昨年度の経験で興味関心を持った分野。イギリスの教育業界では、「障害(ディスアビリティ)のある子ども」って言うとネガティブなイメージが大きいからか、特別な教育的ニーズを有する子ども(チルドレン・ウィズ・スペシャルエデュケーショナルニーズ:SEN)と呼んでいるらしい。
ニーズか・・・なるほど。これぞポリティカルコレクトネス。鳥は空を飛べるけど、空を飛べない人間はディスアビリティなのかっていう話だよね。いやいやニーズが違うんだという。
国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない。――教育基本法
参考文献:石部元雄、柳本雄次編著『特別支援教育―理解と推進のために―』
特別支援教育の基本的視点
特別支援教育とは、障害の特性に応じた専門性の継承だけではなく、障害のある子が障害のない子とともに学ぶことができる統合性と、生活の拠点であるコミュニティに根ざした地域性を重視した教育である。また同時に、通常学校の抱える教育問題の解決とも深く関わっているといえる。
さて、07年の文部科学省「特別支援教育の推進について」において、特別支援教育の理念が改めて示されている。
「特別支援教育は、障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取り組みを支援するという視点に立ち、一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行うものである。
また、特別支援教育は、これまでの特殊教育の対象の障害だけでなく、知的な遅れのない発達障害も含めて、特別な支援を必要とする幼児児童生徒が在籍する全ての学校において実施されるものである。
さらに、特別支援教育は、障害のある幼児児童生徒への教育にとどまらず、障害の有無やその他の個々の違いを認識しつつ様々な人々が生き生きと活躍できる共生社会の形式の基礎となるものであり、我が国の現在及び将来の社会にとって重要な意味を持っている。」( 『特別支援教育―理解と推進のために―』22ページ)
こうした状況の中、特別支援教育には新たな課題が現れた。一つは、支援を行なう対象が広がったことによる知的障害特別支援学校の在学者の急増対策、もう一つが国連の「障害者の権利条約」への批准に向けた条件整備である。
この課題に取り組む一環として、障害のある子どもが障害のない子どもと共に教育を受けるというインクルーシブ(包括的)教育の理念や、個別の教育的ニーズのある子どもに対して、そのニーズに的確に応える指導を提供できる多様で柔軟な仕組みを整備することの重要性が主張されている。
この他、就学相談・就学先決定のありかた、インクルーシブ教育システム構築のための人的・物的な環境整備、教職員の確保及び専門性向上のための方策について意見が交わされている。
特別支援教育における学校内外の連携体制
特別支援教育は、学校の教職員全体の特別支援教育に対する理解の下に、学校内の協力体制を構築するだけでなく、学校外の関係機関との協力が不可欠である。
小中学校においては、学級担任や児童生徒に対する支援を行うための校内委員会の設置、また、外部の専門家チームや巡回相談との連携体制の構築が進められている。
校内委員会は、学習や生活で特別な支援を必要としている児童生徒に対しての支援の中心であり、学級担任に対して助言やサポートを行う中核組織であり、この校内委員会の円滑な運営、活動なしでは特別支援教育の進展は期待できない。
専門家チームは、障害の評価、判断、望ましい教育的対応についての意見の提供、学校の支援体制への指導、助言、本人および保護者への説明、校内研修への協力などを行う。
巡回相談員は、児童生徒や学校のニーズの把握と、指導内容・方法といった校内の支援体制づくりへの助言、個別の指導計画の作成への協力などを行う。
地域の支援体制としては、広域特別支援連携協議会の設置が提言されている。専門性の高い機関が中心となり、関係機関に対する支援やこれらの機関との連携協力の調整を図るなど指導的な役割を果たしていくことで、支援地域に効果的な教育的支援体制を構築する。
特別支援コーディネーター
特別支援コーディネーターとは、校内の特別支援教育の推進役であり、校内の特別なニーズのある子どもを把握するため、諸検査を実施したり、情報交換のための校内委員会を(月一回、最低でも学期に一回)開催し、個別の教育支援計画や個別の支援計画を作成する。
それと同時に特別支援コーディネーターは、外部の関係機関に対する「学校の顔」でもある。
巡回相談員との連携では、学校から市町村教育委員会へ巡回相談を依頼し、市町村教育委員会から巡回相談員へ個票を送付してもらう。そして、巡回相談員に観察してもらう子どもの座席表を作成したり、相談を受ける部屋を用意し、巡回相談当日は同席のうえで情報提供を行う。
その際には、保護者に対する心理検査や医療機関への受診を専門家である巡回相談員から勧めてもらうようにする。ここで注意する点は、あくまで学校での子どものよりよい成長や発達を支援するための方針を得るために検査を受けることが必要であることを保護者に話すことである。
保護者との連携では、担任教師と保護者との関係がうまくいかない際に、コーディネーターがその間の調整役になって学校への信頼関係の構築に努める。
