『青春アタック』脚本⑤一騎当千

体育館裏
病田「やめた方がいいです・・・」
海野「大丈夫、先生にブルマーは冗談ですよ・・・」
病田「ちが・・・本気であの大会で優勝する気ですか・・・?」
海野「ま・・・まあ、出るからにはそこを目標にしたいですけど・・・」
病田「・・・正直、あの子たちで全国制覇できる見込みってあるんですか??」
海野「今の段階では・・・ないですけど・・・」
病田「大会なんか出ずに・・・みんなで楽しくバレーをしているだけじゃだめなの・・・?
確かに美帆子ちゃんの技術はプロ並みだし・・・優しくて指導が上手だから・・・
無名の織戸高校でも全国に通用するチームにしてしまった・・・
その結果・・・」
海野「学校側や保護者も介入してきて、練習が厳しくなり、バレーを楽しむ感じではなくなりました・・・
でも・・・勝つことと楽しむことは両立できるはずです・・・」
チラシを眺める病田「・・・いつから学校の部活動はお金のためにやるようになっちゃったんだろう・・・」
海野「その件ですけど・・・もし優勝したら、賞金は学校と花原さんの借金に充ててください。私は高校最後の年にバレーができただけで十分です。これで、心置きなくピーナツ農園に就職できる・・・」
病田「美帆子ちゃん・・・」
海野「でも・・・私はまだ高校生です・・・誰もが一生で一度しかなれない・・・高校生なんだ・・・」
病田「わかりました・・・でも、くれぐれも無理はしないでね・・・
学校の借金のことなんか考えなくていいから・・・」
体育館の中に目をやる海野「大丈夫です・・・あのメンバーは全員修羅場をくぐった経験があります。
花原さんはマッドサイエンティストで逮捕歴があるし、乙奈さんは元アイドルで芸能界の闇を知っている・・・ブーちゃんは厳しい料理人の修業を積んでいるし・・・なにより生原さんは・・・
文字通りの雑草魂・・・
この平成の日本で社会的な支援を一切受けずにたった一人で生き延びてきた・・・
彼女たちは・・・きっとどんな女子高生よりもタフですよ。」
体育館の中からスパイクの轟音が轟く。
花原「よけんな山村!」
病田に海野が微笑む「ね。」

体育館に戻っていく海野を見送る病田
「高校生には一生で一度しかなれない・・・か・・・」



夜。
海野「今日の練習はこれくらいにしよう!みんなお疲れ様!」
コートに倒れている5人。
海野「・・・最初にしてはハードにやっちゃったかな・・・」
花原「・・・マッスル、よく耐えたわね・・・」
山村「痛みとは生きている証拠よ・・・」

帰り道
海野「今日はよく休んでね!」
一同「ばいばーい」
生原「いや~おもしろかったね~」
花原「あんなに体を動かしたの生まれて初めてよ・・・」
乙奈「わたくしもずいぶん久しぶりですわ」
山村「生原さん、6人目のメンバーはどうするんだ?」
花原「なんとかしなさいよーこんだけ練習してても出れないんだから」
生原「う~ん・・・あ!そうだ!!」
花原「なんか思いついたの?」
生原「青春アタックが始まっちゃう!!」
山村「なんと!!学友の諸君さらば!!」
ジェットのように帰宅する山村。
生原「電気屋行かなきゃ!花原さん早く!」
花原「・・・・・・」
乙奈「わたくしたちは、道がこちらですので、ごゆっくり~」

電気屋の前
「閉店しました」の張り紙がシャッターについている。
生原「・・・!!」
花原「あら・・・残念だったわね・・・」
号泣する生原「う・・・うわああああああああああ!!!!!」
花原「そ・・・そんな嗚咽するようなことか!?」
ゲロをする生原「おろおろおろ・・・」
花原「きたねえ・・・!」



ボロアパートの裸電球を付ける花原。
狭い部屋は試験管と借金の督促状と刺激臭で溢れている。
ダイヤル式のテレビをつけてやる花原「あ・・・あれ・・・?」
テレビを蹴飛ばす。
「ほら・・・写った・・・」
『青春アタック』のOPが始まる。
生原「放送に間に合った~!」
花原「これか・・・下手くそな絵のアニメだなあ・・・」
真剣な生原「静かにして!」
花原「失礼・・・」
ブラウン管の中では、しろったま子たちが木材を担いで特訓をしている。
生原「あれ、明日やろうよ」
花原「あれが仮にスギ材でも1本あたり約750kgよ・・・
あれを3本も持ち上げるなら、種目をウエイトリフティングに変更したほうがいいわ・・・メダルが取れるから。」
生原「花原さんって物知り~!」
花原「ありがと・・・」
生原「今週も面白かった~!花原さんちはテレビがあって羨ましいな~」
花原「こんな借金まみれの生活のどこが羨ましいのよ・・・」
生原「でも家にカラーテレビがあるよ?」
微笑む花原「あんたは幸せもんね・・・」
生原「私の家は主にダンボールで出来ているからクオリティの面でちょっと・・・」
昔の花原の写真を見つけるちおり。母親と写っている。
生原「これ花原さん?」
花原「あ・・・」
生原「うわーかわいー!」
花原「・・・これでも昔はフランス人形みたいで可愛いって言われたのよ・・・」
生原「こんな小さなお子さんいたんだね!」
花原「・・・おい、そっちは私の母さんだ・・・」
生原「花原さんに似て美人だね!お母さんはおしごと・・・?」
花原「・・・まあ、そんなところ・・・」
生原「なんの仕事してるの?」
花原「・・・借金を何とかするって言ってベーリング海に行ってから何年も戻ってこない・・・
きっと海に落ちて死んだのよ・・・
見ず知らずの人の借金の連帯保証人になんかなって・・・本当にバカみたい・・・」
生原「優しい人だね!」
涙目になる花原「・・・うん・・・優しいの・・・」
生原「きっと帰ってくるよ!たくさんカニを持ってきて。」



