英語学概論覚え書き⑥

 昨日の試験が撃沈したので、まさかの第6弾。今回はコミュニケーションについて。
 しかし、こういう会話の了解事項って、無意識的かつ感覚的に普段こなしてるから、改めてメタ的に考えたこともねえというか、自分の歯を噛むようなウロボロス的な難しさがあるよね。
 で、こういう言語学的な研究ってさ、いわゆるコミュニケーションに難があるような人のほうが、なんでこういう風になってんだろうとか、納得いかねえとか、対人関係のもやもやしたファジーなものの存在の輪郭を明確化してくれるというか、苦手だからこそメタ的に研究できるというか、まあ、向いていると思うよね。学者って得てしてそういうアスペ的な特性あるからね。

参考文献:長谷川瑞穂著『はじめての英語学』

法助動詞(modal auxiliary)
物事の必然性や可能性を表す助動詞。具体的にはmustやmayなどで、使い方によって以下のように区別される。

①認識様態に関わる意味
事態の現実性について話者がどのように認識しているかを表す。
He must be the youngest.(彼が一番年下のはずだ)
They may know her.(彼らは彼女を知っているかもしれない)
Alfred must be unmarried.(アフルレドは未婚のはずだ)


②拘束性に関わる意味
義務や許可を表す。
All passengers must wear seatbelts.(乗客全員シートベルトを締めなければいけない)
You may go now.(もう行っていいですよ)
Alfred must be unmarried.(アルフレドは未婚でなければならない)


また認識様態や拘束性の区別とは別に、主観的な意味と客観的な意味に分けられることもある。

③主観的な意味
あくまで主観的に推測や許可をしているに過ぎないため、(本来強い義務を表すmustが許可を表すために使われるなど)意味の強化や弱化が起きる。

認識様態タイプ
A:What has happened to Ed?(エドはどうしたんだ?)
B:He must have overslept.(寝坊したに違いない)


拘束性タイプ
You may join us with pleasure.(もちろん私たちに加わっていただいて構いません)

④客観的な意味
理論的な必然を意味する。

認識様態タイプ
If I’m older than Ed and Ed is older than Jo,I must be older than Jo.
(もし自分がエドよりも年上で、エドはジョーよりも年上なら、自分はジョーよりも年上のはずだ)


拘束性タイプ
We may borrow up to six books at a time.(一回に6冊まで本を借りることができます)

主観的移動表現(subjective motion)
主語が指している物を認識する際に、認識者の心に想起される移動のこと。

A:Your camera is upstairs, in the bedroom, in the closet, on the top shelf.
B:Your camera is on the top shelf, in the closet, in the bedroom, upstairs.
どちらも、カメラが上の階の寝室の押し入れの中の一番上の棚にあることを伝えているが、Aが徐々に視野を絞り込んでいくかたちでカメラの位置を特定していく(ズームイン)のに対して、Bでは徐々に視野を広げていく形でカメラの位置が特定されていく(ズームアウト)。

The road runs along the coast.(その道路は海岸沿いを走っている)
The road runs along the coast for two hours.(その道路は海岸沿いを二時間走る)

これは「その道」は海岸沿いを実際に走っているわけではなく、また具体的な移動物(車など)による実際の移動も表していない。しかし、これも主語を認識する者(ここでは話者)の心に移動が想起されているために、移動を意味する表現が用いられている。

また、移動は方向が違えば同じ移動とは見なされないため、同じ対象でも認識の際に方向の違う移動が想起されると、違う移動となる。
The road goes from Las Vegas to Los Angels.
(その道路はラスベガスからロサンゼルスに通っている)
The road goes from Los Angels to Las Vegas.
(その道路はロサンゼルスからラスベガスに通っている)


