小惑星イトカワの砂はシュレーディンガーの猫

 地球から三億キロメートル離れた位置にある小惑星イトカワの砂を、日本の宇宙探査機「はやぶさ」が回収したとニュースでやってましたが、回収ケースの中身を開封するのに一週間。中に物質が入ってるかの確認は7月になるとか。
 やけにじらすなあ・・・って感じですけど、回収ケースを開けたとたん地球の物が混じってしまったら、それが宇宙からとってきたものなのかごっちゃになって分からなくなるから、JAXAはメチャクチャ慎重に作業をしているんでしょう。
 なにせ7年がかりのビッグプロジェクトが下手したらパーになるんで。

 こういうことってよくあって「化石から恐竜のDNA採集!」とかいって、研究員が昼に食べたツナサンドのマグロのDNAだったり、「隕石に有機物が付着!宇宙生物か!?」とかいって地球の有機物がついただけって話もあります。
 実際24日には微量の気体が回収ケースの中から確認されたそうですが、これがイトカワの砂が出したものか、ケースの隙間から入った地球の空気かは分からないそうです。

 つまりケースを開けた途端に中身の状態が少なからず変わってしまう。この話で思い出すのが量子力学のアポリア「シュレーディンガーの猫」。
 私はこの話とダブルスリット実験におけるボルンの確率解釈(ちなみにシュレーディンガーはこの現象を物質波で解釈しようとした)がどうしても納得できず、まただからこそ不思議で大好きなんですけど、つまり「量子力学の世界では量子の振る舞いは観測することによって確定する」ということです。

 シュレーディンガーの猫は、シュレーディンガーがつきつけたある種のいじわるな思考実験で、箱に生きた猫と、量子の振る舞い(ラジウムのアルファ崩壊をガイガーカウンターで検知)により毒ガスを50%の確率で発生させる装置を入れて、箱に蓋をして、一時間後に箱の中の猫が生きているか死んでいるかを蓋を開けて確認するという、ちょっと動物虐待的なお話なんですが(別に猫じゃなくてネズミでもいいんだけど)、この実験で面白いのは量子の振る舞いが観測行為によって確定するならば、観察者が箱を開けるまでは箱の中身は「確定しない」ということになり、猫は半分死んで半分生きている状態(=量子の重ね合わせ状態)になっちゃうじゃないか!?ということ。
 
 これは箱を開ける前は箱の中身が見えないから分からないだけ・・・という話ではないんです。「箱を開けなければ、箱の中身は決まっていない」というのが量子力学の一般的解釈らしく、シュレーディンガーの猫の答えは未だに出ていないそうです。

 これって科学の話にしてはかなり哲学的。だって箱の中身を誰も知らなきゃ、箱を開ける前と箱を開けた後が同じなんて誰も確認できませんからね。箱を開けることによって中身が変わることがないなんて誰が言えようか。いや言えまい(反語)。
 よく理科の実験で出てくる「温度計の話」もこれとちょっと近いのかも。つまりビーカーの中の水の温度を測るために温度計をビーカーに突っ込んだら、温度計の持っていた熱が多少水の温度を変えちゃうから、もともとの温度は厳密には測りようがない・・・

 実験は正確さ、精度が命。だからJAXAの人も頑張って「はやぶさ」の持ってきたシュレーディンガーの猫の箱を分析しているんでしょうけど、正確に調べようとすればするほど、微小なデータの誤差が気になってきてしまう。
 そして厳密なデータなんて絶対分からない。例えば鉛筆の長さを図る時、定規で測れば大体の長さは分かるかもしれないけど、顕微鏡で測ってみたら直線だと思っていた鉛筆の輪郭は、結構でこぼこしていて(理科で習う腸の表面積を広げるための「柔毛」をイメージすると解りやすいかも)、電子顕微鏡でその凸凹を正確にトレースしたら15センチだと思っていた鉛筆の長さが150メートルになっちゃうかもしれない。
 こんなことやってたらキリがないから「ええい面倒くせえから大体15センチってことにしとけ!」ってわけなんだけど、そうなると動的かつ複雑なシステムは初期値鋭敏性が働くから・・・もうどうにもならない!

 前にも記事で書いたけど、科学は「無知の知」から本質的な限界、「不可能の知」の時代に入ったのかもしれない。いくら科学でも絶対に解らないことがある。
 人類よ分を知れってことなんでしょうね。
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