その他、関係機関との連携では、特別支援学校はその地域の特別支援教育の中心として位置づけられ、地域の小中学校などから支援の要請があれば、特別支援学校の教師が直接学校や園を訪問し支援を行うのだが、その際に校内のコーディネーターが知的特別支援学校と小中学校のパイプ役になって支援の要請を行う。
また子どもが医療機関やリハビリテーション機関に通っている場合は、それらの機関との信頼関係を築くと共に、児童生徒などのさまざまな教育情報を収集して指導や支援に生かす。
以上を踏まえると、特別支援コーディネーターの役割は以下の5つにまとめることができる。
①校内の関係者や医療、福祉等の関係機関との連絡調整、保護者との関係作りを行う。
②保護者に対する学校の相談窓口となり、保護者を支援する。
③担任の教師に対して、相談に応じたり、助言したりするなどの支援を行う。
④校内での適切な教育的支援につながるよう教育委員会に設置されている巡回相談や専門家チームとの連携を図ること。
⑤校内委員会の適切で円滑な運営がなされるよう推進役を担うこと。
特別支援教育の指導
特別支援学校
かつての盲学校、聾学校、養護学校が合体してできた、複数の障害種(視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱)および重複障害に対応可能な学校制度である。
特別支援学級
小学校、中学校だけに設置されているが、学校教育法(第81条)には高等学校にも置いて良いとされている。
在籍する児童生徒の障害や能力、適性が多様であるため、1学級あたりの児童生徒の数は8人が標準となっている。
知的障害学級(IQ75以下)、情緒障害学級(高機能自閉症や緘黙など)、聴覚障害学級といった感じで障害種別にクラス分けがされている。これらをまとめて特別支援学級という。
通級による指導
小中学校の通常学級に在籍している軽度の障害のある児童生徒に対し、障害の改善・克服を目的として、通常学級の教科の指導を特別な指導とともに行うことである。
在籍校内で実施される場合と、在籍校以外の学校において実施される場合がある。
後者の場合、当該児童生徒の在籍校の校長は他の学校での指導を特別の教育課程に関わる授業とみなすことができる。
領域・教科を合わせた指導
日常生活の指導、遊びの指導、生活単元学習及び作業学習を指す。
通常指導は領域別、教科別に行われ、学問的に分化した内容を系統的に教えるのに対し、領域・教科を合わせた指導では、領域、教科に分けず学習内容を包含的に取り上げ、実際の子どもの生活に即した具体的な活動を重視する。
特別支援学校の教育課程と編成上の特例
特別支援学校における教育課程は、「学校教育の目的や目標を達成するために、教育の内容を児童生徒の心身の発達に応じ、授業時数との関連において総合的に組織した学校の教育計画である」と定義され、その教育内容は、子どもの学習や心理的発達という観点から分類(スコープ)や系統化(シークエンス)が図られている。
特別支援学校には独自の教育領域として自立活動が、幼稚部、小学部、中学部、高等部のすべてに設定され、現在では健康の保持、心理的安定、人間関係の形成、環境の把握、身体の動き、コミュニケーションの6つに区分されている。自立活動の内容は学年や障害の種別によって自動的に決まるのではなく、一人ひとりに応じて個別に指導計画を立てなければならない。
特別支援学校の教育課程は、基本的に幼稚園、小学校、中学校、高等学校に準ずる(同じことをやるということ)とされているが、知的障害の場合はその障害の性質上、教育課程の枠組みが例外的に特有のものとなっている。以下に記す。
小学部
小学部全体が小学校低学年のスコープになっており、外国語と総合的学習の時間は設定されていない。
中学部
教科編成が中学校と異なり技術・家庭が職業・家庭に、また中学校で必修の外国語が選択科目になっている(ただ設定する場合は授業時数の点では必修扱い)。
高等部
高等学校にはない道徳が設置されており、また、各教科(国語、数学など)・各科目(現代文・古典、数学Ⅰ、数学Ⅱなど)の構成ではなく、すべて教科のみで構成されている。さらに知的障害特別支援学校の高等部は修了認定を単位ではなく、授業時数で規定している。
なお、知的障害の教科は高等部の専門教科を除いて、学年別ではなくすべて段階別として示され、小学部に3段階、中学部に1段階、高等部に2段階の計6段階で構成されている。
さらに、障害の重度・重複化に伴い、特別支援学校では教育課程を組むにあたって以下のような特例が認められている。
①各教科の目標・内容の一部を取り扱わないことができる。
②各教科の各学年の目標・内容の全部または一部を、前学年や前学部のものに取り替えることができる。
③知的障害を除く特別支援学校の外国語については、小学部の外国語活動の目標・内容の一部を取り入れることができる。
④小学部・中学部では幼稚部教育要領のねらい・内容の一部を取り入れることができる。
⑤重複障害児教育において各教科の一部または各教科に替わって自立活動を主に指導できる。
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