こんばんは。年内に全ての単位にケリを付ける大作戦開始です。そしたらオレは漫画と恐竜のお絵かきに生きるぜ。
参考文献:小川環樹、西田太一郎著『漢文入門』
「可」のふたつの意味
「許可」を表す助辞、「してもよい」「してもかまわぬ」「するがよい」、また「可能」の意味で、「することができる」と訳してもよい場合がある。
「民は之によらしむ可(べ)し、之を知らしむ可からず。」は「人民は政府の方針に従わせるのがよい。これ(政府の方針に従わせていること)を知らせてはいけない。」と「人民は政府の方針に従わせることができるが、これをみなに知らせることはできない。」のふたつの意味に翻訳することができる。
訓読の利害
漢文はもともと外国語の文であるから、一般に外国語を学ぶときのように、まず音読し、それによって意味を考えるのが正常な方法であり、訓読の方法は変則である。
すべての言語は、それぞれに特有のリズムがあり、音と意味の間にある関係もそれぞれである。
また訓読には次のような欠点がある。
訓読の方法とそれに用いられる言葉は平安朝時代に大体定まり、その内いくつかは変化したものの、ほとんどはそのまま継承されたので、訓読された漢文は日本語としても一種の古典語であって現代語ではなく、原文の意味を分かりやすくとらえようとすれば、もう一度現代語に置き換えなければならない。
しかしながら、漢文を音読のみで学ぼうとすれば、中国語の発音をまず学ばなければならず、それには特別の練習が必要となる。
また、日本人の祖先は訓読した形でのみ漢文を知っており、漢文学が日本文学に与えた影響も、直接原文からではなく、訓読を通したものである。
日本で復刻された中国の古典も、そのほとんどが訓点をつけて出版されているため、訓読の方法を知ることによって、それらの意味を理解し、利用することができるのである。
蛇足
出典は『戦国策』で著者は不明。これを編集したのは漢の劉向(りゅうきょう)。
司馬遷が『史記』を書く際、戦国時代についてはこの本によったと言われている。
そのためかつては歴史書のジャンルとされていたが、そのタイトルが示すように戦国時代の外交に関する策略が多く掲載されているので、のちに縦横家(戦国時代の外交上の策略を説いた学派のこと)に分類された。
現代語訳
昭陽は、楚のために魏を討ち、軍をくつがえし、将を殺し、八城を得て、兵を移動させて、今度は斉を攻めた。
楚出身の縦横家(しょうおうか)の陳軫は、斉王のために使者として昭陽に会見し、再拝して戦勝を祝い、立ち上がって問うた。
「楚の国の法では、軍を破り、将を殺した場合は、その官爵は何でしょうか?」と。
昭陽は「官は上柱国であり、爵は上執珪である。」と答えた。
陳軫は言った。
「それ以外に、これより貴いものは何でしょうか。」
(昭陽は) 「これ以上は、令尹(※今で言う総理大臣に当たるポスト)しかない。」と答えた。
陳軫は言った。
「令尹は貴い地位です。楚の王は二人の令尹をお置きになることはありません。私は、あなたのためにたとえ話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
楚の国に、祭祀を司る人がいた。
あるとき、自分の使用人たちに大杯の酒を与えた。
使用人たちは、数人でこの量のお酒を飲むには少なく、逆に一人で飲むには余りあるほどだと考え、地面に蛇の絵を描いて、最初に描きあげた者がこの酒を飲むことになった。
やがて一人がまず蛇を描きあげた。
その人は、左手で酒を引き寄せて今にも飲もうとし、同時に右手で蛇を描きながら言った。
「オレは蛇の足を描き足せるほど、まだまだ余裕があるぞ。」
すると、その人が蛇の足をまだ描いているうちに、他の人が蛇を完成させてしまった。
二番目に蛇を描きあげた人が、その酒を奪って言った。
「蛇にはもともと足がない。 お前はどうやってその足を描けるというのか?」
そしてそのまま酒を飲んでしまった。
蛇の足を描いた者は、とうとうその酒を飲み損ねてしまったのでった。
「――今あなたは、楚の大臣となって、魏の国を攻撃し、軍を破り、将軍を殺して、八城を得、兵力を弱めることなく、斉を攻めようとしています。
斉はあなたを甚だしく恐れています。
あなたは、これだけでも十分に名を成しています。
官位の上に、重ねて官を得るべきではありません。
戦いに負けることなく、とどまることを知らざる者は、自ら死に向かっているようなもので、あなたの爵位は、後任の人の手になろうとしています。
つまり、ちょうど蛇の足を描くようなものであります。」と言った。
昭陽はしかりと思い、軍を解いて斉から引き揚げた。
杞憂
出典は『列子』の「天瑞編」。『列子』は春秋戦国時代の道家の学者である列禦寇(れつぎょこう)による著作だとされている(というか、この学者が実在したことも実は怪しい)。
『列子』に収録されている寓話は「杞憂」の他に「朝三暮四」「疑心暗鬼」「男尊女卑」など。
現代語訳
(周の時代の)杞という国に、とある人がいた。
その人は、もしも天地が崩墜したら、自分の身を寄せる場所がなくなってしまうと憂い、寝食ができないほどであった。さらに、その人が心配しているのを、心配する人すらいた。
なので、(別の人が)出かけていってこれを諭そうとして言った。
「天は空気が積もっただけである。
どこにも空気のない所なんてない。
からだの屈げ伸ばしや呼吸は、終日天の中で行っている。
どうして天の崩墜を憂うのか。」
すると、その人は答えた。
「天が空気の積もっただけのものならば、太陽や月、星宿(中国で言うところのうみへび座)も(支えがないので)落ちてくるだろう。」
これを諭す人は言った。
「太陽、月、星座も積もった空気の中を光り輝いているだけで、仮に(光が)落ちてきてぶつかっても怪我なんてしない。」
その人は言った。
「では、大地が崩れるのはいかが答える?」
諭す人は言った。
「大地は土の塊が積もっただけである。
それが四方に充足し、どこにも土のない所なんかない。
地面を踏むのは、終日大地の上で行なっている。
どうして大地の崩壊を憂うのか。」
その人、釈然として大いに喜び、これを諭した人も釈然として大いに喜んだ。
長廬子はこれを聞いて笑って言った。
「虹や、雲霧や、風雨や、四季は、空気が積もった天に成るものである。
山岳や、河海や、金石や、水火は、土の塊が積もった地に成るものである。
天地の積気や積塊を知りながら、なぜ崩れないといえようか。
天地は、この世界の一つの細物であるが、有形物の中では最も巨大なものであるため、これを突き詰めることは決して出来ない。これは、もとより当然の話である。
つまり、天地が壊れることを憂う者は、甚だ先の長い話をしていることになるし、これが壊れぬと断言する者も、同様に正しくないのである。
天地が(半永久的に)崩壊しないということは、すなわち必ずいつかは崩壊することに帰結する(壊れる時まで壊れないため)。
その壊れる時に遭遇したと考えたら、どうして憂えずにいられようか。」と。
列子はこれを聞いて笑って言った。
「天地が崩壊すると言う者も誤りであれば、天地は崩壊しないと言う者も誤りである。
崩壊するか否かは、我々が知ることのできるレベルの話ではない。
崩壊するという考えも、崩壊しないという考えも、それぞれが独立した一つの見解であり、この両者は全く別な範疇に属するのだ。
故に、生きても死を知ることはできず、死んでも生を知ることはできず、未来からは過去を知ることはできず、過去から未来を知ることはできない。
天地が崩壊しようがしまいが、なぜ我々はそんなことを気にかける必要があろうか。」と。
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