「ふたたびイヌについて」について

 『進化の存在証明』第3章は「家畜や植物の交雑等の人為淘汰と自然淘汰なんてほとんど差がないよ。むしろ人為淘汰で十数世代交雑を重ねれば、イヌにしろバラにしろ形質が大きく変わっちゃうのだから、何千万年も時間がかかる生物史の進化があれ位(魚が陸に上がったり、恐竜が鳥になったり)変わっても全然不思議じゃないよ」というのが主な主張。
 この主張をしたいがために、今回もドーキンスは様々な生物の相互作用の例を挙げて親切丁寧に解り易く説明していきます。
 この人、文章痛快なのに、変なとこ丁寧で、進化論を信じない人を尽くバカにする割に、そう言う人が何とか納得できるように、その目線まで話を解り易く持ってってあげているのが、なんかいうか「結局いい人」っぽくていいです。ポストモダン思想家や浅田彰さんにこの姿勢はない。

 今回例として挙げられるのが、花を育種したのは人間だけじゃなくて、虫もそうで、昆虫は人類が誕生するずっと前から、花の生殖(もしくは虫においては空腹を満たす栄養源の確保)という大義名分の下、花を育種し続け、いい香りや、美しい色を花に与えたと言う話。
 もし虫の好むにおいと、人間がいいにおいと思う香りが異なっていたら、そりゃひどい話になってただろうな、という突っ込みは爆笑。花によっては腐肉食性の昆虫をおびき寄せるために、腐った肉のようなにおいを出すものもあるらしいですからね。
 虫と花の共存関係は、どう考えても進化が事実としてあった証拠の一つと言えます。

 ドーキンスの例でもっともパンチがあったのは、ダーウィンやウォレスも言及したマダガスカル産のランで、この花は蜜腺がとても長く、とても長い口吻(ようはベロ)を持つガがいなければ、こんな形にはならない。そして現に長い口吻のガは存在し(このガが見つかる前から、そう言うガがいなければ、このランの形は意味がないとダーウィンらは予言)、このランの蜜を独占。口長のガは、蜜腺の長いランへの適応から、結果的に同族のランに花粉を届けることになり、ウィンウィンの関係(どっちもハッピー)になっているとのこと。
 これは生物間の相互作用の好例ですよね。他にも小魚とチョウチンアンコウ、美しすぎて、むしろ敵にも目立つオスのクジャクと地味なメスのクジャクなど、ベタで分かりやすい例を丁寧に解説。

 私も一応中学の頃に進化論の解説本や、高校の頃に『種の起源』は読んだことあるので、ランの話は知っていましたが、唯一知らなかった話が「イヌの家畜化」について(『進化の存在証明』「第3章 大進化に至る歓楽の道」「ふたたびイヌについて」136~144ページ)で、この話は「へ~」って感じで感動しました。
 ドーキンスが言うに、イヌと言うのは野生のオオカミを人間が無理やり「イヌ化」させたのではなく、オオカミの一部が自ら人間社会に適応し「自己家畜化(こんな言葉初めて聞きました!)」したというのです!
 詳しく言うと、一部のオオカミが人間の集落で出る「ゴミ」に狙いをつけて腐肉食動物(スカベンジャー)化し、オオカミから現在のディンゴのような野犬になり、その野犬を人間が飼いならして、今日のイヌがあると言うのです。
 ここで起きた変化が「逃走距離の長さ(ゴミあさり中にどれくらいの距離まで人が近づいたら逃げるか)」で、これは簡単に言えば、オオカミだってゴミをあさるかもしれないけど、ヒト慣れしていないオオカミは、ちょっとでも人が近づいたら逃げてしまうのでゴミあさりには野犬ほど向かない。
 それに対し野犬はゴミあさりに特化しているいわばプロなので、ギリギリまでゴミをあされるような、人の接近距離を試行錯誤によって獲得している。これがイヌが人の相棒になる第一ステップだったのではないか?というわけです。この話は初耳で面白かったです。

 第3章の結論は「生物の形質の変化(進化)は人の手がなくとも十分起きる」ということでしょう。

 そして第4章は、地質年代測定方法について。そう、この前ブログで同じような記事を書いちゃって「あちゃ~」って感じです。ドーキンスの説明の方が親切丁寧で分かりやすいですね。なんせ原子の構造の説明からしてくれるんだから。
 でも「火成岩に比べて化石を含む堆積岩は時代を計る時計としてはクソである」とか書いちゃうところがさすがドーキンス。クソって書くか普通w。
 でも『生命40億年全史』の三葉虫オタク、フォーティ氏よりも、ドーキンスの方が知識の守備範囲は広くて正確ですね。特に恐竜と鳥、その他爬虫類についての考察は、マニアも納得の出来。確かに「爬虫類」という分類単位はもはや形骸化してますよね。
 フォーティ氏は恐竜のページの記述若干誤ってましたから。まあ専門外だからいいけど…
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