学校図書館の経営
図書館の資料やサービスを積極的に利用し、さらにそれを活用する力の育成は、文科省が提案する生きる力や、主体的・対話的で深い学びに大いに貢献するものである。
しかし、経営の観点からいえば、校務分掌で図書委員会の担当になっている先生(特に国語科教師が多い)と、生徒のみが図書室の運営に関わり、開館時間も昼休みだけに留まっているというのが現状である。
また、学校の規模によっては、学校図書館の専門家である司書教諭がそもそも配置されていないこともある。
これを踏まえて、予算など現実的な問題もあるが、学校図書館の理想的な経営を提案していきたい。
まず、経営で最も重要な点は、利用者の獲得である。
つまり、図書室に来てもらわないことには始まらないので、利用時間を増やす。昼休みだけではなく、放課後(特に部活休養日や、部活が中止となるテスト期間)や休日、長期休み期間も解放する。
そのためには、図書室の運営を図書委員会の先生だけに任せず、例えば管理当番の先生がその日の図書室の運営も行うというように、持ち回りにする。
休日や放課後の図書館営業に関しては、部活との兼ね合いがあるので、例えば読書部という部活を作り、その顧問の先生に運営させるとか、体育館や音楽室の夜間開放のように地域の人をボランティアとして手伝っていただくことも考えられる。
ふたつめに、生徒が図書館に足を運びたくなるようなサービスの充実である。
例えば、図書室の内観について書店を参考にする。本の並べ方やポップなど、プロは実際に客に本を買ってもらうためのたくさんの工夫があるので、図書委員会で書店を取材する。
次に、予算内で購入する書籍の精選である。現在公開中、もしくは近年公開した映画の原作や、国語の教科書で単元として取り上げられている作家の他の著作、テストで良く出題される作家の著作、各先生方におすすめの一冊をそれぞれ選んでもらうなど、企画を意識した購入計画を行う。
さらに、これは管理職の判断にもよるが、廃棄図書はカートに入れて欲しい生徒にあげてしまう(特に雑誌など)。もしくは文化祭のバザーなどでまとめて売ってしまう。このときの売り上げを図書館経営のための費用に充てる(実際そういうことをやっている学校があった)。
こういった限られた人材と予算の中でやれることを少しずつ実現していく。
司書教諭に求められる資質・能力
司書教諭が果たすべき役割について論じるために、まずは現在の学校教育の現状と問題点についてまとめたい。
学校図書館を使った授業の一般的イメージは、今なお、教師不在時の自習や、総合の時間での簡単な調べ学習(テキストでは「写し学習」に過ぎないと批判している)に留まっており、教師の側がまず、学校図書館をどのように活用すべきかがよく分かっていないことが大きな課題である。
この原因は、学校図書館のプロである司書教諭や学校司書の配備と配慮(時数軽減など)があまりに不十分であるからである。
この現状と課題を受けて、司書教諭に求められる能力を考えていきたい。
ひとつめは、プロモ-ション能力である。
司書教諭は、学校内で教諭や児童生徒に対して、図書館活用教育を推進する積極的な啓蒙活動を行わなければならない。
ふたつめは、問題の分析能力である。
司書教諭は、時に個々の教育活動の問題点を指摘し、改善をともに考えるという指導的・助言的役割を果たさなければならない。
みっつめは、組織内での地位と、教員としての経験にもとづく、組織の調整能力である。
図書館教育を推進するためには、図書館利用時間確保のために時間割の調整など、教育理念の策定や教育課程の企画立案に深く関わる必要があるため、司書教諭には教務主任レベルの権限や経験が求められる。
しかし、これは、若い教師が図書館運営に関わってはならないというわけではない。例えば、学校図書館のサービスを向上するために、学年と学校図書館をつなぐ橋渡し役になれば、校内の教師の学校図書館についての理解が深まり、協力体制を強化することにつながる。
よっつめは、情報発信のためのスキル(文書やホームページ作成など)である。
保護者や地域社会に対して、自分の勤務校の図書室がどういった取り組みをしているか、どんな資料があるかを図書館だよりやインターネットで発信したり(ホームページを作って収蔵している資料のデータベースを公開するとさらによい)、休日は地域に開放したりするなどして、学校図書館を広く利用してもらい、それと同時に、利用者にアンケートをとるなど、小まめにニーズを吸い上げれば、校内の職員も学校図書館の必要性や利用の仕方についての理解が深まるだろう。
