詩の単位。ポエムに関しては、もう、本当に、悪魔的に分からない。どう授業していいのか見当もつかぬ。
谷川俊太郎やゲーテの詩集なんて読んでいる学生なんか今どきいねえしなあと思ったんだけど、よくよく考えれば詩って若者にとって身近すぎて認識されてないんだけなんだよね。つまり、Jポップとかの歌詞はまごうことなく詩なのである。
西野カナの『トリセツ』の歌詞をさ、明朝体にして縦書きにしてさ、作者を西野カナから俵万智にしてごらんよ。
国語の教科書に載ってても騙されるよな。騙されるよなっていうのもアレだけどw
RADWIMPSの『前前前世』をさ、明朝体にして縦書きにしてさ、タイトルを『夢十夜』って変えてごらんよ。
現代文の教科書に載ってても騙されるよな。あ~これ夏目漱石が書いたんだ~みたいな。百年はもう来ていたんだな。
参考文献:飛高隆夫、野山嘉正編『展望現代の詩歌3』
高良留美子(こうらるみこ)
1932年東京都生まれ。精神医学者の父と心理学者の母を持つ。次女。
詩作の他、評論や小説も執筆した。
戦争末期の1944年に栃木県の那須に集団学童疎開。小説集の『いじめの銀世界』には、このとき経験した、過酷な自然、教師による抑圧、いじめ、ひもじさの中の人間関係が描かている。翌年、進学のために上京したが、その翌日東京大空襲が起こり、今度は茨城県に疎開した。終戦後、帰京し、日本女子大学校付属女学校に転校、彼女もまた焼け跡、闇市の中の、いわば過渡期の学校制度の世代であった。
1951年、東京芸術大学美術学部に入学。翌年、東大、東工大、芸大などの学生が集まって新しい文学、芸術、生活を作る文化運動に参加、その時作った雑誌『エスポワール』の編集活動をしながら、劇評や美術展評を執筆した。
1953年1月、初めて詩を書く。これが「夜中、突然自動速記で書いた」という散文詩「塔」(『生徒と鳥』所収)である。この年、慶応大学法学部に転学している。
56年、大学を中退し、フランスへ短期留学する。この船旅は後に小説『海は問いかける』として結実した。高良には「海」が内在し、「海」から来たり「海」に行く感性が見られる。
1958年、第1詩集『生徒と鳥』が刊行、翌年には竹内泰宏と2年間の同棲生活の末に結婚。この変化が、ある束縛感を彼女に意識させている。
この頃、若手詩人の会「ぶうめらんぐの会」から『詩組織』を創刊、ここで高良は詩作品と、サルトルの詩人フランシス・ポンジュ論の翻訳を掲載した。
60年代安保闘争と樺美智子の死に触発されて詩作し『ユリイカ』に発表の「場所」を含む第2詩集『場所』が第13回H氏賞を受賞した。
1964年、現代詩の会では高良も運営委員の一人になったが、腑に落ちないまま同年に解散、その翌年「現代詩」解散への批判文を書いた。
1966年に長女を出産するが、この時期の珍しい仕事としてシナリオを書いている。
1970年、第3詩集『見えない地面の上で』、翌年『高良留美子詩集』が刊行された。
1981年、詩集『しらかしの森』を刊行。この詩集は、多摩区王禅寺に引っ越したことで、地域の歴史と自然が見直されて生まれた。
1987年、『仮面の声』を刊行、現代詩人賞を受賞した。
1990年、ソウルでの世界詩人大会に参加し、詩の朗読をした。
1999年には『風の夜』と『神々の詩』の二冊の詩集が刊行された。『神々の詩』はTBSのワールドドキュメンタリー番組のオープニングとエンディングで引用された。姫神の歌でも有名。
『生徒と鳥』
パリ滞在中の作品を含む18篇を収める第1詩集。「表現するための詩の形式とをある程度自分のものとして感じることができた」と、あとがきで書き、詩人として幸せなスタートを切った。高良家ではバードウォッチングが盛んで、オナガやメジロ、ウグイス、ニワトリ、アヒルなども飼育していた。
「抱かれている赤ん坊」
一見写実的な散文詩だが、そうではない。他人の自由を知らない赤ん坊に託して、自身が体験している挫折した文化運動への批判精神の発露となっている。組織における「不毛なもの、他人と他人の自由に対する無智」への暗喩とも言えるだろう。
「場所」
上野公園の樹木のイメージを詩にした作品。
「それ(地面)は地上の物体を自分のやり方でひきつける」「葉肉の示す密度ある質量と湿り気」など、唯物論的な科学的な描写が目を引く。
