参考文献:矢ヶ崎典隆、加賀美雅弘、古田悦造編著『地誌学概論』
歴史地誌的アプローチとその利点
歴史地誌的アプローチとは、時間軸に沿って、地域の景観、土地利用、資源の利用形態、生活文化、産業活動などの移り変わりを明らかにして地域性を解明するアプローチのこと。
利点①ダイナミックな地域の変化を把握し、そのメカニズムを検討できる。
利点②現在の地域性を歴史的な背景と変化に基づいて説明することができる。
利点③ミクロスケールの地域も、マクロスケールの地域も設定可能。
三大宗教の分布(4月出題)
世界三大宗教はキリスト教、イスラム教、仏教だが、宗教人口の内訳を見ると、キリスト教が33%、イスラム教が20%、ヒンドゥー教が13%で、仏教は信者の人口の数では第4位(6%)だったりする。
キリスト教はヨーロッパ系の人が多く住む地域(ヨーロッパ、南北アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど)に普及している。
キリスト教はエルサレムが発祥地で、ローマ帝国の拡大に伴ってヨーロッパ全土に普及、4世紀にローマ帝国が西と東に分裂すると、西はローマカトリック、東は東方教会となり、16世紀の宗教改革では教会主導型のカトリックから、住民主導型のプロテスタントが分派している。そのような経緯からカトリックはヨーロッパ西部、スペイン、ポルトガル、ラテンアメリカ、フィリピン(スペインやポルトガルの植民地)に、プロテスタントはドイツから北欧、イギリス、アングロアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドに分布している。東方教会はロシアやCIS諸国、ギリシャなどに信者が多い。
イスラム教は多数派で指導者を公平に選ぶスンニ派と、少数派で指導者をマホメットの子孫に限定するシーア派に分かれ、北アフリカや西アジアの乾燥地帯、パキスタン、バングラディッシュ、マレーシアといった東南アジアなどに信者が多い。
仏教は大乗仏教(日本、韓国、東アジア)、上座部仏教(タイ、ミャンマー、スリランカなどの東南アジア、南アジア)、チベット仏教(チベット、モンゴル、ネパール)などに分けられる。
グローバル化と文化景観の変化
グローバル化は人、財、資本、サービス、情報の国際的移動が活発になり、世界における経済的結び付きが強まること。
グローバル化は制度的な障壁(入国管理、関税、投資規則)や文化的な障壁(民族、言語、宗教)の撤廃、交通インフラの整備、通信情報技術の革新によってもたらされた。
グローバル化は国や地域の文化景観(人間によって作られた景観)に影響を与え、日本では、様々な文化的要素が無秩序に流入することにより、混沌とした多様な文化景観の構築と、マクドナルド化に代表されるような文化景観の標準化、画一化が、相互に関連しながら同時に起きている。
無秩序化・多様化
かつての文化景観のアイデンティティを弱める。新たな文化景観の創出。景観のアイデンティティの見直し。地域活性化に繋がることも。
標準化・画一化
地域や場所の個性を無視。どこでも同じような景観作り。
中国の退耕還林政策
退耕還林政策は、生態系保護の代表的なもので、土壌流出が顕著とされる傾斜が25度以上の土地の耕作をやめてそこに植林を行なっていくものである。これによって耕地を取り上げられた農民に対しては一定期間の補償と一部山林の経済的利用が認められる。
中国全体の統計で言えば、耕作をやめた農民の収入は増加、自然観光の改善によって観光客が増え農村経済も向上しているが、山間部では耕地を減らして食料を自給できなくなると生活が立ち行かないという切迫した状況がある。彼らが耕地と引き換えに受け取る補償も中長期的な生活を保障するものではない。
アメリカの移民とホスト社会
ホスト社会とは多民族社会、多文化社会における多数派の社会のこと。エスニックマイノリティーの対義語。
ホスト社会が少数派の移民に対する感情は時代と共に変化しており、新たな移民はアングロサクソン系のアメリカ社会に同化することが望ましいという同化論から、20世紀に入るとヨーロッパ移民がそれぞれの伝統を維持しながら統一されたアメリカを形成するというメルティングポット(るつぼ)論に、現在ではアメリカを多民族多文化社会であると考えるサラダボウル論が一般化している。しかしこの議論(文化相対主義)が行き過ぎるとアメリカが分裂しかねないという危惧もある。
東南アジアの緑の革命
