面白さの犠牲にされる真実

 今日は久々に夏目房之介さんの『マンガ学への挑戦』の引用から、漫画で書かれている情報はどれだけ正確かを論じてみます。

 夏目さん曰く、かつて「読み捨ての娯楽だったマンガ、あるいは子供だましにすぎない漫画という文脈から、この国の社会生活に根差し、抜き難い影響を人の人生にも文化にも与えるメディアとして一定の認知をされるようになった(『マンガ学への挑戦』30ページ)」ということで、確かにマンガ大好き男K氏などをみていると、ある種の人生哲学のようなものを“本気で”漫画から学んでいて「そこまで漫画って人に影響を与えるんかい」と思う事があります。
 でも漫画の送り手は、全てじゃないだろうけど、まずは「読者を楽しませたい」という思いを優先して仕事をしているわけで、それ以外は言葉悪いですけど「けっこう適当」だと思うんですよ。
 特に少年漫画なんて「いかにハッタリをかますか」なんで、書いてある内容をそのまま鵜呑みにしないで、純粋に娯楽として楽しんでほしいな、と思うわけです。

 そもそも人生哲学ってマンガだけじゃなく、それこそ哲学書で学べるわけでもなく(あれも私が思うに知的娯楽にすぎません)、自身の経験から得るものが大きいし、そういう経験をして形成される想いと照らし合わせた上で、漫画で描かれるキャラクターの哲学や信念に「共感」すればいいんじゃないかと思うわけです。
 K氏はこの前「マンガには本当にいろいろ教えられるわ~」とか言ってたけど、私が見た限りK氏はフィクションの娯楽よりずっと尊い経験を現実に積み重ねていて、そこから学んだ教訓がマンガにそっくり描いてあって「共感」しているんじゃないかな?と。それは嬉しいですからね。「うん。俺もそう思う」と。
 だから漫画を人生の教科書に、まあ、してもいいけど、大体作り話だから、あまり実生活では役に立たないよって感じです。

 マンガにしろ、他のどんな本でも言えることですけど、やはりメディアリテラシーって結構大切で、特に漫画や映画などの娯楽作品は、観客を楽しませるために、事実を犠牲にして面白さを取ることが往々にしてあるので、真に受けない方がいいと思います。
 マンガで出てくる「もっともらしいウンチク」もやはり、もっとも“らしい”のであって、正確であるとは限らない。そもそも漫画(『ゴーマニズム宣言』等を除く)には情報源のソース、「参考文献欄」が存在しないんです!これは前から不思議だったけど、まあ眉つばってことです。
 私だって、漫画を面白くするために(私は事実をあくまでふまえた上での)めちゃくちゃなウソを描きます。例えば『古代生物オパ』でオパは史上最弱最低の生物というキャラ設定ですが、実際のオパビニアはアノマロカリスと分類上近縁な由緒正しきハンターですからね(体長8センチだけど…)。
 逆にK氏だって、すごい幕末に詳しいから、私が三谷幸喜さんのドラマ『竜馬におまかせ!』を観て「竜馬と近藤勇とかって仲良し?」って聞いたら「田代、おそらく彼らは思想も違うし面識もないと思うぞ」と史実の情報を教えてくれました。
 リチャード・ドーキンスによれば「恐竜と人類は共存していた」と考える人は、情けないことに先進国イギリスで多く、その原因がテレビアニメ『フリント・ストーン』だというから、フィクションが人に与える影響は本当に大きいと思います(ちなみにこの問題をもっとも正確に答えられた人の割合が多い国はスウェーデンで、87%の人が間違っていると回答)。

 結論:漫画に描いてある情報を本気にしない方がいい。それを本気にするくらいなら、まだ学校の教科書を本気にした方がいい。
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