『進化の存在証明』第12章は進化の軍拡競争。ぜひ“環境教”信者の人に読んでもらいたい内容でした。
彼らは「人間は弱肉強食の自然界から離れ、それを支配するに到った“狂った動物”であり、自然界が調和と節度を守ったエネルギー循環(食物連鎖)をするのに対し、人間は度を超えた破壊活動をする」という言い回しが好きな場合が多いですが、この人間は「狂った動物」と言う浅田彰は大間違いで、人間のやってる環境破壊も、植物の遷移も、チーターとガゼルの追いかけっこも、節度なんて守っていません。
ではなぜ自然界は人間の活動に比べて節度を守っているなんて勘違いをしてしまうのか?それは自然界(サバンナ)には自然淘汰が働くからです。そしてそれは人間の環境破壊にもしっかり働いてくれています。人間は自然界から離れた神ではなく、思いっきり自然界の強大な法則に支配されている、ただの脊椎動物の一種にすぎないのです。もう幻想は捨てましょう。
とにかくサバンナでは脚を早くしすぎたチーターは怪我のリスクが大きくなるので、脚を早くする進化の方向に、「獲物(ガゼル)との相対的な上限」が存在するのです。いくら足が速くても怪我しやすかったら、それはそれで狩りに支障をきたしますから(実際、現在のチーターはあれが最善な速さの限界の形のようです。例えばライオンなどに獲物を横取りされてもチーターはあっさり諦めます。喧嘩で商売道具の足を怪我するくらいなら、新しい獲物をつかまえた方がいいのです)。
結局はトレードオフの原理が働いているだけで、チーター自身も、「あまり獲物をとり過ぎると自然界の調和を崩してしまうから狩猟規制しよう・・・」なんて考えちゃいないのです。
事実アフリカゾウなどは歩きながら植物をバカスカ食べちゃうので、森林に与える影響は度を越しています。よって(レッドデータ―アニマルなのに)間引きされたりするのです。
この章で面白かったのはふたつ。ひとつは植物の遷移を競馬の観客に例えるところで、もうひとつは人間の行いを決定する脳内にも軍拡競争があるというところです。
特に競馬の観客の例えは秀逸。「みんな仲良く座ってレースを見ましょう」というルールがあっても、ある時座高の高い人の後ろの席に座っちゃった背の低い人が「よく見えない」と、ちょっと立ち上がった瞬間、その後ろの人も立ち上がり、その後ろも・・・というように、ルールは連鎖反応的に崩壊してしまい、それはより多くの日光を葉に当てたいと目論む森の木々にしても同じことだと言うのです(この例え、量子力学の「CP対称性の破れ」にも使えそうでグッドです。一つの量子の振る舞いが全体の量子の振る舞いの“方向性”を決めてしまうんですよね)。
植物の遷移(森の出来るプロセス)で面白いのは、最終的に日の当たらない苦境に適応した陰樹が森を制する(かどうかは分からんが、クライマックスでは優勢になる)という点ですよね。
生態系には確かに妥協点はありますが、それは生存競争に譲り合いのルールがあるわけではなく、己の利益追求に必死で利己的な生物が最終的に、自然界の裁き(自然淘汰)を受けた結果、存在するように見えるだけなのです。
つまり痛い目に会わなきゃ懲りないのが生物(だから痛みがあるとかこの章でも書いてあったな)で、その点人類は今のところ割合うまくやっていると思います。人類の環境破壊によって世界の人口が半分くらいになったら、懲りると思いますけど・・・
でも環境破壊って人類に始まったことじゃないのは知っておくべきでしょう。大気の組成を変更してしまったシアノバクテリアといい、ダムを作って川のルートを変えてしまうビ-バーといい、地面を穴だらけにするプレーリードッグといい、生物は己の都合のいいように環境を変えていくのです。
そして環境を変えるのが難しそうなら、陸に上がった生物が体内に“海”を持ち運んだように、自分の体を環境に合わせて変えてしまうのです。
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