スピーカー・ミーニング(speaker meaning)
言語のやりとりによって話者が伝えようと意図している意味のこと。

A:誰か来たぞ。
B:今お風呂に入っているの。

では、字面通りに意味を取ると会話がかみ合ってないが、会話のシチュエーションを踏まえるとBはAに今は戸口に出られないことを伝えようとしている。
これは、文の意味そのものを発展させたわけではなく、全く別の物として導き出されるため(暗意)、こういったコミュニケーションが難しい人もいる。

他にも
A:まだランチを食べてない。
B:まだウンチを食べてない。

では、目的語の部分を差し替えただけだが、Aは今日まだランチを食べていないと解釈されるが、Bではこれまで一度もウンチは食べたことがないと解釈されるのが普通である。
こちらはコンテキストに合わせて文の意味をさらに発展させた物で明意と呼ばれる。
明意を作り出す際には、言葉の意味はコンテキストに合わせてその場限りで調整される場合があり、これはアドホック概念の形成と呼ばれる。
たとえば、I have a temperature.(私が熱がある)と、入院中の友人に言われた際も、人間に体温があるのは当たり前じゃん、とならずに、お見舞い客の相手が出来ないほど辛いんだな、自重しようと理解される。

多義性の解消(disambiguation)
複数の意味にとれる文章から、話者が意図する意味だけを選び出すこと。

たとえば、Refuse to admit them.は

A:白状してはいけない
B:入場させてはいけない


の二つの意味があるが、このあとに

What should I do with the people whose tickets have expired?
(チケットが期限切れの人はどうすべきですか?)


と答えた場合は、admitは入場を許すという意味に絞られ、Bの意味が選ばれる。

直示表現(deictic expressions)
this、that、here、I、youなど発話の場面を参照しないと、それが何を指しているか決まらない表現。
ただ、言語表現は不足する内容について完全に無指定ではなく、どういう種類の内容を補うべきかある程度は決めてくれるため、その指定に合う内容を推論により埋めることができる。このプロセスを飽和(saturation)という。

自由拡充(free enrichment)
明意を特定する際に、言語表現によってはまったく指定されていない内容がコンテキストに基づいて推定され、付け加えられること。

たとえば、
Mary took out the key from her coat pocket and opened the door.
(メアリーはポケットから鍵を出し、ドアを開けた)

Mary took out the key from her coat pocket and then opened the door with the key.
(メアリーはポケットから鍵を出し、“それから、その鍵で”ドアを開けた)

と、“”の部分を推論によって付け足すことができる。

 そういえばさ、去るゴールデンウィークにネットで『秘密結社鷹の爪』の動画をシコシコ見てたんだけどさ、悪の秘密結社と正義のヒーローがマンネリの果てに馴れ合いになっちゃって、どうにかしようってエピソードがあってさ、これがめちゃめちゃ面白くてさ。
 悪の秘密基地にヒーローがスプーン持参でカレー食べに来るんだけど、「ふ~食った食った。じゃあとりあえずデラックスボンバーでいいか」って言うんだよ。このセリフがツボに入っちゃってさ。ぜひ動画を見て欲しいんだけど、このセリフってよく考えると、二通りの意味があるよなっていう。
 ひとつめは、自分自身に対する内言として、(めんどくせえからデラックスボンバーで済ましちゃえ)みたいに言ってるっていうパターン。
 もうひとつが、鷹の爪団に対して「とりあえずデラックスボンバーでいいか?」って尋ねているっていうパターンで、個人的にはこっちのほうがずっと面白いんだけど、アテレコの感じだと判断がつかないんだよね。でも、私はこっちの意味でとって大爆笑したんだけど。だって、「必殺技撃っていいか?」って聞いて、敵が「うん、いいよ」っていうわけないじゃんw(しかもカレーご馳走になっておいて)
 こういうセリフ回しの面白さっていうのが、漫画なんかの醍醐味で、それこそ小さいフキダシのセリフを何十回も訂正したりするんだけどね。これはね、とどのつまり作り手のセンスで、ない人にはないんだよね。
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