政治学覚え書き⑮(ガバナンス)

 おそらく最後の政治学覚え書き。政治はなんらかの政策を実行しないといけないんだけど、その政策過程について政治学ではどのように研究されているのか、を。

国際レジーム
国家主権を分類したことで知られるアメリカの政治学者クラズナーの定義では「国際関係における“特定の政策領域において”国々の期待が収斂するような明示的または暗黙的な原則、規範、規則、および意思決定手続きが創出すること」とされる。
国際レジーム論では、国際制度そのものを国際協調が具現化したものとして捉え、中央集権的な統治機構がない(アナーキーな)国際関係においても国際協調は可能であると考える。
国際レジーム論には三つの論点がある。
①アナーキーな国際関係においてなぜ国際レジームが形成されるのか。
②形成された国際組織はなぜ存続、あるいは変容するのか。
③国際レジームは本当に国際協調を促進するのか。

ネオリアリズムの国際レジーム論
国際組織が現実に存在していること自体は否定しないが、国際関係における協調の可能性を低く見積もっている新現実主義(ネオリアリズム)は、覇権国が存在している時に、覇権国の選好に合致すれば国際レジームは形成され、それを覇権国が支持している限り国際レジームは存続するが、覇権国が衰退するとそれに伴って国際レジームも脆弱になるという覇権安定論を唱えている。ちなみにモーゲンソーは多極安定論を、ウォルツは二極安定論を支持している。
新現実主義は国際レジームを「公共財」と考え、その提供者は、公共財の費用を負担できる覇権国しかありえないとする。また国際レジーム自体は国家間の力関係を反映したものにすぎず、国家の行動を協調的に促進する効果は持っていないと考える。

ネオリベラルインスティテューショナリズムの国際レジーム論
これに対して新自由主義制度論(ネオリベラルインスティテューショナリズム)は覇権国の存在が必ずしも国際レジームの形成・存続に必要ないとした。
国家は共通の利益を実現するために国際レジームを形成し、その利益が続く限り国際レジームも存続すると考える。
そして国際レジームが国際協調を促進するメカニズムについては、囚人のディレンマや、コースの定理などを挙げている。
彼らは国際レジームが存在しない状況で何故国際レジームが形成されるのかという①の問いには答えていないため、覇権国家による国際レジーム形成を否定していない。

コンストラクティヴィズムの国際レジーム論
ネオリアリズムとネオリベラルインスティテューショナリズムの考え方はどれも国家を合理的な主体であることが前提になっているが、構成主義(コンストラクティヴィズム)はこの合理的選択理論を批判する。構成主義には、国家の選好には知識共同体が影響を与えているというアイディアや知識を重視する立場や、アクター間の相互作用、国際関係の間主観性を重視する立場がある。
ここら辺の問題はサイモンのところで。

グローバルガバナンス
冷戦終結後の国際社会におけるグローバル化は、一国だけでは対応出来ない規模の大きな問題(グローバルイシュー)をもたらすことになった。
これに対処するための、国際社会における各国(及び非国家的主体)の活動を制御・規制する取り決めがグローバルガバナンス(ガバナンスとは「統治」の意味)である。
国際レジーム論では、各国を従える中層集権的な政府(地球連邦みたいなやつ)は存在しないと考えるが、かと言って完全にアナーキーな状態でもない今日の世界秩序をイシュー横断的に捉える包括的な概念(国際レジーム論では貿易、環境、安全保障などの特定領域を対象とする)で、多元的かつ重層的な国際ネットワークを射程に入れる。
アメリカの国際政治学者オラン・ヤングが提唱。

グローバルガバナンス論が示した重要な課題は以下の三つ。
①特定の問題領域に特化した国際制度や組織が、複数の争点の関連によって提示された問題にどうやって対応するか。(対象範囲がかぶるIMFとWTOや、労働と貿易を対象とするILOやWTOなどはうまく連携できるのだろうか?)

②国際社会におけるガバナンスの決定プロセスに、発展途上国や非国家的主体(国連やIMFなどの国際組織、多国籍企業、NGOなど)が新たに参加することによって、従来の決定プロセスは変容するのだろうかという「民主主義の赤字」の問題。

③多国間協調と国内利害のジレンマの問題。例えば、国際貿易の自由化が国内の集団に利益格差をもたらすといったような可能性(TPPの議論など)。
そしてこのような多国間交渉を従来通り政府に任せていいのだろうか。国際協調は国家内の利害対立を克服し推進されるのだろうか。

サミュエル・ハンチントン
著書『文明の衝突』で知られるアメリカの政治学者。
資本主義VS社会主義というイデオロギーの対立構造が冷戦終結によってなくなると、その代わりにキリストVSイスラームという宗教間の対立が起こることを予言。そして実際その通りになった。すごい。

