・・・さてそろそろ本題に入ります。福岡伸一先生は一体どこがまずいのでしょうか?
実は『生物と無生物のあいだ』はほとんど正しいことが書いてあります。だからこの本を全否定などはできません。
この本を読んで福岡先生に好感を持った方は安心してください。「福岡はトンデモだ!」という行き過ぎた批判をする人の攻撃性の方がトンデモないです。
つまり、こんな批判はいけません。
例「福岡先生の動的平衡は、さも新しい生物学の考えかのように論じているけど、これは高校生でも習うただの代謝じゃないか。」
福岡さんが言いたかったのは代謝のイメージが一般に考えられているよりも分子レベルで猛スピードで行われているということです。
だから所謂代謝のイメージを一新するために、あえて「動的平衡」と言う言葉を用いて、それに対する見方を変えたのです。これはとても意味のあることです。
ではどこがおかしいって言うんだ!ってなります。私がひっかかったのはこの本では二点だけ。
ひとつは「生物の定義は自己複製するものだと考えられているが、私はこれだけでは不十分であると思う」というところ。
「もし生命を「自己複製するもの」と定義するなら、ウィルスはまぎれもなく生命である。(略)しかしウィルス(略)には生命の律動はない。(『生物と無生物のあいだ』37ページ)」
「結論を端的にいえば、私はウィルスを生物と定義しない。つまり、生命とは自己複製するシステムである、との定義は不十分だと考えるのである。(同書38ページ)」
この様に述べた上で「生物とは動的平衡状態にあるものなのだ」と福岡先生は論を展開するのですが、そもそも生物の定義は「自己複製するもの」“だけ”とは現在定義されていません。
「一体何年前の生物学の話をこの方はしているんだ」って気がするのですが、少なくとも私が子どもの頃から生物の定義は「①生態膜で独立」「②代謝」「③自己複製」と決まっていました。
それをさも、今の生物学では「自己複製するもの」を生物と言うが・・・というのはちょっとフェアじゃない。「どの生物学者も自己複製にばっかりとらわれていて、動的平衡状態と言う発想に気付いてないんだよ」と言う風に読み取れてしまいます。・・・というかほとんどの読者はそう取ると思います。私もそう読み取ってしまいました。
これでは福岡さんが本書で取り上げた、自分が書いた本で自分ばかりかっこよく描いて残りの学者は馬鹿にしたワトソンと変わらないのではないか?
生物の定義は今ではちゃんと3つとされているんだから、自己複製にだけに固執する生物学者なんて今どきいないんじゃないかな。
※ちなみに生物の三定義については私は中学生の頃読んだ『ファーンズワース教授の講義ノート』で知りました。この本は破天荒な教授と学生の講義形式で書かれた本でなかなか面白かったです。
つまり福岡さんの文章は「他の学者は自己複製にしか目が行ってないけど、私は動的平衡(=代謝)こそ生物の真実だと思うよ」というように読み取れてしまうけど、自己複製も代謝も生物学者にとっては自明の理。「何を今更・・・」ってことなのです。
なのにそれを言わずに、生物の三定義を知らない一般の人に、「私が思うに・・・」と個人的な見解のように紹介してしまった。
これは・・・いいのかなあ・・・??
ここまでのまとめ:生物学者ならみんな知っている事はやっぱり「現在の生物学では、生物は自己複製し、代謝し動的平衡状態にあり、生体膜で外界と独立しているものであると定義されています」と書くべき。
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