「面白い度☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆ 緊張感☆☆☆☆☆」
約束したんだ。終わったら家に返すと。
デンマークにナチスが埋めていった220万個の地雷を、戦後、ドイツ少年兵に撤去させるという、地獄の黒ひげ危機一髪を描く、近年稀に見る大人はクソ映画。
やつらはもっともらしい綺麗事を言うのだけは上手いけど、結局は自己保身や利権のことしか考えてないからね。
協調性が大切とか言いながら、やつらがやってきたことはファシズムと異分子の阻害ですよ。ほいで、バンドワゴンに乗れたら大きな顔ができるけど、負けちゃったらこの有様。正義の名のもとに人間扱いされずにリンチ。中学生くらいの少年が爆死しようが餓死しようがシラヌ・ド・ゾンゼーヌ。
戦争は恐ろしいとか、あの時代は狂っていたとか、そういう話じゃないよ。今だよ。社会科教師は基本的人権がなんだとかうそぶくけれど、世の中結局は戦って勝たないといけない。負ければ、誰もがやりたくない汚れ仕事を押し付けられる。そこに人権などはない。
大人と子どものもっともアンフェアな点は、その残酷な事実を知ってるかいなかなんじゃないか。そして生きていくうちに遅かれ早かれそのことに気づき、子どもは大人になるのではないでしょうか。あ、そういうルールなのかっていう。それに気づけなきゃ社会で生きていけないぞっていう。
でも彼らはまだ知らない。だから子どもなんだ。あんな悲惨な状況においても、地獄にも手心はあるだろと希望を捨てない。それが痛々しい。でも軍曹は知っている。彼らに希望などないことを。
オレの目を見て話せ。
軍曹は鬼のような形相で少年兵たちに凄む。しかし物語の後半、その軍曹がさらに上の士官にまったく同じセリフで叱責される。中間管理職の悲哀。
軍曹の中にも当然ドイツへの強い憎しみはあっただろう。しかしそれ以上に彼を鬼にさせたのは、単純にそういう仕事をやれと上(イギリス)から言われたからだ。
戦時中において数々の惨劇を生んだ“合理的システム”の恐ろしさを丸山真男やハンナ・アーレントやフランクフルト学派の学者たちは説いたが、それは戦後も変わらなかったのである。
国家がしでかしたことの責任はその国の国民が取るべきだというのは極めて合理的な判断。そこに議論の余地はないだろう。
同様に、デンマークはナチスドイツの保護下に置かれたために交戦国ではなく、よって捕虜の虐待を禁じるジュネーブ条約がドイツに対して適用されず、ドイツの子どもに地雷を撤去させても虐待にあたらずセーフというのも合理的な判断。
その事実を戦後冷戦が始まっていろいろゴタゴタしてたからという理由で長いあいだ封印していたというのも合理的な判断。(唯一、非合理的な判断をしたのは、その事実を映画にして白日の下に晒してしまった、このデンマーク人の監督なんだろうな)。
人間は自分に被害が及びさえしなければ極めて合理的に残酷なことを許容できてしまう。
現在も地雷は世界各地に1億個以上も埋められていることも、20分に一回のペースで誰かが踏んづけていて手足が吹っ飛んでいることも、でも生活のために地雷原で農業しなきゃいけない人がいるということも、ICBLのオタワプロセスの時、海岸線を安上がりに手っ取り早く防衛できるから、と日本の防衛庁が対人地雷全面禁止条約に難色を示していたことも、アメリカ、ロシア、中国らの大国はその条約すら批准せず今なお地雷を作り続け、しかも探知できないように金属以外の素材で上手にこしらえているということも。
この映画の一番優れたところは、そんな“ガヤ”がまったく描かれないところだ。撮されるのは、ほとんどユトランド半島の美しく静かな海岸だけ。徹底して“現場”しか撮らない。
そして、合理的判断とやらをするのはいつも現場とは無関係な“ガヤ”なのだ。ガヤはかしましい。手を差し伸べる気がないなら黙っていてくれ。そんな声無き叫びがスクリーンから聞こえた気がする。
現在も世界のどこかの土地で命懸けで地雷を撤去している人がいる。作業は機械ではなく手作業らしい。現在のペースですべての地雷が除去されるにはあと1000年かかるという。
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