夜の公園
生原「じゃあちおり帰るね!今夜はおじゃましました。」
花原「本当にダンボールの家に帰るの?」
生原「割とあったかいよ!」
花原「ちょっと見に行ってもいい・・・?
建築学の素養がある私がもっと快適で安全な家を作ってあげるよ・・・」
生原「本当に!?うれし~」
アパートから支柱とモルタルを持ってくる花原「・・・で、あんたの家はどこにあるの・・・?」
指を指す生原「あっちだよ!」
指を指す方角が明るい。
花原「・・・なんか燃えてない・・・?」



ちおりの家が燃えている。
かけよる生原「ちょうろう!」
ホームレスの長老「おじょう、逃げるんじゃ・・・!ホームレス狩りじゃ・・・!」
凶暴なビジネスマン「ひゃっはー!会社をリストラされて家族も財産も何もかも失ったぜ~!
もう何も怖くねえ!野郎ども、金目のもの以外は全て燃やせ~!汚物は消毒じゃー!」
火炎瓶を投げつけるサラリーマンやリクルートスーツの就活生たち。
「わははは燃えろ燃えろ!就職先がどこにもねえ、この絶望感をくらえ!」
花原「・・・年の瀬になると毎年湧いて出てくるバブル崩壊の犠牲者だわ・・・
警察と消防に連絡しないと・・・!」
燃える家に入ろうとする生原「海野さんからもらった私の宝物が・・・!」
生原を慌ててとめる花原「何考えてるのよ!焼け死ぬわよ!」
泣き叫ぶ生原「うわあああああん!私のバレーボールが~!!」
花原「そんなもん諦めなさい・・・!」
生原「おろおろおろ・・・!」
花原「吐くんじゃない!!ええい、わかった・・・!」
自分が着ているダッフルコートにモルタルを塗ったくる花原
「バレーボールね?」
そのまま燃える生原の家に突っ込んでいく。
生原「花原さん・・・!!」
炎の中に消える花原
生原「花原さ~ん!」
生原に気付くサラリーマン「なんだ、この汚ねえガキは?」
就活生「小学生のくせにセーラー服なんか着てやがる」
サラリーマン「待て、高校の制服は高値で売れるぞ!身ぐるみをはげ!」
ホームレス狩りに取り押さえられる生原「にゃ~セーラー服を脱がさないで~」

その時、炎の中から勢いよくバレーボールのスパイクが飛んできて、ホームレス狩りの頭部にぶち当たる。
眼鏡が割れて倒れるリストラサラリーマン。
ホームレス狩り「業務課長・・・!」
振り返ると、炎の中からボロボロの花原が立っている。
花原「・・・わ・・・私の友だちに何をするんだ!!!」
生原「花原さん助けて・・・!」
「思い上がるな・・・希望がなくて苦しいのはお前らだけじゃないんだ~!!」
そう叫ぶと、火の粉をまき散らしながら突っ込んでくる花原。
逃げていくホームレス狩り「業務課長がやられた・・・!撤退だ・・・!」
花原の真っ黒になったコートを脱がせてやる生原「花原さん・・・!」
バレーボールを拾う花原「ほら・・・あなたの宝物・・・」
涙を流す生原「花原さん・・・大好き・・・」
力なく倒れる花原「セメントは燃えにくいだけで・・・燃える・・・」



中学生時代の記憶
母親と一緒に中学校から帰る花原
母親「わかってるわ・・・めぐなちゃんからじゃないんでしょ・・・?」
花原「あいつら・・・母さんを馬鹿にしたの・・・国会議員の愛人だって・・・」
微笑む母親「・・・もしそうだったら、もう少しいい暮らしをしてる・・・」
手をつなぐ2人。
花原「・・・ねえ母さん・・・」
母親「なあに?」
花原「わたし・・・学校で友達ができたよ・・・」



花原「・・・はっ・・・!」
意識が戻る。あたりを見渡すと、保健室であることに気付く。
花原「保健室・・・?」
視線を下にやると、ベットにちおりが寄りかかって眠っている。
保健室の先生「一晩中あなたを心配してたわよん・・・いい友達がいたのね・・・
というか、あなたって友達がいたのね。」
花原「さくら先生・・・」
さくら先生は、ショートカットのボーイッシュな女性で白衣をだらしなく着ている。
さくら「まったく科学に強いわりに無茶したわね・・・
Ⅱ度の熱傷で感染症が怖かったけど・・・
科学研究部の冷蔵庫に飛び切りよく効く局所抗菌薬があってさ・・・
そのおかげで、やけど痕は残らないと思うよ。」
オーラルクリーナーのアンプルを取り出すさくら。
さくら「これを作ったやつに感謝ね。」
花原「・・・わたしだ。」
煙草に火をつけるさくら「どこで何の発明が役に立つかなんてわからないわね・・・
私は授業を持たないから偉そうなこと言えないけどさ、もっと自分に自信持っていいんじゃない?」
ちおりに目をやる花原。
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