『進化の存在証明』第10章はかなり長い章でした。「類縁の系統樹」という章だったのですが、「生物間の類似性」をテーマに、前半は形態、後半は遺伝子を扱っていたので、他の章に比べてちょっとまとまりが悪かったかな?速読できる人はそうでもないかもしれませんが・・・
だからこの章は二つに分けても良かった気もします。
この章で面白かったのが「分子的な比較」という項で、遺伝子レベルで二つの生物がどれだけ近いか遠いかを調べる方法がいくつか挙げられていたのですが、この本は基本的に生物学に疎い人でも読めるように書かれているので、遺伝子のメカニズムについての煩わしい説明を抜きにして、遺伝子の構造を知らない人にもイメージが湧きやすい例え(アナロジー)を用いていました。
しかしアナロジーの多用は、大まかなイメージをつかむのにはいいですが、誤解を生じさせる可能性も多々あるので、ここはもう遺伝子の構造をしっかり理解させてから、説明した方が逆に上手く伝えられたんじゃないかな?と思います。
私の個人的な感想では、そのアナロジーが遺伝子のどの部分を例えているかが、「逆に」ちょっとわかりづらかったです(ゲノム?染色体?ヌクレオチド?塩基?)。
ここはマイクル・クライトンの『NEXT』に出てくる弁護士のセリフを引用したいと思います。
「判事閣下、あらゆるアナロジーは不正確なものです。」
とにかくこの項で挙げられた生物の比較の方法を少しだけ紹介したいと思います。
まず解りやすいのは、二つの生物の全部の遺伝子の順序(ゲノム)を調べて、比較する方法。
現在はヒトゲノム計画どころかチンパンジーゲノム計画も完了したらしく、それによりヒトとチンパンジーの遺伝子は98%一緒であることが解ったとか言っていますが、私も疑問だったのはこの「98%」という数字は何を表しているのか?ということです。
この回答をしっかりドーキンスが断言してくれたのは嬉しかったです。「98%同じ遺伝子とは、染色体数でも“全遺伝子の数”でもなく(ここはややこしい!DNA=遺伝子と単純化して考えちゃうとここはよく分からないんですよね)、DNAの塩基数」なのです。
※「塩基」というのはDNAの暗号を構成する四種類の文字のことです。ヒトの場合はこの塩基が合計30億文字並んでいますが、これを一冊の本にまとめるのはしんどいので、23冊に分けて、そのそれぞれに同じ内容の本がもう一冊ある合計46冊セットとして構成されています。この46冊セット一つ分を「ゲノム」といいます。
そしてアミノ酸の合成に関わるいわゆる「遺伝子」というのは、本で例えるならば「章」で(ちょっと不正確なアナロジーだけど)、それはゲノムという(合計46冊の)本のたった一割のページを占めているに過ぎず、しかもその「遺伝子」という章の9割は、使用時にはRNAという物質によって「ディレクターズカット」されてしまいます。
で、とにかくその文字がヒトとチンパンジーでは98%同じだと言う事ですが、一文字目から順にヒトとチンパンジーの塩基を調べるとすると、ドーキンスの言うとおり、問題なってくるのは文字の食い違い(455文字目は人だとAで、チンパンジーではCだ。とか)ではなく、一文字分の脱字でもそれ以降の文字列が一文字分前にずれ込み、不一致な文字数が一気に増えてしまうことです。
よって一文字分の脱字があった文字列に、その後余計な一文字が入るか、もう片方の文字列にも一文字の脱字が入らない限り、一致のパーセンテージの大暴落は免れません。
しかしこの問題は、そもそもヒトとチンパンジーのゲノムを比べる際に、一文字目から順番に文字を調べていく方法を使っていないので起こり得ないみたいです。
確かにヒトとチンパンジーって、塩基対の数も異なるだろうし、この方法が合理的じゃないことは考えてみればわかるのか。
で、代わりにどんなことをしているのかというと、その一つには「DNAを構成する一対の鎖のほどけやすさ」を調べる方法があるといいます。
※DNAというのはジッパーやズボンのチャックのように、二つのレーン(=DNA鎖)で構成されていて、互いのレーンはくっついたり、離れたりできる二重構造となっています。
で、このくっ付いたチャックが螺旋階段のようにねじれているのでDNAは「二重螺旋構造」と言われます。
これは(例えばヒトのDNA鎖とヒトのDNA鎖の結合のような)一致したDNAの鎖のペアでは85℃でほどけるのに対し、異なる動物のDNA鎖同士のペアでは結合度が弱く、85℃よりも低い温度で外れてしまいます。
そしてここからが面白いのですが、なんとドーキンス曰く、DNAの文字の一致が全体の1%低下するごとに、結合がほどける温度は1℃低下するのにほぼ匹敵すると言うのです。まじかよ。
この方法を「DNAハイブリダイゼーション」と言うようです。ハイブリッドは交雑という意味なので解りやすい上手い名前ですね。
DNAハイブリダイゼーションの利点は、調べたい動物のゲノムを解読しなくともDNA鎖をハイブリッドさせるだけで、二つの動物の類縁性が調べられる点ですね。
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