『80日間宇宙一周 The Stargazer』制作裏話

 過去最長の脚本!

 物語の骨子は「もしインディジョーンズが家族にいたら」。ハリウッド映画のヒーローってかっこいいけど、その家族にとってはいい迷惑なんじゃないかって感じで物語を組んで行きました。だって平気で人のもの壊すし、人のもの奪うし・・・人殺しだしね。家族が知らないところで謝ってんじゃないかってw
 というわけで、そんなはた迷惑な英雄として考え出したのが、ライトの父クリストファー。もうこのオヤジが馬鹿で馬鹿で動かしてて楽しかったけど、「あれ?これ読んでいる人だんだんムカついてこないかな?嫌われちゃったらやだな」って心配でした。
 言ってみればただの徘徊しちゃうじいさんだもんなw
 でもやってることはインディ・ジョーンズ先生と変わらないんだよ。見方を変えるだけでこんなに印象って変わるもんなんですね~(他人事)

 今回は私の漫画には珍しく武闘派の悪役が出てきたんだけど、このマルドゥクはクリストファーの影の部分だよね。どっちも財宝の魔力にとりつかれている。
 とはいえクリストファーは別に財宝を見つけて悪用しようってわけじゃなくて、純粋に学術目的で調査しているんだけど、動機がなんであれやってることはどっちも墓荒らしだし、人類の探究心っていうのは時に暴力的な結末をもたらすしね。今まではそれを科学技術で描いてきたけれど、今回は趣を変えて人文系の学問でやってみた。
 悲しいのはクリスの学説はあっていたのに、唯一最後までクリスの学説を信じ続けていたのがギャングのボスだけだったって事だよね。これはせつないよな。まあ本人はあまり気にしてないだろうけど。

 難しかったのは物語の結末。どうやって落とそうかなって、前橋に行ってプロデューサー気質の友人と何度か議論を重ねたんだけど、なかなかまとまらなかった。
 クリスがマルドゥクを倒すのはプロットの合理性から行けば正しい気もするんだけど、あの人のイメージに合わなかったんだよね。
 じゃあ誰がマルドゥクを倒すんだ?ってことになって「石版が暴走して死ねば?」って考えたんだけど、「田代、それはギャグになるぞ」って言われて、「じゃあもう死ななくてよくない?」っていうまさかのマルドゥク生存エンドもあったのだ。
 結局友人が考えた案に近いものにしたんだけど、なんとかひねり出したのはクリスとマルドゥクの最大の違いって家族の有無だったんだよね。
 そこで家族がいないひとりぼっちのミグを最後にぶつけてみたんだ。ちょっと苦しかったかな。本当は石版はミグじゃなくてクリスに壊させたかったんだけどね・・・物語の進行上難しかった。

 さて、このお話のイメージボードを固めるために私は、インディジョーンズシリーズ四部作を全て鑑賞し、『トゥームレイダー:アニバーサリー』をプレイし、エジプト編の途中でオレは吉村作治じゃねえとコントローラーを投げつけて、最終的には男版トゥームレイダース(じゃジョーンジーじゃねーか)『アンチャーテッド』の公式サイトでメインテーマをエンドレスで聴いてました。
 私、こういう遺跡探検系のお話嫌いじゃないんだけど(そう考えれば『デザーテッドアイランド』もそうだった!)、トレジャーハンターが狙うお宝がいつも「オーパーツ」だか「ロストテクノロジー」だか胡散臭くて、「うさんくせ~」って馬鹿にしてたんだけど、でもいざそれをやってみると、胡散臭いのをあえて狙うのってすごい難しいんだなって反省したよ。

 まず新紀元社の『図解近代魔術』という本を久々に開き、「それ系」のアイテムや伝説を手当り次第あたって、木星での冒険活劇のビジュアルイメージはサハラよりも北のエジプトあたりってことになりました(ただ西アジアや南アフリカ共和国もミックスされている)。
 で、エジプトのピラミッドにはアトランティスの叡智である「エメラルドタブレット」っていうのがあって、この石版と『2001年宇宙の旅』のモノリス、昨今のスティーズ・ジョブズ&アップル信者のiPad信仰、さらにエヴァンゲリオンの石版におっさんが真剣に話しかけている描写がどうしてもやりたいっていうのが繋がって、「スタータブレット」というアイテムを考え出しました。まあほぼエメラルドタブレットなんだけどw

 あとはもう、賢者の石だろうがエリクサーやら指輪やら槍やらなんでもかんでも本に書いてあるのを闇鍋のごとくぶち込んじゃったんだけど、そもそもこの漫画の世界観が架空のものなので、インディ・ジョーンズ以上になんでもありにできて楽しかった。
 あ、でも「セフィロトの樹」には助けられたな。あれは食べたものに命を与える実をつける木らしいんだけど(ってどう食べるんだ!?)、各セフィロトは惑星に対応しているんだよね。さらに天使にも対応していて「もうなんでもありだな」と思いながら、すごい使い勝手が良くてありがたかった。一番調べてて楽しかったしね。

 でもセフィロトの樹って冥王星に対応するセフィロトがないんだけど、そこはまあ、80日~のセフィロトの樹ってことで・・・また自分で新たな固有名詞を考えて付けちゃうと、読んでいる人がいよいよ整理できなくなっちゃうしね。
 ただでさえ設定量が膨大な上に、サイトの『80日間宇宙一周』の作品解説では「よくわからない設定を大量に出すことは読者を置き去りにすることだ」って昔の自分が偉そうに言ってるし・・・まあ確かにその通りだ。今回読んだ人はついていけたのだろうか・・・ゴメンチャイ(C)ペンギンズ
 とにかく今回私が考えた古代の伝承のアイディアの背骨になってくれたのは間違いなく、このセフィロトの樹だと思う。

