福岡伸一さんの生物学④

 福岡先生最大の問題がダーウィニズムを批判し、創造説っぽいことを一般の人にほのめかしている点です。

 誤解して欲しくないのは私は福岡さんの人格を攻撃しているわけではないし、文章も上手い立派な学者さんだとは思います。会ったことはありませんが、おそらくいい人でしょう。
 ただ今やメディアの寵児である福岡先生が、生物学に疎い人に誤った知識を授けてしまうのは見過ごせません。
 例えいくら先生が「これは私の個人的な意見ですが・・・」と前置きしてダーウィンを批判しても、やっぱり福岡さんの生物学しか知らない人は、それを正しいと信じてしまうのです。
 「あの福岡先生が言うのならそうかもしれない!」

 こんな事は言いたくありませんが、もしかしたら福岡伸一先生は専門外の進化論を大雑把にしか理解していないのかもしれません。
 もしくはあえて講演のお客さんの知識に合わせて、進化には遺伝子の意思が働いていると説明しているのか・・・でも嘘言っちゃまずいですよ。ダーウィンのロットワイラ―、ドーキンスが絶対ぶちギレます。

 まずは福岡さんのダーウィン批判から。

しかし、ダーウィニズムには欠陥があります。例えば、眼のような非常に複合的な仕組みの進化は十分説明できないのです。眼の機能は、レンズや網膜、神経回路、脳の中に画像を処理する仕組みなど、多くのサブシステムが連携して成り立っています。ダーウィンやドーキンスは、それぞれのサブシステムは、何億年もの時間があればちょっとずつ変化を繰り返しながら改良され、複雑な仕組みを完成し得ると言いました。

ちょうど盲目の時計職人でも非常に長い時間があれば、ランダムに部品をいじっているうちに時計を完成させるチャンスがあるという意味で、「ブラインド・ウオッチメーカーのモデル」と言われています。「ああ、なるほど」と思うかもしれませんが、決してそうはならないのです。

サブシステムがちょっとずつ変化し、改良されて眼がつくられたといいますが、すべてのサブシステムが全部完成しないと、眼は“見る”ことはできません。眼が見えるまでの、その途中段階にあるサブシステムというのは機能を持たないわけです。

機能を持たない仕組みは自然淘汰の対象にはなり得ません。しかし、非常に複雑な仕組みが、サブシステムそれぞれの改良によって統合されていく。あたかも進化にある種の方向性があるように見える。これは一体何かということは、今のところダーウィニズムでは説明できていないのです。


 これは所謂、現在の生物があまりに高度で複雑な形態を持つことから、それが漸進的な変化では決してできないと断定する「竜巻に巻き上げられた資材が空中にで合体し、完成したボーイングのジェット機が地面にドスンと落ちてきた位不可能だよ」という話なのですが、プロの生物学者が言うようなことではないです。

 ちなみにここでいう「ブラインド・ウォッチメイカー(目が見えない時計職人)」はリチャード・ドーキンスの有名な著作です。福岡さんはリチャード・ドーキンスが性に合わないなのでしょう。何かドーキンスに意地悪でもされたのか、と邪推してしまいます・・・
 
 ここで福岡さんの言っている事は間違いだらけで指摘が大変。ちょっと辛抱してください。

>サブシステムがちょっとずつ変化し、改良されて眼がつくられたといいますが、すべてのサブシステムが全部完成しないと、眼は“見る”ことはできません。眼が見えるまでの、その途中段階にあるサブシステムというのは機能を持たないわけです。

 まずここです。福岡先生は生物の進化の歴史を知っててこう言っているのでしょうか?生物の歴史は38億年。その長い歴史の中では様々な目が作られました。
 福岡先生が取り上げているのは、おそらく現在の人間などが持つ高度な目でしょう。しかし生物の目とはそれだけではありません。
 もっとも原始的な目は「ただの穴」。そうピンホールカメラです。目にあたる場所に穴を開けるくらいなら何とかなりそうだと思いませんか?目の進化はそこから始まりました。

>非常に複雑な仕組みが、サブシステムそれぞれの改良によって統合されていく。あたかも進化にある種の方向性があるように見える。これは一体何かということは、今のところダーウィニズムでは説明できていないのです。

 目は確かに非常に複雑な仕組みです。しかし傍から見れば無駄のない高性能な器官に見えますが、高校の生物の教科書で目の断面図の絵があると思います。高校の頃この複雑な目の作りを暗記するのに辟易としませんでした?私はしました。
 なんでこんなめちゃくちゃになってるんだ・・・?と。実は高性能だとされるヒトの目の設計は無駄だらけで、脳が視覚像を頑張って処理しているのです。

 ドーキンスが『進化の存在証明』において指摘しているようにヒトの眼最大の失敗が、光を受容する色素細胞、視細胞、錐体細胞、かん体細胞などが「なぜか外向き」についているということ(教科書で確認してみてください。たまげます)。
 それはなぜか・・・最初の目はただの穴でそこから地道にランダムな改良を重ねたからです。進化の痕跡は発生で解ります。興味をもたれた方は、ぜひ目の発生を調べてみてください。眼は外胚葉由来・・・眼胞という部分がくぼんでできているのです。
 もし高度な目が一時に設計、完成されたなら、光受容体はちゃんと内向きになるはず。なんでこんなめちゃくちゃな設計になるのか?そしてなぜ高校生は苦しまなければならないのか??

 生物は無駄だらけ・・・それは分子生物学者の福岡先生が一番よく分かっているはず。なにしろDNAのほとんど大部分は無駄なコードなのですから。
 当時の分子生物学者が一番驚いたのがそこです。意外と遺伝子として働いているコードが少なかったのです。
 そしてその遺伝子にも「イントロン」と言うアミノ酸をコードしてない部分がありディレクターズカット(RNAスプライシング)されちゃいます。

 まとめ:ダーウィニズムに福岡先生が指摘するような欠陥はない。ダーウィニズムに基づいて作られた目に欠陥がある。
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