福岡伸一さんの生物学①

 だめだ、塾で生物を教えている以上、おかしいところはやっぱりおかしい。福岡伸一さんの本は娯楽としてはとても面白いですけど、この本をきっかけにしてぜひ高校の生物の教科書をもう一度読んで欲しい・・・
 
 たとえばマイクル・クライトンの『ジュラシックパーク』だって重箱の隅をつつくならば、バイオテクノロジーの説明は大雑把で、ちょこちょこ間違っています。
 当時は「ヒトゲノム計画」にみんなが湧いていた時代。タンパク質の代謝よりもDNAの自己複製が生物学でも脚光を浴びていた。90年代はクライトンの予言通りクローンが想像より早く成功したし、「セントラルドグマ」なんて言っていた。そんな時代にあの小説は合っていたんです。
 でもあれはフィクション。実際の研究をリサーチして着想は得ているものの、あくまでもフィクションとして発表されています。

 しかし福岡伸一さんは輝かしい経歴を持つプロの科学者です。そんな福岡先生が言うことを一般の人は間違っているとは絶対思いません。そんな私も一般人。
 だから福岡さんの間違いはプロの学者さんがちゃんと指摘しなければならない。これはプロの科学者の責任です。
 なぜならプロの学者さんが福岡さんの誤りを指摘しなければ、世間の人は「やっぱり正しいんだ」と思ってしまうからです。 
 本当はあまりにも初歩的な誤謬で相手にしていないだけでも・・・

 これは私の「主観」を言っているのでは決してありません!なんかゴーダイとかいう知識ひけらかしたい奴が、福岡さんの理屈の細かいところ突いているぞ、というのも違います。
 私は「今の科学では、地球は太陽の周りを公転していると言われているよね」と言っているのです。
 これに対し福岡さんは「しかしこれは考えようによっては太陽が地球の周りをまわっているとも言えるよね」と言っているのです。まあ確かに天動説にロマンを感じる人は信じてもいいんです。それに考えようによっては「太陽や星が地球中心に動いている」とも言えます。
 でも科学的にはやっぱり「今は地動説が正しいとされている」としか私には言えません。

 科学は間違いを重ねる学問。もしかしたら進化論も将来反証されるかもしれない。しかし今は少なくともそれを覆す証拠は出ていない。ならやっぱり、この理論は(今のところ)正しいと言わなければ・・・

 世の中様々な意見があっていい。これはもっともです。人には様々な価値観があります。しかし科学はそのような価値相対主義に果敢に立ち向かう学問だと思います。

 「どんな意見だって愉しきゃいいじゃん」

 このスタンスは結構ですが、科学の世界においては、真面目に研究をしている科学者の人に対してあまりに失礼だと思うのです。
 「科学の論文を学会発表前に事前検閲しろ」などとは言いません。しかし学会にかけて、あまりにもメチャクチャな学説はやっぱり淘汰されてしかるべきです。トンデモを含めて色々な意見を一度プールした上で、批判、検証作業を行なうことは学会の使命でしょう。あのダーウィンですら進化論発表当初はトンデモ学者扱いされましたから・・・

 かつて世間で騒がれた「飲尿健康法」「納豆ダイエット」・・・あれは結局非科学的だと言うことで淘汰されました。今あれをやっている人はほとんどいないのではないでしょうか?そしてあれを信じた大衆は怒りました。
 もちろんあんな説を科学的な研究結果に基づいた学説のように報じたメディアはいけません。しかしそれと同時に納豆ダイエットを自分で検証せず鵜呑みにした人にも責任はあるのです。
 
 というわけで福岡伸一さんの言っているところで、どう考えてもおかしいところだけ検証したいと思います。

 『生物と無生物のあいだ』は娯楽としては大変面白い本です。ただこの本は『ジュラシックパーク』とは違う。科学の本です。
 もし『生物と無生物のあいだ』を、本書の帯に書いてあるように「極上の科学ミステリー」というならば、『ジュラシックパーク』のように、あとがきに「この物語は純然たるフィクションだが、物語の着想は実際の研究に基づいている」と書くべきです。

 これを読んで興味を持った人はぜひ『種の起源』や『利己的な遺伝子』・・・それが難しいなら、佐倉統さんの『進化論の挑戦』を読んでみてください。
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