ロラックスおじさんの秘密の種

 「面白い度☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆ 涙☆☆☆☆☆」

 見ろ、あれで最後だ。やめるしかないだろ。

 ダメだ、こういう教訓のあるお話はやられてしまう。ずり~よ、『怪盗グルー』のスタッフが手掛けたアニメって触れ込みだったから、てっきり全編ギャグかと思ったら、すっごい悲しい話なんだもの。
 思えば『怪盗グルーの月泥棒』も、想像以上にクラシカルな『ハウス世界名作劇場』みたいな設定で、「感動とは落差である!」とかブログでうそぶいたけど、この映画はさらに切ない、一人の男の贖罪の物語。

 志村けんさんが「なんだチミはってか、そ~です、わたすが変なおじさんです」のていで「そ~です、わたすがロラックスおじさんです(※作中にそんなセリフなし)」ってちょけるCMが大々的に放送されていたけど、実は森の精霊にして木の代弁者であるロラックスおじさんは、なんと作中ではワンスラーという町外れの荒地に住む年老いた木こりの回想にしか登場しない!
 さらに、この森の精は、ジブリアニメでありがちな自然を破壊する愚かな人類に対してなんら報復手段を持っていないのだ!
 これが、今までなんでこういう精霊が出てくるアニメに出会えてなかったんだろうって思ったくらい、珍しくて(でも本当は精霊ってこういうものだよねw)感動してしまった。

 私、ジブリの『ぽんぽこ』や『もののけ姫』などに見られる、「人類VS自然!」みたいな対立構造がまずあって、そこでバイオレンスなアクションが繰り広げられる展開に、昔からなんか抵抗があってさ。まあ、自然を汚すとしっぺ返しが来るっていうテーマは分かるんだけど、なんかお説教臭く感じてたんだ。
 最近だと『アバター』もそれで、中盤では「惑星パンドラの守護者のエイワは誰の味方もしない」とか言ってたのに、最後は「エイワに心届いた」とか言って人類をバコンバコン一方的に攻撃するんだよw人類はアレルゲンですかw
 もちろん「お前の好きなジュラシックパークだってそうじゃねえか」って言われればそれまでなんだけど、別に恐竜はただ動物園を逃げちゃっただけで、人類に全面戦争を仕掛けようとか、復讐だ!ってやってたわけじゃないからね。

 この志村おじさんは、人間がどこまで愚かなことをしようと、決して暴力に訴えたりはしない(寝ている最中にベッドごと強制退去させようとして、あわや殺人未遂はやったけどw)。
 人間の変われる力を最後まで信じて、優しく諭し続ける。その結果、美しかった谷は、なすすべもなく強欲な人間たちによって滅ぼされてしまう。
 自然は強大で、人類に制御できるものではないというマイクル・クライトンのテーゼは、西洋人にとってみればかなりショックなものだったに違いないけれど、私たち日本人にしてみれば、その自然観はある程度共有されている。自然災害大国だから。
 でも、その逆の、自然というのはとってももろくて、簡単に破壊されてしまい、それを元に戻すのは、壊すのに比べてとっても難しい(場合によっては不可能)という、テーマは藤子・F先生以降あまり見られていない気がする。
 F先生ですら、『ドラえもん のび太と雲の王国』では、ノア計画とか言って人類に報復させたわけで、やっぱり徹底的に弱い自然を描いた今作の意義は大きいと思う。

 あなたが、もし何もしなければ、世界は変わらない。――ドクター・スース

 確かに、ヤンバルクイナやアマミノクロウサギを絶滅させようと乱獲しても、彼らは決してやり返しては来ないだろう。無抵抗な彼らは、そのまま永遠に地球から姿を消す。
 ならば、『もののけ姫』よりも『ロラックスおじさん』の展開の方がずっとリアルで、ずっと心に突き刺さる。「UNLESS――もししなければ」・・・人間の欲望は自分自身で歯止めをかけるしかないのだ。
 現実の世界で、人類が際限なく環境を破壊し続けたら、それこそ身の破滅だけど、こういう寓話は、その最悪のケースを疑似体験できることに大きな意味がある。
 これは、地球環境や生態系保全といった大きな問題の話だけではなく、日常生活でも重要な教育的なメッセージだ。どんなに粗暴な人に対しても、その人がいつか変わってくれることを信じて、優しくメッセージを送り続ける。決して無理強いはしない。そんな愛に溢れた辛抱強い教育こそ、今必要なのかもしれない。

 そして、かつての若者が老人になった時、ロラックスおじさんは帰ってきた。

 ところで、立派なヒゲじゃないか、と。
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