「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆」
どういう国なんだ!?“ほとんどの場合”法が正しい国!?そんな国でよく暮らせるもんだ!
くそ~これも名作映画だよ・・・もう社会の授業で見せて欲しい。恥ずかしながら私もアミスタッド号事件なんて知らなかったですし。ノルマントン号事件しかオレには・・・!
この映画で一番ショッキングだったのは、奴隷売買の三角貿易って黒人が黒人を捕まえて売っていたこと。たしかに貿易の末端ではそうなっているのが自然なんだろうけど・・・白人=加害者、黒人=被害者って、完全に言い切れないぞこれ。
また、その図式をさらに相対化しようとするかの如く、作中ではアフリカの部族が歴史的に奴隷を持っていたことが語られる。アフリカの奴隷はどっちかというと労働者の意味合いが強いっていうエクスキューズはあったけれど・・・
さて、モンテスキューの三権分立というのがある。立法、行政、司法の権力が互いに独立しているという考え方だ。社会の授業でも習うから、これはある程度はしっかり機能しているんじゃないかと思っていた。でもこの前『「日本史」の終わり』という本を読んで衝撃を受けた。日本の司法は行政にてんで弱いという。
そしてそれは19世紀のアメリカもそうだったようだ。立法府と行政府が互いに連帯責任を負う議院内閣制とは違い、アメリカは大統領制なので日本のようにスリーコンボとまではいかないが、それでもアンソニー・ホプキンス氏演じるジョン・クインシー・アダムズ元大統領は言う。「根っこではつながっとるんだよ。枝は分かれとってもな。」
でもよくよく考えれば、三権が本当に断絶してたら国家システムは機動力をなくしちゃうわけで、これはある意味仕方がないことなのかもしれない。だが「司法と行政がつながっている=司法が行政の言いなり」とは限らない、みたいな展開になるのがユナイテッドステイツオブアメリカ。
三権の上にはちゃんとアメリカの建国の精神=自由があるのがかっこいい。ここらへんやっぱりアメリカの人って愛国心がすごいんだなあって。
スピルバーグ監督は定期的に、こういうちょっと重いテーマの映画を撮るけど、これはもうエンタティナーとかじゃなくて、ユダヤ系に生まれた一種の使命感で作っている気がする。そこがクリエイターとしてこの人はやっぱり天才だなあって思う点。
基本的には無意味にグロいバカ映画(=インディ)の人で、そう言う映画を撮るのが一番楽しそうな気もするんだけど、やっぱりノブレス・オブリージみたいなもんがあるんじゃないだろうか。やっぱ作家ってそういう節操をなくしちゃったらおしまいよってところあると思うんだよなあ・・・
それにこの映画、アカデミー賞もとったんだけど興行収入は芳しくなかったらしい。『リンカーン』もそうだったよね。結局こんな現実をほとんどの大衆は直視したくないわけで、経済観念で考えればこの手の映画は儲からないんだよ。それなのに撮り続ける。
でも、これは決してスピ監督が独りよがりなわけじゃないと思うんだよ。おせっかいかもしれないけど、世の中こういうこともあるんだよって紹介することは、すっごい重要なことなんじゃないかって。
例えば、黒人奴隷の証言を聞いたピート・ポスルスウェイトさん演じる検事が「そんなひどい話あるわけないだろ。コイツの作り話だ」っていうシーンがあるんだけど、これ見ようによっちゃブラックなギャグなんだけど、私なんか笑えなくって(^_^;)
それはなんでかっていうと、数ヶ月前に『朝まで生テレビ!』でブラック企業の実態がテーマになったことがあるんだけど、ブラック企業でひどい目にあった社員を支援している人が、ブラック企業の現場をいくら説明しても、他のパネリストが「そんなひどい会社はないし、例えあったとしても、そんな会社は潰れている。それにそんな会社を選んだやつも自己責任だし、嫌ならやめればいい」ってまともに取り合ってくれなかったんだよ。
この社会的勝ち組と負け組のパラレルな議論の噛み合わなさは爆笑だったんだけど、よくよく考えれば現代の日本の格差社会はここまで顕在化しちゃったのかってゾッとしたんだ。
つまり、『アミスタッド』で扱われたディスコミュニケーションの問題は、自分とは関係のない歴史的な昔の話なんかじゃなくて、今なおコンスタントに存在する問題なんだよ。
時代によってそれぞれパッケージがちょっと変わっているから、構造的な共通点がわからないだけで、どの時代のどんな人も実はだいたい同じような問題に苦しみ、悩んでいたりする。
だからこそスピ監督は、こういう映画を(金にもならないのに)親切にも撮り続けてくれる。
こんないいクリエイター日本にいるか!!w
それに、この映画の前に偶然『ロード・オブ・ウォー』っていう死の商人の映画を見たんだけど、そいつが武器を売っている相手がリベリアやシオラレオネといった西アフリカだったんだよ。これは厳しいなって。つまり『アミスタッド』で自由を手にした奴隷シンケの母国は今なお大変な状況なんだという・・・
また、私に一生ダイヤモンドは買わねえぞと誓わせた(もともと経済的に買えないけど)映画『ブラッド・ダイヤモンド』では違法ダイヤによって、ついこないだまで内戦が起こっていたことがわかる。つまり、基本的人権っていうのは実際にはデフォルトなんかじゃなくて、常に考えていないとあっさり踏みにじられてしまうものなんだろうね。
結局この映画で語られるように、私たちは良くも悪くも「歴史」という文脈からは逃れられない。そして「自由」という言葉も、実はすごい重い責任が伴う概念だということがわかる。パッと見、無責任なゆる~い感じの言葉なんだけど、実は一番ハードモードだっていうね。
自由という意味の国、リベリアが自由に弱いものを気晴らしに虐殺しているわけで、とどのつまり人間というのは自由にするとそこまでやっちゃう動物なのかもしれない。時と場合によっては。
だがスピ監督はギリギリのところで人間の善意が勝利すると確信している。じゃなきゃあんな映画を撮りつづけられないよ。
いや、それは訳せません。「べきだった」は訳せない。
メンデ語に「べきだった」はないのか?
ありませんよ。やるかやらないかどっちかだ。
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