ノーカントリー

 「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆」

 お前さんの気持ちはよくわかるよ。この国は人に優しいとは言えん。なんとかできると思うなら、それはうぬぼれだよ。

 勧める映画にハズレなしのマロさんおすすめ作品。事の発端はマロさんとのこのやりとり。

 そういえばコーエン兄弟の「ノーカントリー」という映画でハビエル・バルデム演じる殺し屋が人を殺すか迷った時はコイントスで決めているのですが、80日間最終章を読み返していてイワンのコイントスの癖のところでその映画を思い出しちゃいました。

 まあ私もこんなような設定っておしゃれな洋画にありそうだよなって感じで考えたんですが(007にはカジノ=賭け事のシーンが多いし)本当にあったというw
 もちろん偶然だからコイントスに込めた意味合いは異なっていて、私は宇宙の運命をテーマした話ということで、宇宙の多世界解釈や量子力学における確率解釈のメタファーとして、スパイのイワンにコインを持たせたんですよね。
 またスパイっていうのは情報の真偽が命取りになるんだろうけれど、ここまで情報社会になると、もうメディアリテラシーではどうにもならない部分がある。なら最終的な判断は運を天に任せることしかできないんじゃないか、というマクロな諦観・・・あ、これは『ノーカントリー』も一緒かw
 なんにせよ、この映画を私は知らなかったから、個人的にはあの脚本を作る上で「似てるなあ」って思ったのは『フォレスト・ガンプ』だったっていうねw運命は偶然(ガンプのママ説)か必然(ダン中尉説)か・・・という。

 で、『ノーカントリー』・・・これ最後の方までは『ロード・トゥ・パーディション』のような、いかれた殺し屋に追いかけられるロードムービーだよなって思ってたら、最後の最後でガガガって路線変更して、実はテーマはそこじゃないんだよって持っていく。
 ポイントは中盤全く出ない(!)トミー・リー・ジョーンズさん演じる老保安官だ。彼の登場シーンは映画が始まって結構経ってからなんだけど、実は声の出演では一番最初なんだよね。
 つまりあの保安官は、この映画の“語り手”だったわけだ。面白いのは、このキャラは作中ではあまり事件に絡まないで、最後の最後まで傍観者として終わっちゃうという点。
 普通だったら、ジョシュ・ブローリンがやられちゃって、すべてを諦めた老保安官がもう一度立ち上がり、正義の名のもとにあのガスボンベコイン野郎(シガー)を倒すのが脚本の王道なんだけど、このジョーンズ保安官、殺害現場までは行くんだけど、結局シガーを逃しちゃうw

 やっぱダメだ、こえぇってw

 んで、そのまま保安官引退!すげえ!衝撃の展開・・・いや、待てよ。こんなお話どっかで見たぞ・・・『まどか☆マギカ』だ!www
 ほぼ主役を張っていたブローリンさんがクライマックスであっさり退場しちゃって(おマミかw)、ジョーンズ保安官がラストの締めを担当するんだけど、そこで繰り返されるのは「あ~アメリカの南部も変わっちゃったな~」っていうため息wなにしろタイトルが「故郷がない」だもんw
 これまでの価値観とは相容れない、ぶっちゃけ理解不能な殺し屋を相手にしなくなっちゃった保安官の正直な心境=やだなあ。
 これは警察に限らず学校の教員、それもベテランの先生が抱える悩みとも重なるだろう。あれれ、昔のやり方が通用しないぞっていう。
 そう言う意味では、この映画のテーマは『ダークナイト』に近い。そしてさらにリアルな、普通の警察官の心境を代弁したものになっている。

 銃を構えとけ。
 あなたは?
 お前の後ろに隠れる。


 さて、一方みんなに「いかれている、いかれている」って言われちゃう殺し屋シガー。彼は古きよきアメリカを変えていく強大な存在――時代のメタファーだろう。
 ポストモダンという有象無象の不気味でグロテスクで一貫性のないリゾーム。ただ最後にふと見せるシガーの弱さ。実はシガーは理由もなく殺戮を繰り返すような狂気そのものではなかった。もしそうだとしたらコーエン兄弟はシガーにコインを持たせなかったはず。
 つまり冒頭でも言ったように、イデオロギーが崩壊した現代社会を生きる術としてシガーはコインを投げることしかできなかったのではないだろうか。
 だからこそシガーは偏執的と言えるまでにルールにこだわる。

 お前のルールのせいでこうなったならルールは必要だったか?

 決めるのはコインじゃないでしょ。あなただけのはずよ。


 どんなラディカルな人間も、結局ルールからは自由になれない。好き勝手に決めているようでも無意識にルールに操られている。浅田彰さん的には“コード”と言ったほうがいいかもわからないが。
 つまり、なんの理由もなく無秩序に行動することなんて、ポストモダンの権化シガーですら不可能なのだ。
 そう言う意味でラストのジョーンズ保安官の夢の話で終わるっていうのも興味深い。我々は結局、未来が深い闇ではなく、松明の明かりで照らされていることを信じて生きるしかない。
 もっとも個人的には私は、この世界に良いも悪いも、正しいも不正もありゃしないって思っている。だからこそ、だったら、いい方を選んで勝手に考えちゃえと思って生きている(O型ですから)。
 そこらへんはその人の人生観にもよるのだろうけれど、アメリカっていうのはマニュフェスト・ディスティニーとか言うくらいだから、さらに神や運命、先祖が切り開いてくれた歴史に敬意があるに違いない。そんなアメリカの哲学を垣間見せてくれるラストだったのかもしれない。

 ぶっちゃけ難しくてよくわからなかったけど。

 最後に。この映画ではジョシュ・ブローリンさんの声の吹き替えを故・谷口節さんが担当しているんだけど、ジョシュ・ブローリンさんといえば『MIB3』で若き日のトミー・リー・ジョーンズを演じたほど顔が似ている俳優さん。そして声がトミー・リ・ージョーンズさんの吹き替えを多くこなす谷口さん。で、この映画のジョーンズ保安官は別の人、菅生隆之さんがアテレコしてて・・・すごいややこしい。
 ぶっちゃけジョーンズがふたりいる映画に見えちゃったwなら吹き替えで見るなって話なんですが、やっぱり私は谷口ボイスが好きなんで・・・あとシガーの声も良かった。不気味で。
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