参考文献:伊坂淳一著『ここからはじまる日本語学』
日本語において主語をどのように扱うのが適切か
学校文法において主語は以下のように説明される。
①文の中で「何が」「誰が」に当たる文節。
②「―が」のほかにも「―は」「―も」「―こそ」「-さえ」「―だって」などがついて主語になることもある。
③主語を省略した文や、もともと主語がない文もある。
しかし、「-が」「―は」に当たる文節がない文章や、「―が」「-は」の文節がふたつあり、どれが主語か分からない文章、「―は」の次に来る述語部分が主語を説明していない文章(例:新聞を読みたい人は、ここにありますよ)などがあり、主語が必ずしも文章において絶対的に存在しているわけではないことが分かる。
また、格助詞の「が」と、副助詞の「は」では文章での役割がそもそも異なっている。
「○○が」が、述語によって示される出来事において、助詞が付く名詞(※○○)がどういう論理的役割を果たしているかという、事実関係を示す一方、「△△は」は、文の中の要素の一つ(※△△)を特に取り立てて、その要素を話題の中心に据えるという、話し手の述べ方を示す助詞であり、格助詞と副助詞の区別は、この基本的な機能の差に由来していることが分かる。
こういった文中の特定の要素を特別扱いする、格助詞的な機能は、「も」「だけ」「さえ」といった副助詞も担っている。
さらに、文の構造を主語ではなく述語を中心にしてとらえ、その述語に対する必須の要素である補語と、状況などを説明する修飾語とに分ける見方もある(主語不要論)。
この場合は「AがBにCで紹介した」のAやBは述語「紹介した」に対する補語ということになる(※Cは修飾語)。
主語不要論は、日本語には主語がないと言っているのではなく、日本語の分析に主語の概念は必要ないと言っているのである。
日本語の動詞の活用の体系化
動詞や形容詞・形容動詞が用法の違いに応じて語形を変えることを活用といい、個々の語形を活用形、活用形を整理して表の形に体系化したものを活用表という。
活用形の整理の観点や具体的な処理が異なれば、結果として示される活用表は違ったものとなる。
たとえば、学校文法で使われる活用表と、外国人向けの日本語教育で使われる活用表では、活用形の認定単位とその種類の相違が目に付く。
「読まない・読まれる・読ませる・・・」という語形は、学校文法では、未然形(ヨマ-)として一つの活用に含まれるが、日本語教育では、否定形、受身尊敬形、使役形と3つの活用に分けられている。結果として、日本語教育の活用の数は学校文法のそれよりも圧倒的に多くなっている。
しかし、形式が同じものは同じ活用形だとする学校文法は、形式の整理は進んでいるが、そのために異質な意味の形式を一つの形式にまとめているという結果にもなっている。
もっとも学校文法、日本語教育どちらにせよ、各活用形のレッテルの付け方に、意味、文法機能、連接関係など、複数の基準が混在していることは変わりがなく、またすべての活用形を網羅することが可能なのかという問題もある。
なお、学校文法が6種の活用形を立てるのは、古代語の「死ぬ」「去ぬ」などのナ行変格活用動詞が6種の活用があるからで、江戸時代にこの動詞を基準に文法が研究された名残である。
また、学校文法と日本語教育の活用表では、活用型の認定基準にも違いがあり、前者では拍のレベルで単位を切っているのに対し、後者では語幹と活用語尾を隔てる単位を音素のレベルにまで下げているので、語幹が子音で終わる場合もある(yom-anaiなど)。
以上のように、活用表には様々な考え方があり、その規則はあくまでもそれを記述した個人や集団の目的や理念、手法が反映された解釈にすぎないのである。
日本語におけるヴォイスと自動詞・他動詞の関係性
ヴォイス(態)とは、動詞によって表される事象が、能動的か受動的かを表す述語の構成要素である。「片付けさせられていた」という文では「させ」と「られ」がヴォイスに当たる。
また、動詞には、「公園に行く」といった場合の「行く」に当たる自動詞と、「本を読む」の「読む」に当たる他動詞が存在する。
他動詞は動作の対象が主語以外の他の物に及ぶため「~~を」と目的語をとるが、目的語が場所の場合(例えば「駅を通過する」といった場合)は「通過する」は自動詞となる(駅を通過させているわけではないから)。
ヴォイスと自動詞・他動詞の関係性は以下のようにまとめられる。
自動詞(自らの動作を表す)
能動態:公園に“行く”。公園を“歩く”。
受動態:誰かに“呼ばれた”。雨に“降られた”※あまりないパターン
使役態:子どもに“描かせた”。
尊敬態:閣下は“言われた”。
他動詞(動作の対象が他の物に及ぶ)
能動態:本を“読む”。
受動態:ページが“めくられた”。
使役態:絵を“描かせた”。
尊敬態:本を“読まれた”。
これを踏まえると、他動詞はその性質上、全て受動態を作ることができるが、自動詞で受動態は限られた場合しかないことがわかる。また「赤ちゃんに夜泣かれた」「女に振られた」などネガティブなケースが多い。
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