「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆ 胃痛☆☆☆☆☆」
うちでは食事中に政治の話は禁止なの。ケンカになるだけよ。イラクで何が起きてるかなんて結局誰も知らないんだし。
ナドレックさんおすすめ作品。春に手がけていた脚本はスパイを題材にしたものだった。だから私は『007』をたくさんみて、スパイキャラのイメージを固めようとしていたんだけど、その時言われたのが「007を参考にするのは意外でした」ってコメント。
私ならもっと実話を題材にしたリアルなスパイ映画を参考にすると思っていたらしい。その時に紹介されたのが『裏切りのサーカス』とこの『フェアゲーム』だった。どっちの作品も見たんだけど、リアルなスパイ映画、というか実話を扱ったスパイ映画を見ていると、その組織の負の人間臭さにげんなりする。天下のCIAも結局はただの公務員。東京電力や市役所、公立学校となんら変わらないのだ。
それは日本のテレビドラマでもよくある「上層部の連中は現場を分かっていなくてよ~」みたいなありがちな対立ではない。事実はこうだ。上層部の連中は現場の泥沼さをわかった上で切り捨てている。
人間に思いやりや優しさがあるのは確かだと思う。正義というものがあるならば、困っている人を助けたいという思いはある種誰にとても普遍的な正義なのだろう、それには、まあ異論はない。ただし、その正義や善意を貫くのは並大抵のことじゃない。後述するけど人は自己保身のためならいくらでも残酷になれる。
007でも感じて、自分の漫画でも取り入れたのは、現場で命をかけるスパイのその立場上の弱さだ。国家のために命懸けで戦うなんて漫画やアニメではヒーローだろう。だけどリアルではそう言う人はとってもぞんざいに扱われている。組織的には優先順位は低いのだ。
その不条理さに読者はしびれるのかもしれないが、もし自分がこういう立場にあると仮定した場合、本当に憧れるのだろうか。こんな仕事やりたいか?
内田樹さんは、そもそも労働とはオーバーアーチブで、等価交換的な見返りを求めるものではない、と論じたが、それどころの騒ぎじゃない。等価どころかマイナスだ。
協力者を死なせたり、自分も死ぬようなリスクを背負い、かつ給料はたいして払われず、その仕事の成果は親しい人にも話せない。称賛もなし。
こんなことは理屈では自分も知っていた。それがスパイでしょ?そのペーソスがスパイ映画のキモでしょ?って。
しかしこの映画に描かれるスパイは、どうにもそうやって自分とは縁のない世界にいる孤独な英雄とは割り切れなかった。ただの公務員感満載。全国の公務員震撼の映画なのは間違いない。
エンドロールでこの総動が実際にあったことだと分かるんだけど、正直自分はこんなスキャンダル知らなかった。日本のテレビのニュースで取り上げたっけかなあ。
911テロやイラク戦争は自分の思春期に起こったことだからけっこう覚えていて、作中パウエルさんやライス国務長官が出てきた時はちょっと懐かしくて笑っちゃったんだけど(ライスのあのアニメのような襟足はなんだ!)、それでもこんなCIA局員とホワイトハウスの泥仕合があったことは記憶になかった。
今で言うなら、元CIAのスノーデン容疑者がアメリカの世界的な個人情報の収集を暴露しちゃって、国を追われているようなものか(これもいずれ映画になるんだろうな)。
なにしろスノーデン容疑者が完全に悪ならば、アメリカはあそこまで世界中から非難されていないわけだ。まずもってアメリカがやっていたやり口がひどすぎるってのがあったんだろう。どこが自由の国だよって。プライバシーなんてないじゃないかって(これも見られてるんだろうなw)。
スノーデンさんのやったことが普遍的な正義だったかは分からない。少なくとも公務員としては失格だ。守秘義務破っちゃったから。
でもスノーデンさんはスノーデンさんのなかにある正義を貫いた。自分の正義を貫き、行動をしたという点は正しい間違っている抜きにしてすごい。
得てしてこういう正義と正義のぶつかり合いで争いは起こってしまうのだけれど、でも自分の頭でどう考えてもおかしいことには積極的に抗議するべきだと思う。そしてその責任は自分ひとりで背負わないといけない。
じゃあそれによって何を得るのか。はっきり言って何も見返りはない。ただし個人の尊厳(セルフエスティーム)だけは守られる。インフォームドコンセントもそうだけど、アメリカ人は特にその意識が強い気がする。
なんでこの映画が身につまされたかというと、私もこんな大きな問題ではなかったけど、似たような状況に追い込まれたことがあったんだ。具体的には言えないけど、架空の話として聞いて。
例えば、法律的、倫理的にどう考えてもアウトな人がいる。でもそいつの悪事は外部にバレてない。で、そいつの陰口をみんな言っている。そんな陰口ばっか言うなら直接言えよって、私がそいつに直接言ったとする。そしたらそいつを叩いていた他の連中も自分に協力すると思ったら、自分から距離を置いた。なんか自分がやばいやつみたいな感じにされた。
この一件以来、私は他者に甘い期待をするのはやめた。愛や優しさが存在しないとは言わない。しかしそれらは自己保身にはあっさり負けると。
今の私だったら他の人たちが自己保身に動くというエソロジー的な習性も見越した上で、敵と戦ったと思う。まあ若かったんだよ。みんなが正しいと思うことを実行すればついてきてくれると思ったんだから。
でも世の中そんな単純じゃない。大規模な災害みたいに命がかかればみんな行動を起こすけど(それに弱い人も助ける)、社会正義といった抽象的なものではなかなか動かない。そういうことを学んだ苦い経験だった。
目指すのは共和制ですが、国民次第です、と。つまり国家が担う責任とは権力を握る一部の者にあるわけではない。
民主主義は簡単に手に入るものではない。だがアメリカは民主主義国家だ。市民の責務を果たせ。未来の子供たちのためにだ。
この前参議院選挙があって、にわかに政治的な話題がネットでも盛り上がったけど、国家や社会といったものに過剰な期待をするのは私は間違っていると思うのはそのためだ。
この世は結局どこまでも孤独なんだ。自分の人生がうまくいってないのは半分以上は自分のせいだって思わないとその人の精神はいよいよ救われない。
そもそもそういった自由や自己責任に憧れていたのは、かつて小泉さんを支持した自分たちだろう。ならば社会の流れにそのまま乗っかっちゃうんじゃなくて、一度自分の心に訪ねてみようよ。
この映画が描く敵は、国家を操るホワイトハウスの陰謀とか、ましてや副大統領補佐官じゃない。あやふやな伝聞や憶測を鵜呑みにして、よく知りもしないで短絡的に物事を断定をしてしまう、私たちそのものだ。
そして国家の中枢にいる人もそれは変わらない。立場上影響力が強いから、黒幕とか強大な敵に見えるだけ。案外考えていることは庶民と同じだったりする。
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