道を歩み出す我が星に大いなる禍が降りかかるに違いない。それだけは阻止せねばならない。」
ケセド「我々はキミ達の動向を監視しようと思っていたのだが、向こうの動きは思った以上に素早い。連中が国境に向かったという情報が入った。もう悠長なことはしていられないだろう」
ミグ「それで我々にどうしろと?」
アルベド「マルドゥクよりも早くスタータブレットを見つけ、回収してもらいたい」
バルコニーから宮殿内部の様子を双眼鏡で眺めるクリスとライト
ライト「おい、母さんを助け出さなくてええんか?」
クリス「いい、次の目的地がわかった。」
「どこやねん」
「港市国家パシファエ。グランド・イクリプスダムだ。」
・
港市国家パシファエ国境付近にある「デスファーブル野生動物保護区」
高さ6メートルにもなるフェンスには
「生物多様性なんてくそくらえ」「家族が虫に食われてから言え」
といったボードがくくりつけられている。
炎天下の空は乾いた地面をじりじりと焼き付ける。
巨大なカンガルーのように進化した全長2mほどのカマドウマの群れが跳ねていく。
広大な大地に敷かれた交易路を突き進むジープ。
ハンドルを握るケセド。地図を見るマーガレット。
ミグは外の巨大な昆虫を見つめている。
アルベド(我がセバ族は大神殿に至る運河を消し去った。
水路の流れを変えたのは、枯れた大地に灌漑用水を送るためでもあったが、伝説の運河を伝説のまま残すためでもあったのだ)
汗が流れるミグ。でもネクタイを緩めない。
ケセド「なにか飲むか将軍。冥王星と違ってこの星は暑いだろう?」
ミグ「いえ、結構・・・それで・・・」
ケセド「ああ、スタータブレットの話だったな。
スタータブレットとは最初の人類に知性を与えたとされる伝説の石版だ。
動物の中で唯一人類だけが高度な文明を築くに至ったのはこの石版の力が原因らしい」
ミグ「世の中にはそんなものがあるのか?」
席の後ろからぼやくマーガレット「ないからこんなことになってるんでしょ。」
ケセド「・・・まあ彼女のように、その存在を疑問視する意見が優勢だな。
しかし石版伝説はこの星では珍しいものではない。
木星王ゼウス一世は、超古代都市コロナドでスタータブレットを見つけ、この世のすべてを知ったという。宮殿にあったあの碑文はその冒険の物語を綴ったものだ。」
ミグ「・・・あのピカールもまるでそれが存在するかのように言っていた。
スタータブレットには近づくな・・・」
マーガレット「確かにそのとおりよ。近づくべきじゃなかった・・・」
ミグ「・・・大佐。あなたは本当にあると思いますか」
ケセド「それは神を信じているかっていうのと同じ問いだな。
正直にわかには信じがたいが・・・
古くからの伝承は“真実”を暗示していることが多い。
我々は過去を完全に消し去ることはできない。それらは物語の形であれ、文化風習の形であれ・・・
形を変えて残っているものだ。これも私の部族の古い言い回しだが。」
ミグ「・・・・・・。」
ケセド「石版が実在するにせよしないにせよ、マルドゥクをこのまま放っておくのは危険だ。
グランド・イクリプスダムは百年も前から水力発電によってアマルテアに電力を供給している。スターライン運河を見つけ出すためならギャングはダムすら破壊するだろう。
発電所を止めるなんて卑劣な真似を許すわけには行かない。そうだろう?」
ミグ「え?ええ・・・」
ケセド「着いたぞ・・・交易路の終着点、港町トートだ・・・」
パシファエにある小さな港街トート
四方を砂漠に囲まれた歴史あるオアシス都市で、中心には小さな教会がある。
その教会のそばには小さな井戸があり、紛争によって国を追われた難民たちが水を求めて長い列を作っている。
ボランティア団体のスタッフ「え~ただいま最後尾は300分待ちで~す!」
ミグ「ここのどこが港町なんだ・・・?」
ケセド「砂の海の港ってとこだな・・・ちょっと待っててくれ。私は現地のガイドを探してくるから。
ダムに行く前に砂の海で漂流したら一大事だからな」
人ごみに消えていくケセド。
教会の広場で水を待つ列を眺める二人。
家屋の日陰に入って座り、井戸からポンプで水を汲み上げる様子をぼんやりと見つめるマーガレット。
マーガレット「あなた・・・地球へ着いたら、そのまま息子とは別れてしまうの?」
ミグ「え・・・?」
マーガレット「ずっと息子のそばにいて欲しかったけど・・・残念ね・・・」
ミグ「息子さんには大切な恋人がいるそうですよ。
それに私は彼よりもずっと年をとっています。人種も違いますしね・・・」
マーガレット「息子はそうは思ってないみたいよ・・・あなたのことよく手紙に書いてる。」
「ライトが・・・?」
「太陽系の果てに、これまでの旅で出会った中で一番親切な人がいたって・・・
あなたにはずっと助けてもらってるって。」
「そんな・・・命を助けてもらったのはこっちなのに・・・」
「・・・あなた、ご家族は?」
「いえ、身寄りがないんです」
「そう・・・話しづらいこと聞いたわね」
「・・・家族がいれば喧嘩もできるんですよね・・・」
「離婚もね・・・」
『80日間宇宙一周 The Stargazer』脚本④
2013-02-03 01:34:52 (12 years ago)
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