緑の革命とは稲の新品種の普及をテコにした技術革新のこと。フィリピンと中心として開発された品種により、肥料反応性の向上による多収化、生育期間短縮による二期作の拡大が実現した。しかし米の輸出国として品質管理に慎重な姿勢をとったタイや、政情不安定から新品種の導入が遅れたインドシナ三国(ベトナム、カンボジア、ラオス)など、普及の進め方には国によって違いがあった。
また資金や水利に恵まれない階層や地域では経済格差が生じ、肥料の購入などの補助や水利開発を組み合わせたパッケージプログラム方式が導入されるといった配慮がなされた。
緑の革命の結果、80年代にはフィリピンやインドネシアなど米輸入国は自給が達成され、農村の経済水準が向上し、国際市場の米の需要は緩和(供給量が需要を上回ること)された。
中東とは何か
中東(ミドルイースト)はイギリスやフランスから見て中東ということ。
帝国主義の領土的関心(植民地支配の戦略)から、イギリスやフランスから近い東方は近東(バルカン、トルコ~レバノン、シリア)、オスマン帝国よりも東のイラン~アフガニスタンを中東と呼んでいたことに由来する。
現在でも中東が示す領域ははっきりしていないが、イランから西、アラビア半島、トルコ、エジプトからモロッコあたりまでを示すことが多い。場合によってはソマリアや西アフリカ、アフガニスタンを含めることもある。
日本から見れば中東は東ではないのだが、西アジアと呼ぶと、中東エリアが今なお続く紛争や戦争の舞台になってきたという地域の歴史性が消えてしまう。さらに中東エリアに住む人たちも自分たちの地域を中東と呼んでいたりする。
EUの成立と発展(8月出題)
ヨーロッパでは世界に先駆けて産業化が進み、19世紀に入ると工業化を進める国家のあいだで競争が激化、石炭と鉄鉱石の争奪戦が起きた。
19世紀後半~20世紀前半にかけてドイツ西部のザール炭田とフランス東部のロレーヌ地方の鉄鉱石、ライン川の交通路をめぐってドイツとフランスは激しく争った。
しかし世界大戦によってヨーロッパの経済は疲弊、その地位は凋落してしまう。第二次世界大戦後、西ヨーロッパにおいて紛争の火種になる資源を国家間で共有し、協力体制を築くために、石炭と鉄鋼の関税引き下げ(石炭鉄鋼共同体ECSC)、産業部門全体の経済協力(ヨーロッパ経済共同体EEC)、原子力資源の協力(ヨーロッパ原子力共同体EURATOM)が実現した。
70年代にはECは西ヨーロッパの国家群の代名詞となり、さらに東西冷戦構造が終わるとECは東ヨーロッパに対する統合としての意義を失い、91年のマーストリヒト条約によって93年にEUが誕生する。95年には加盟国は15カ国に、シェンゲン協定に加盟した国での国境の行き来は自由になった。02年には共通通貨ユーロが導入されている。
04年になると東ヨーロッパの旧社会主義国をはじめとして10カ国が新たに加盟、多様な地域から形成されるEUには公用語や地域間格差など様々な問題がある。
ラテンアメリカの人種構成
①先住民のインディオ人口が多いタイプ(ペルー、ボリビア)
②メスティソ(白人+インディオ)の人口が多いタイプ(メキシコ、ベネズエラ)
③ムラート人(白人+黒人)の人口が多いタイプ(ドミニカ共和国、パナマ)
④白人人口が多いタイプ(アルゼンチン、ウルグアイ)
⑤黒人人口が多いタイプ(ハイチ)
⑥多様な人口構成になっているタイプ(ブラジル)
ラテンアメリカでは社会の最上位は白人であり、白人でない者は少しでも白人に近づきたいと、自分がインディオや黒人じゃないことをアピールした。
18世紀には混血者が厳密に細分化され、格上げ恩赦の勅令で、混血者でも教育や品行に問題がなければ白人になることができた(ただし有料)。
18世紀後半になると同じ白人でも、宗主国から派遣された白人(ペニンスラ)と、植民地生まれの白人(クリオーリョ)が対立し、19世紀に入ると各地で独立運動が勃発、メスティーソの社会的地位が向上し、混血性こそがラテンアメリカの本質であるというイデオロギーが高揚した。これにより白人の優位性は建前としては否定された。
IMFと世界銀行の構造調整政策
構造調整政策とは、国際収支が困難になった開発途上国に外貨を貸し出すことと引き換えに、為替の切り下げ(自国通貨のレートを下げること)、財政・金融の緊縮政策(歳出を減らす)、対外経済自由化、規制緩和、民営化、行政の合理化などが要求される政策。
これは輸入依存の高いアフリカ諸国では逆にインフレを起こし、低所得者層の生活は一層苦しくなった。
ケニアでは80年代から構造調整政策が行われ、合理化と自由化の下、大量の下級公務員が失職、安い輸入品はケニアの製造業を直撃、国家の統制を外された主食のとうもろこしやパンの価格は高騰してしまった。
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