42 ~世界を変えた男~

 「面白い度☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆」

 やり返す勇気のない選手になれ、と?

 やり返さない勇気を持つ選手になるのだ。


 メジャーリーグの唯一の永久欠番42にまつわる、初の黒人メジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンの物語。
 その場の怒りや反撃は問題の本質的解決にならないというテーマの映画だったけど、なぜ野球の乱闘シーンは胸踊ってしまうのでしょうか(^_^;)『風立ちぬ』で飛行機失敗シーンで笑っちゃったように、笑いってやっぱり悪魔的で、不謹慎の中に生まれちゃったりするんだろうね。
 レイシズムが許せんとか、そういうのじゃなくて、単にこういう星野仙一的展開が面白い。もちろん自分が巻き込まれちゃったらただじゃ済まないし、嫌なんだけど。檻の外で眺めている分には、ね。ずるいよ、ね。

 しかし、この映画、人種差別や偏見を克服する『タイタンズを忘れない』みたいな感動映画なはずなんだろうけれど、ついこないだまで経済学の勉強をしていたから、あのハリソン・フォードオーナーの戦略(メジャーリーグに黒人選手を入れる)は、単にアンチ差別や善意ではなく、かと言って作中語られる昔の思い出の罪悪感なんかでもなく、トレードオフの原理の経済的合理性が働いたんじゃないかなって思っちゃう。
 すごいよね、経済学。やればやるほど、どんどん嫌われ者になっていくよね!キュウべぇが女子中学生の神経さかなでるようにねw身も蓋もないこと思って、言っちゃうからね。
 でも、実はあのオーナーも最初の方で「野球は金田・・・じゃなくて金だ」みたいなことを言って、そしたらジャッキーが「え~・・・?」みたいに引いたから、ちょっと話題変えたじゃんw「あれ?儲けたいからっていう本音路線、こいつにはダメだわ」ってw
 まあ、もちろんハリソンオーナーにも善意があったり強い信仰心があって(メソジスト派)、そういうものがなきゃ、人種差別とは戦えなかっただろうし、あんな誹謗中傷や脅しを受けても屈しないなんて、そんな気骨な人たち今時じゃ少年ジャンプ編集部くらいしかないわけでw

 でも、いろいろな社会派映画を観てきて(主に『フェアゲーム』)、また、いろいろな人生経験をしてわかったのは、理想“だけ”じゃ人も世の中も動かないし、動かせないってことなんだよ。
 理想も確かに大切で、現実に人の心を動かすのだろうけど(そう思い込まなきゃ創作はできません)、でもそれをやる際に自分もリスクを負うとなると、人は理想だけじゃ行動してくれない。せいぜい「頑張ってね~応援してます」くらいで、傍観者モードに入る。まあ、それだってすっごいありがたいんだけど、なにか大事業を起こすときに、全員がこのモードに入られると厳しい。

 だから、本当に社会を変えたいならば、人間の利己的な、身も蓋もない嫌~な部分も考慮に入れて動かさないといけない。もちろんそれは自分自身に対しても。
 おそらくフォードオーナーは自分の心が負けそうな時に、「でも待てよ、黒人選手が入ったら、うちの球団は莫大な利益がもたらされるぞ」って自分の心に言い聞かせたんじゃないかな。
 昔は、あまりに人種差別の抵抗が強くて、黒人選手がもたらすメリットとデメリットを秤にかけたらデメリットが多くなっちゃって、それで二の足を踏んだのかもしれないが、時代は変わって1947年くらいになると、オーナーから見て「今なら行ける!」って思ったんじゃないかなあ。
 そして、さらに経済学的、ゲーム理論的に考えれば、こういう時って先駆者利益が独り占めできるわけで、頃合さえ合えば最初の黒人選手で大儲けなんだよね。
 さて、ではここで、黒人を使うべきか悩むハリソンオーナーの頭の中を覗いてみよう。

 デメリット:誹謗中傷、脅迫、嫌がらせが来たらどうしよう
       黒人を嫌がる監督や選手が球団を出てったらどうしよう
       黒人を嫌がるスポンサーが降りたらどうしよう
       黒人を嫌がる地域が自分たちの球団を排除したらどうしよう

 メリット:オレって人種差別と戦ういい人じゃね?という自己肯定感
      黒人ってだけで潰された優秀な野球選手の友達への罪滅ぼし
      ここまで信仰心を貫けば、死んだとき神様に褒められるぞ
      今なら黒人差別の流れが変わりそうで案外いけそうな気がする
      なによりジャッキー・ロビンソンが選手として超一流。
      黒人の身体能力を利用できないなんて有効な資源の無駄。不条理。
      最終的に“とにかく金になる”!
      
 と、これらの要素を踏まえて、トレードオフの原理にかけたんだろう。例えばデメリットの二番目はレオ・ドローチャーっていうスケベなんだけど、チームが勝つならなんでもあり、のすっごい合理的な監督を持っていたのが幸いした。

 勝つならゾウも入れるし、下手なら自分の弟の首も切る。

 それにデメリットの最後は、結局のところ黒人を嫌がるチームが試合を棄権するってことになるから、そうなるとこっちの不戦勝になってむしろラッキー。
 そうやって計算していったら、これはロビンソンをなにがなんでもメジャーリーグにねじ込んだほうが得だろうという。
 いや、なんかすごいドライなこと言ってるのはわかるけど、若い人たちに言いたいのは、それくらい善意の行動っていうのは、複雑な世の中では困難だってことなんだよ。
 実力や立場のある人が、ありとあらゆる手練手管を駆使してやっと世界は変えられるんだ(変えられないことのが多い)。漫画やアニメの中みたいにヒーローが悪党殴って解決するような、そんな単純な問題じゃないんだよ。現実ではやり返しちゃダメなんだよ。
 作中オーナーが言うように「同情」の起源はギリシャ語の「苦しみ」らしい。これは示唆的だ。同情は辛い。同情するなら金をくれって言われちゃうからね。
 そこで金を何もためらわず差し出せるのは、相当信仰心の強い人か、その投資が長期的スパンで考えると十分以上に回収できると見込んだ場合だろうなあ。
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