法律学概論覚え書き②

日本国憲法における基本的人権の保障
法と権利は密接に結びついている。権利は法によって認められ初めて保障されるものであり、公法上の権利として最も重要なものが基本的人権である。
基本的人権には、平等権、自由権(18世紀的権利)、参政権(19世紀的権利)、社会権(20世紀的権利)などが含まれる。
これらの人権は「侵すことのできない永久の権利」(憲法11、97条)とされているが、権利と権利が衝突した際には、他人の権利は侵害しないという合意のもとお互いに譲り合い妥協点を見つけなくてはならない。

公共の福祉
憲法12条には自由や権利を濫用することを禁じるとともに、公共の福祉のために用いる責任があることを定めている。
公共の福祉とは、社会生活における各個人の共通の利益を指し、全ての人に平等に人権を保障するための原理である。したがって憲法が保障する基本的人権には、限界や制限が現実問題として存在するのである。

ダブルスタンダード
このような個人の自由と公共の福祉の対立は、精神的自由の限界を示す自由国家的公共の福祉と、経済活動の自由の限界(=所有権の絶対性に対する制限)を示す福祉国家的公共の福祉に分けられる。
日本の最高裁はこの二つのタイプの対立にそれぞれ異なる判定基準を用いている(ダブルスタンダード)。自由国家的公共の福祉に対しては、精神の自由が民主主義の根幹をなすものであるからという理由で規制を容易には認めず、一方の福祉国家的公共の福祉に対しては社会的弱者を保護するためとして、ある程度の規制は合憲であると広く判断される(合憲的推定)。

平等権(憲法第14条)
憲法が定める「法の下の平等」とは形式的な平等ではなく、実質的な平等(弱者保護の観点から合理的差別を認める)を定めていると解釈されているので、育児休暇の補償や累進課税制度、少年犯罪の減刑、男女の婚姻年齢の区別といった合理的な差別は認められている。
また定住外国人については国政、地方ともに選挙権、及び公務員試験の受験資格は認められておらず、最高裁でもこれらの差別は合憲であると判断している。これに対して川崎市などの一部地方自治体では、国籍条項を外国人に対する不合理な差別(憲法14条違反)であると、同条項を自主的に撤廃している。
女性差別については1999年に男女共同参画社会基本法が制定され、女性を社会に積極的に参加させるアファーマティブアクションが取られている。

尊属殺人重罰規定違憲判決(1973年)
父親に繰り返し強姦された娘がとうとう我慢できなくなって父親を殺してしまった事件(栃木実父殺し事件)の裁判において、ほかの殺人よりも親殺しを重い罪とする刑法200条が憲法14条に違反するとして下された違憲判決。
最高裁判所が違憲立法審査権を発動し、既存の法律を違憲(法令違憲)とした日本初の判例。

自由権

思想・良心の自由(憲法第19条)
思想・良心の自由は内心(心の中)の自由であり、公共の福祉において制限されることはありえない。したがって1999年に制定された国旗・国歌法や、「国及び郷土を愛する心」を明記した2006年の改正教育基本法などは、思想・良心の自由に侵害するとして批判が上がっている。
また1973年の三菱樹脂事件は、会社側が思想を理由に本採用を拒否したことが争点になったが、最高裁は憲法19条は私人の間では直接的に適用されないとして会社側の措置を合法としている。ちなみに、民法の公序良俗違反を考慮した上で間接的に憲法を適用する説を私人間効力間接適用説という。
さらに裁判所の謝罪広告命令も合憲となっている。

信教の自由(憲法第20条)
憲法には政教分離の原則が定められているが、最高裁はこの原則に対して政治と宗教のある程度の関わりは認めている(小泉総理の靖国神社公式参拝問題など)。

津地鎮祭訴訟(1977年)
三重県津市が体育館建設の際、公金で地鎮祭を行い問題になったが最高裁は政教分離に反しないと合憲判決を出した。

愛媛玉串料訴訟(1997年)
愛媛県が靖国神社に玉串料を公金から出して問題になり、最高裁は違憲判決を出した。

北海道砂川市政教分離訴訟(2010年)
北海道砂川市が所有する土地を市内の神社に無償提供していた問題で、最高裁はこれを違憲とした。

表現の自由(憲法第21条)
表現の自由は娯楽や報道、デモや選挙活動まで、その自由を保障している。1972年の外務省機密漏洩事件においては報道機関の取材の自由を認めた判決が出されている。
また憲法21条2項には公権力の検閲の禁止と通信の秘密が、表現の自由を守るための制度的保障として定められている。しかし1999年の通信傍受法など例外は存在する。

東京都公安条例事件
デモ行進許可制を合憲と判断。

チャタレー事件
わいせつな本を出版した書店の社長と翻訳家が逮捕。
こういったわいせつな本を税関で輸入禁止にすることも公共の福祉を守る上で合憲となっている(税関検査訴訟)。

北方ジャーナル事件
選挙の立候補者に対して嘘の記事を書いた雑誌が発行を事前に差し止められた。

『石に泳ぐ魚』事件
小説家の柳美里が知人の在日外国人の私生活を無断で小説に取り上げたことがプライバシーの侵害に当たり、これも発行が差し止められた。

学問の自由(憲法第23条)
主に大学自治を保障したものであり、大学内に警察などの国家権力が干渉することを禁じている。
しかし私服警察官が無断で劇団の公開上演に潜入した東大ポポロ劇団事件では、劇団の上演は大学の自治に関わるような学問的研究の発表の場ではないので、それを侵害しないとした。