最後に、司書教諭の職務は民主主義教育の根幹に関わるものであることを自覚し、自らの置かれた環境に甘えることなく、日々の仕事に着実に取り組む熱血教師的な姿勢もまた、司書教諭に求められる重要な能力である。
学校図書館における情報サービス
学校図書館のサービスは、大きく直接サービスと間接サービスに分けられる。
前者は、児童生徒や教職員にメディアや情報などを直接提供したり援助したりする諸活動のことである。
後者は、直接サービスに必要なメディアや情報を収集・整理したり、館内の環境を整備したりする諸活動のことである。
児童生徒への直接サービスには以下のものが挙げられる。
①メディア提供サービス
学校図書館が所蔵している各種のメディアを児童生徒に提供する諸活動のこと。
閲覧、貸し出し、予約・リクエストの受付などがある。
ちなみに閲覧とは、学校図書館における最も基本的な行動で、学校図書館内で読み物を読んだり、視聴覚メディアを視聴したり、インターネット接続端末を利用したりと、所蔵メディアを学校図書館内で利用すること全般を意味している。
②情報提供サービス
児童生徒が求める情報にたどりつけるように司書教諭や学校司書が援助する諸活動のことで、レファレンスサービス、レフェラルサービス、読書相談などがある。
レファレンスサービスとは、メディアの探し方がわからない、あるテーマについてどんな文献があるのか知りたいなどの情報ニーズをもつ児童生徒からのさまざまな質問や相談に対して、司書教諭や学校司書が学校図書館内の各種メディアや情報源を利用、参照して、具体的に求められた情報が記載されている箇所を提示しながら、解決できるように援助していく活動のことである。
レフェラルサービスとは、学校図書館だけでは解決が難しい質問や相談に対して、その分野の専門家や専門機関に照会して情報を入手して、あるいは専門家や専門機関を児童生徒に直接紹介して、解決できるように援助していく活動のことである。一般にレファレンスサービスの延長として行われる。
読書相談とは、児童生徒からの読書に関する質問や相談に応じるサービスのことであり、主には、読み物の選択、探索、入手の援助が中心となる。レファレンスサービスに含める考え方もある。
③図書館利用促進サービス
児童生徒に学校図書館をもっと利用してもらうように働きかける諸活動のことであり、集会(読書会、読み聞かせ会など)、行事(読書週間、読書感想文コンクールなど)、広報(図書館だより、校内放送など)、指導(利用指導、読書指導など)などがある。これらが年間を通して計画的に行われることが望ましい。
④特別な支援が必要な児童生徒に対するサービス
上述したサービスを、特別な支援が必要とする児童生徒にも等しく提供するため、独自のメディアや独自のサービスを別途用意すること。
点字図書館と連携したり、ボランティアを組織したり、館内のバリアフリー化を促進するなど。
次に、教職員へのサービスには以下のものがある。
①教育活動、授業展開に必要な資料・情報の収集と提供
授業の準備や授業展開に必要となる資料や情報を収集・提供し、教師を援助すること。
学校図書館資料の充実はもちろん、校内で分散している資料や教材の管理・把握や、優れた授業実践の記録や教材を保存し、積極的に周知、提供していくことも大切である。
また、同一地域にある他の学校図書館や公共図書館との連携や、学習支援センターの設置、さらに、教師と資料、さらには児童生徒と資料を結びつけるために、授業計画に関するアドバイスや、ティーム・ティーチングへの協力も重要な活動である。
②生活指導に必要な資料・情報の収集と提供
児童生徒の生活実態、生活の背景にあるコミュニティを理解するために役立つ資料を収集、教師に提供する。
具体的には、今日の教育問題や社会問題、地域に関する資料や情報など。
③進路指導に必要な資料・情報の収集と提供
進学・就職などに役立つ資料を収集し、提供する。
具体的には、進学先の学校の案内やシラバス、就職に関しては地域の企業、学校の特色に即した企業の要覧、説明会の資料など。
④教師の研究活動に必要な資料・情報の収集と提供
授業の教材研究や、教師個人の専門分野を伸ばすための調査や研究に必要な資料や情報を収集し、提供する。必要に応じて、大学など高等教育機関から資料を入手することもある。
⑤学校経営に必要な資料・情報の収集と提供
校務分掌や教育課程の編成、研修、教育行政などに関する資料や情報を収集し、提供する。
サービスの実施には、司書教諭だけではなく、他の教員、校長や教頭、学校事務職員と密接な連携を図る必要がある。
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