第10連には「それ(地面と空間の境における激しい交錯)がわれわれの存在だ そしてわれわれの存在の欠如だ」など、サルトルの実存主義の影響が見て取れる一節もある。
この作品について高良は「自分が物になる危険をおかして、物と自分とが入れ替わる瞬間、対象が物になり、物がイメージになる瞬間を捉えようとした」と述べている。
「木」
出産を経験した母親だけが身体的に感じられると思われる生命の連続性を歌っている。
「一つの肉体の中に まだない一つの肉体があって その宮がいま 新しい血を貯めている」という一節に見られる力強い未来志向に、作者の成熟を感じたという評者も多い。
「戦争が終ると」
「木」で力強く歌われた、生命の連続性が、こちらでも「死者たちのあけた深い穴は 吹き上げてくる子どもらの泉によって たちまち満たされていくかのようだった」
と同様に表現されているが、これは戦争が終わっても、人間の命や人生を踏みにじった戦争に対する人々の怒りや悲しみは無くならない、という高良の戦争に対する痛烈な皮肉や批判を含んでいる点に注意したい。
この作品は、「しかし このくにには けっして子を産まない女たちの一群がいる その夫となるはずだった男たちが ついに帰らなかった 女たち その恋人となるはずだった男たちが 名も告げずに去っていった 女たち」「そしてこのくにには けっして子をのこさない 男たちの一群がいる その白骨が いまもなお 南の海で朽ちている 男たち」への鎮魂歌であり、彼らを死地に向かわせた人間が「子をのこし 孫を殖やし 一家の団欒にかこまれて ほほえんでいる」という状況に対する、やるせなさや怒りの表明なのである。
『神々の詩』
1999年の世紀末詩集。「♪アバ~ナガ~マ~ポ~」の歌が好きでよく見てました。
番組用に詩を提供した高良は、そのほとんどの詩を番組のVTRを見て考えたが、アフリカとサラエボに関しては実際に現地へ足を運んだ上で創作したという。
「森の宇宙」はボルネオの森に咲く世界最大の花ラフレシアを取り上げた回で使われた詩である。
金井直(かないちょく)
1926~1998。本名は直壽(なおとし)。
父直輝と母金井トヨのあいだに生まれるが、父親にはすでに家庭があり婚姻届は出されなかった。そのため直は2人の子として認知されず、祖父母の三男として届けられた。
母トヨは直の面倒を見ることはなく家を空け、その一方で父直樹は直を見に来ることもあったが、直が9歳の頃死去した。
小学校5年生の頃にトヨが再婚すると転校、小学校を卒業すると東京育英実学校に入学するが、絵を描くことに興味が出て実業学校に馴染めなくなる。
実業学校1年の秋、義理の父とトヨの不仲によって、直は再度祖父母の元に返されてしまう。2年生になると寂しさを補うかのように文学作品に耽溺するようになる。
明治大正作家の作品を読み、3年になると「若草」に掲載の投稿詩を読んだ。
1943年、戦局が逼迫したために繰り上げ卒業。翌年、日本タイプライター工場に勤め、仲間からワーズワースや石川啄木を紹介されて読む。その後、産業報告会に勤め、そこで年長の高島恒と交際を始める。彼女によって音楽や外国詩人を知る。
しかし彼女は45年の東京大空襲で被災し、この経験をもとに有名な「木琴」を読む。
6月、兵役についた直は南方出兵を予定して広島県に移り、そこで原爆投下を目の当たりにした。『この世界の片隅に』みたいな人生で辛い。
戦後、直は画家を目指す。この時ひとつ年上の浅田美代子と恋愛関係になるが48年に美代子は死去する。彼女への思いは「別離」などに読まれた。
この年あたりから右目の視力が急速に衰え、学び続けていた絵画を諦め、詩に専念するようになる。やっぱり『この世界の片隅に』みたいな人生で辛い。
村野四郎と出会うことでリルケを知ったり、彼の作品に感銘を受ける。
1953年、第1詩集『金井直詩集』を刊行。この年、彼の詩のファンの東峰節と知り合い結婚する。その三年後には長男太郎が生まれる。やっと幸せな流れになってきたな。
1957年には第3詩集『飢渇』でH氏賞、1963年には第6詩集『無実の歌』で高村光太郎賞を受賞する。
1960年に離婚した直は(離婚したんかい!)、1967年に鈴木すみ江と再婚する。この頃より、学校や市民講座で詩の指導を始める。