身体の自由(憲法第31、33、35、39条)
憲法第31条において罪刑法定主義法定手続の保障を定めている。前者の「法」は刑法、後者は刑事訴訟法、行政手続法を指している。
また令状がなければ逮捕されない令状主義(33、35条)や、その刑罰ができる前の行為はその罰則で裁くことができない遡及処罰(事後法処罰)の禁止、判決が確定した以上は、重ねて審理を繰り返して再処罰はできない一事不再理(ともに39条)なども明記されている。

経済活動の自由(憲法第22、29条)
経済活動の自由は職業選択の自由(22条)と財産権=私有財産の不可侵性(29条)に規定されている。
職業選択の事由に関しては、1975年に過当競争や不良薬品の供給を防止するために規定された、薬事法の薬局開設距離制限規定を職業選択の自由に反するとして違憲、無効としている。
また財産権については1987年に最高裁は、共有林の分割による森林伐採を防ぐために規定された森林法の共有林分割制限規定に対して違憲判決を出した。これは持分面積の半分以下では共有者の分割請求(共有するのではなく、分けあって所有する請求書)ができないという規定であったため、その所有権を不当に制限していると考えられたためである。

参政権(憲法第15条)
国民の公務員選定・罷免権や、普通選挙、平等選挙、秘密選挙を保障。
また直接民主制的な参政権として、最高裁判所裁判官の国民審査や、地方特別法の住民投票、憲法改正の国民投票を規定している。

請求権
人権侵害に対する救済や保証を国家に請求できる権利。
ややこしいのが請求権の中に請願権が含まれること!
①請願権(憲法第16条)
法律の制定、損害の救済について国民が議会や行政機関に要望を伝える権利。
しかし請願を受けても、議会や行政機関に実行の法的義務はない。
②国家賠償請求権(憲法第17条)
公務員の不法行為による損害に対する損害賠償請求の権利。
③裁判を受ける権利(憲法第32、37条)
全ての人が裁判所で人権救済を求めることができる権利。刑事被告人に対しては公平・迅速・公開の裁判が保障されている。
④刑事補償請求権(憲法第40条)
逮捕で抑留・拘禁された後に裁判で無罪になったとき、国家に補償を請求できる権利。

社会権

生存権(憲法第25条)
憲法では健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)を保障している。しかしこの権利を争った堀木訴訟や朝日訴訟では、憲法25条を根拠に社会保障は請求できないという判決を出した(プログラム規定説)。これは最低限度の生活水準が国の財政によって決定されるため、社会保障は国の努力目標であると考えられるからである。

朝日訴訟
療養所に入って生活保護を受けていた朝日茂さんが生活保護のアップを訴えた裁判。
最高裁はこの訴えを退けたが、この裁判がきっかけで生活保護の支給額は大幅にアップした。

堀木訴訟
障害者年金を受給していた堀木フミ子さんが年金と児童扶養手当の併給を請求した裁判。
最高裁は併給禁止の措置は国会の裁量の範囲として訴えを退けた。

教育を受ける権利(憲法第26条)
憲法26条によって教育を受ける権利と義務教育の無償(タダ)が定められている。

労働基本権=勤労権+労働三権

勤労権(憲法27条)
勤労の機会を国民が得られるような施策を国家に求める権利で、国は失業対策などを行なう責任がある。労働保護の中核になる最低労働条件もここに規定されている。

労働三権(憲法28条)
労働者の労働条件の改善を図る権利。
団結権、団体交渉権、団体行動権の三つ。
団体交渉で合意した事項は労働協約といい、これに反する労働契約や就業規則は無効になる。
正当な労働争議は刑事的にも民事的にも免責される。
労働争議には集団で労働を拒否するストライキ、意図的に作業効率を低下させるサボタージュ、座り込みによる入口封鎖のピケッティングなどがある。
使用者側の対抗手段としては、給料の支払いを免れるために工場を封鎖するロックアウトがある。
使用者の労働組合への妨害行為は、不当労働行為として禁止されており、労働委員会が救済命令を出すようになっている。
例えば黄犬契約(組合に加入しないことを雇用条件にすること。イエロードッグとは卑劣という意味)などは不当労働行為に当たる。
似た言葉で労働三法があるが、これは労働組合法、労働関係調整法(斡旋、調停、仲裁)、労働基準法(勤労条件や使用者の災害補償責任など)の三つ。

オープン・ショップ制度
組合への加入や非加入は自由という、組合員資格と従業員資格が無関係な制度。

ユニオン・ショップ制度
採用時は組合員でなくても良いが、採用されたら一定期間のあいだに組合に加入することが義務付けられている制度。組合から脱退した場合は解雇処分になる。

クローズド・ショップ制度
組合員でなければ会社に雇用されない制度。組合から脱退すれば会社も解雇される点はユニオン・ショップ制度と同じ。

斡旋
労使交渉の場を設けるのみ。

調停
解決案を作成し、労使双方に提示。その受託を促す。

仲裁
調停よりも強力で、解決案を拒否できない。

労働基準法
①賃金は通貨で直接、全額、月一回以上、一定期日に支払わなければならない(賃金支払の五原則)。
②1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えてはいけない。労働組合との協定があれば残業はできる。
③満15歳未満の児童の雇用の禁止。
④満18歳未満の深夜(夜10時~朝5時)労働の禁止。

フレックスタイム制
週40時間を超えない範囲で、労働者が仕事の始まりと終わりの時間を自由に決められる制度。

変形労働時間制
1ヶ月、あるいは1年を平均して法定労働時間を超えなければ、特定の日や週に法定労働時間を超えてもいい制度。

みなし労働時間制(裁量労働制)
研究開発や企画など特定の仕事においては、実際の労働時間に関係なく一定時間働いたとする制度。漫画家やアニメーターもこれになるのだろうか。
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