サイモンの満足モデル
ハーバート・サイモンはノーベル経済学賞を受賞した政治学者。組織論が専門。
意思決定のプロセスは一般的に「課題設定→選択肢の探求→結果の予測→結果の評価→選択」という手順で行われるが、よくよく考えてみると現実問題として考えられる全ての選択肢を洗い出し、その結果を確実に推測、評価し、あらかじめ決められた評価基準に最も適合する選択肢を選ぶことは不可能である。
人工知能を作るときにもこんなようなNP問題は大きな障壁となっているんだけど、サイモンはそんなことリアルな人間はやっていない、人間は合理的であろうとする理想はあるものの、その合理性には限界があることを指摘、制約された合理モデル、満足モデルを考案した。
満足モデルの特徴は以下の三つ。
①選択肢の検討は一挙ではなく、ひとつずつ順番(逐次的)に行われる
②逐次的な検討の途中で、一応満足できる選択肢が発見された時点で選択肢の探求はきりがないので終了、最善の選択肢を発見することにはこだわらない。
探求を停止することによって余った時間やエネルギーは反対派の説得やほかの意思決定に使われる。
③結果を評価する基準(要求基準)は変化する。時間的制約がある場合、制限時間内に満足できる選択肢が見つからない場合は、要求水準を下げて、以前は満足できないと捨ててしまった選択肢を採用する。意思決定を放棄するよりはマシなので。

経済的人間
経済学が前提とする合理的な知性を持つ人間。多分そんな奴は人類にはいない。
ある種の理想。

経営的人間
決定の過程では合理性は制約されるが(満足モデル参照)、その目的意図においては制約を受けない人間。政治学や行政学が前提とする。

公共的人間
政治家や官僚などの政策エリートは、意図だけでなく結果においても合理的であることが多い。自分の決定が正当なものであるということを事前に説明することがあるからである。
公共的人間というと高い使命感と倫理観を持つ人という印象があるが、ここではしっぽを掴まれないような言い訳をあらかじめ考える人くらいの意味。

公共的人間における三つの観点
①アカウンタビリティ
説明責任。自分がおこなった意思決定について合理的な説明を行う責任。
②コンプライアンス
法令遵守。高度経済成長までに多用された、法的根拠が不明確な活動は現代では通用しなくなっている。
③トランスペアランシー
透明性。意思決定の過程をつまびらかにしても異論が出ないような論理武装が必要。

アリソンモデル
アメリカの政治学者グレアム・アリソンは、著書『決定の本質』において政策決定過程を、それを行う組織がどのように構成されているかという観点から三つに分類した。

①合理モデル
組織を一人の人間であるように単一の行為者と見る(最も単純なモデル)
問題点:誰にとっての国益か、何を国益とするかという問題

②組織過程モデル
組織の決定を組織内のルール適用の結果と見る
問題点:異なるルールや手順に従う複数の組織が決定に関与する場合、その政策決定は合理的でない場合があること

③政府内政治モデル
組織の決定を役職者たちの駆け引きの結果と見る(最も複雑なモデル)
問題点:関与する人間が変われば、同じ役職にあったとしても異なる政策決定がなされ、その駆け引きの相互作用を分析するのは極めて複雑。

アリソンはキューバ危機の際、核戦争を引き起こす可能性のある重大な決定が両国の一般市民をないがしろにして決定されたことを指摘し、政治的決定の影響を被る国民が、どのように政府をチェックすべきかという問題を提起した。

ゴミ缶モデル
組織論の研究者であるマーチとオルセンが提唱。
何か解決しなければいけない課題が先にあり、そのあとに解決方法を探すという政策過程は、極めて論理的で分かりやすいが、実際には「なんとなく」で政策を決めてしまい、そのあと政策にあった課題を後付けしまうこともある。
ゴミ缶モデルでは三つの前提がある。

①政策決定者の選好は不確か
何がしたいのかわからないままとりあえず参加して、徐々に自分のしたいことが分かったり、分からなかったり…

②政策決定者の持っている知識や情報は不確か
課題について十分に知識を持っていないこともある。

③政策決定への参加は流動的
参加者が日によって変わったり、同じ参加者でも積極性が日によって違うことがある。

この①~③を総括してマーチらは組織化された無秩序と呼んだ。
政策決定は偶然に左右され、課題や政策はまるでゴミ箱にゴミを投げ込むかのように適当に政策決定の場に投げ込まれるというのだ。

コーポラティズム
協調主義という意味。
単一、もしくは少数の頂上団体をそれぞれに持つ経営者と労働者が、賃金や物価上昇率を協議、そこで決定された方針に従って頂上団体が下位の利益組織を統制するような政治体制を指す。
各種の団体や組織が階層的に構成されている(そのヒエラルキーのトップが頂上団体)、頂上団体と政府との関係が安定的などの特徴がある。

デュアリズム
二元主義という意味。
労使交渉の対等性を訴えるコーポラティズムに対して、労働者の立場の弱さを強調する。
利益団体の影響力は均等ではなく、多元主義的な均衡も実際には強い団体に有利に形成された偏った均衡であると考える。

政党の機能
①政策形成機能
利益団体や国民の利益、意見を政治過程に吸い上げる。
政党のメンバーの議員が地元の要望を聞き入れ、地元に有利な政策を提案する。
数多くの団体や個人の利害を調整して、いくつかの政策にまとめる。

②政治的指導者の選抜と政府の形成
特に政権与党の党首が首班指名される議院内閣制や、単独で政権を取れない連立政権では重要。国民が首班を選ぶ大統領制においても政党支持態度に基づいて候補者に投票する有権者が多いことから(ミシガンモデル)政党が指導者の選抜に与えている影響は大きい。

③政治家の人材発掘と登用
政治家を発掘して育てる(政治的リクルートメント)。自民党の派閥など。

④国民の政治教育
テレビや新聞などのマスメディア、選挙運動を通じて国民に政治教育を行なう。
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