1967年、高校の国語の教科書に「散る日」が、また1975年には「木琴」が収録される。これは私も高校の頃読んで、悲しい気持ちになりました。
これをきっかけに、直は国語教育に関心を持ち、自作についての講演を全国各地で、中学・高校教員に向けて始めるようになった。
1981年、心身の不調を訴え始め、家族と離れて上野で一人暮らしをすることもあった。また、以前から抱いていた封建制に対する批評が、昭和天皇崩御を契機に彼を奮い立たせた。これらのことが重なって、1993年以降、詩作は休止状態になる。
その代わりに、過密なシンポジウムを企画し、それがたたったのか98年風邪が原因で体調を崩す。
その後、精密検査で耳下腺がんだと判明、治療に集中したが、妻すみ江ほか家族の見守る中、静かに息を引き取った。享年71歳。
1999年には金井直資料館が蓮花寺の近くに開館した。こじんまりとした2階建ての建物の中には、生前の直を物語る彼の生涯が展示されている。
『金井直詩集』
金井直の第1詩集。「白い花」や有名な「木琴」が収録されている。詩集にタイトルがないのは、「作品を統合する主題が掴めなかったため」らしい。
「白い花」
戦前・戦中の作品は東京大空襲ですべて灰になったが、その唯一の例外がこの作品である。
これが現存する金井直の最も初期の作品である。
詩中に読まれている「もう地上では逢えぬ人」とは、産業報国会の同僚として出会い、直が愛した5歳上の高島恒のことである。
母親の愛情が得られなかった当時18歳の直は、彼女に対して女性というよりも母性を感じており、恒にしてみても出会った当初から直を恋人とは考えていなかった。
しかし、戦局が逼迫した1944、45年に、結婚もしていない男女が音楽会でデートなど、非常識&非国民と言われても仕方がなく、恒の方には直への恋愛意識が徐々に芽生えていたと思われる。
直は、東京大空襲で焦土と化した本所千歳町で恒を探したが、彼女の死体は探すことができなかった。
「静かに魂のなげく夜 焼野は月の光に濡れ 道に落ちて動かない 私の影」という一節は、この出来事、落胆を表しているように思える。
「恐ろしい紅薔薇」とは東京大空襲でばらまかれた焼夷弾のことだろう。
直は空襲の前々日の3月9日の仕事帰りに恒を見送ったそうである。「また明日といって別れたまま」はそんな悲しい実体験に基づく悲痛な一節である。
「木琴」
1975年~2001年にかけて光村図書出版の中学一年国語教科書に採録されて、実際に教室で読まれ続けてきた作品。高校で読んだ気がしたけど、中学校だったのか、そして一年だったのか。
作者の直は、教員に対して「木琴」に関する講演を行ったり、指導書用の文章を執筆したりと、この作品に並々ならぬ愛着があることがわかる。
素直に読めば、戦争で亡くなった妹に対して読んだ歌のように思えるが、実は金井直には妹はいない。では、この「妹」とはいったい誰を指しているのか?
作者自身の発言(なにしろ50年以上も語ってくれているので素材が多い)によれば、「戦争という国家的危機など全く知らずに、安易に命をなくしてしまった幼い者たち」のことだという。
確かに、木琴という楽器を好む女の子は全国でどこにでもいるごく普通の子であっただろう(当時の子どもが好きな楽器ランキング一位が木琴だったらしい)。
その、ごくありふれた子どもたちの日常の象徴である木琴が――戦時中の逼迫した生活におけるささやかな楽しみだった木琴が――「あんなにいやがっていた戦争」によって無慈悲に焼かれてしまうのである。
そこに漂うのは、恒や浅田美代子への想いを彷彿とさせる、悲しい死の香りだが、直によれば、この詩は「平和への希望」であり「愛」であり「単なる反戦の詩ではない」のだという。
しかし、第5連の「私のほかに誰も知らないけれど」の一節は、この詩がそういった不特定多数の普遍的な主題を扱っているのではないことを強く印象づけている。
東京大空襲の犠牲者は10万人とも言われるが、これは北野武さんが言うように10万人が死んだ一つの出来事などではなく、かけがえのないたった一人の死が10万件あったということなのである。
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