 で、ここからが地獄だった。最初のステージの「メインベルトの小惑星」からどうやって一行を最終ステージの「超古代都市コロナド」に連れて行くか、その冒険の過程がさっぱり思いつかんかったorz
 もともとロードムービーが苦手だからね。冒険を“もたせる”ためにいろんなスポット(ロケ地)やアイテム、伝承を考えたんだけど、これはもう本当辛かったですよ。
 テレビゲーム、特にRPGのような鍵をみつけて、その鍵で何かの仕組みが解けて、さらに新たな鍵を探して・・・ってタイプのやつ作っている人ってすごいなあって思いました。

 でもゼウスとアストライアの伝説とか、凱旋祭のトリックとかよく考えたよな。まるで本当にインディ・ジョーンズのようじゃないか。えらいぞオレ。
 ここら辺の伝承はライト一家よかどっちかというとミグの心情のメタファーにしてみたんだけど(ライトは年上の自分を愛してくれるんだろうか)、もうあれだね。ミグとライトは少女漫画にありがちな「すんどめ展開」を繰り返してないでいい加減、決心付けたほうがいいよね。

 いよいよ私の漫画で最も長いお話になってしまった『80日間宇宙一周』も次回でおしまい。ミグとライトをもう動かせないのはさみしいけれど・・・今回でかなり畳み掛けたからね。
 ノーチラス号、ミラージュ、グラビティディフェンスシステムとどんどん出てくる兵器もインフレしちゃったし。最後はやっぱりピカさんの言うとおり「宇宙を破壊する兵器」を考えなくては。最後は宇宙論の難解な本を読みあさらねばならんのか・・・
 まあほとんど最後のオチは出来上がってるんですけどね。マロさんや円崎さんの納得のいく結末になっているのだろうか。ではまた!

おまけ:作中の固有名詞の元ネタ

クリストファー⇒冒険家クリストファー・コロンブスから。

マーガレット・アレゴリー⇒心理学者マーガレット・ローウェンフェルドから(当初はカウンセラーという設定だったため)。アレゴリーとは抽象概念を、記号などを用いて具体化するような寓話表現のこと。神話などに用いられる。

サーシャ・ラグランジュ⇒天文学のラグランジュポイントから。ラグランジュポイントとは3つの天体が平衡状態を保つことができる場所のこと(5種類ある)。例えば太陽と木星と小惑星群の位置関係がそれにあたる。

ケセド・バイザック大佐⇒ケセドとは木星のセフィロト名。苗字は天体望遠鏡のバイザック式から。

ンゴロ・アルベド議長⇒気象学のアルベド(反射能)から。モデルは南アフリカ共和国のネルソン・マンデラ大統領(マディバ)。

マルドゥク⇒バビロンの神様マルドゥクから。木星と同一視されていたらしい。

ギガントマキアーグソクムシ⇒ギガントマキアはギリシャ神話におけるオリンポス神と巨人との戦争のこと。もちろんゼウスも参加。

ハインラインスパイダー⇒『宇宙の戦士』の作者ロバート・A・ハインラインから。宇宙グモが登場する。種小名はその宇宙グモ「アラクニド」から。『イッツアドリームワールド』では悪役の魔法の杖として使ったw

メイキュウグンタイアリ⇒種小名のアヌビスとはエジプトの冥界の神さま。頭はジャッカル。

ケンタロスシニガミカマキリ⇒ケンタウロスは『トゥームレイダース』のパロディ。種小名はエジプトの『死者の書』から。イメージとしては『ナイトミュージアム』の黄金の石版を守る二頭のアヌビス神を参考にしました。

小惑星「1903 XQ」⇒小惑星は発見された日を記号化して名前にするんだけど、これはライト兄弟が有人飛行を成功させた日。

マーシャル大学考古学研究チーム⇒インディ・ジョーンズの出身大学。

港町トート⇒トートはエジプトの知恵を司るすごい偉い神様。頭はトキ。だからってわけじゃないけれどトートは時も管理する。また『MOTHER2』の港町トトももちろん意識してます。

スターライン運河⇒ナイル川

グランド・イクリプスダム⇒アスワン・ハイ・ダム。ただマルチプルアーチ式なのは見た目優先で私が勝手に選んだだけです(アスワン・ハイ・ダムはたしかロックフィル式)。

ガニメデ大瀑布⇒ナイル川第1~第4瀑布

アストライア大神殿⇒アブシンベル大神殿。アストライアはギリシャ神話の正義の女神。ただゼウス一世とのラブロマンス云々は全くの創作です。ごめんなさい。本当はゼウスの娘なの。
アストライアはメインベルトの小惑星の名前にもなっている。

女王ラトナ⇒クレオパトラから。女王クレオパトラは裏切り者に毒をもられる危険があったからか毒に詳しかった。実際毒蛇のエジプトコブラを使って自殺している。
また天王星編の大物アイドル、パトラ・ジュリエッタの名前もクレオパトラから(古代ローマと交流があったため)。

ブリックロード4世⇒『MOTHER2』の同名のダンジョン職人から。アメンホテプ4世っぽくw

死の迷宮アメミット⇒アメミットはエジプトの『死者の書』に出てくる魂を喰らうおっかないワニとライオンとカバのキメラ。

超古代都市コロナド⇒太陽のコロナから。

スタータブレット⇒エメラルドタブレット。『2001年宇宙の旅』のモノリスもイメージしている。作中では木星のモノリスは木星を太陽にするための装置だった。

アマルテアなどの国家の名前⇒すべて木星の衛星の名前が由来。
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