キーストーン種について

 死なないことには人間は進化しない。

 これはビートたけしさんの名言ですが(『アウトレイジ』のインタビューより)、この破壊と創世(=再構築)を生態系で担っていると注目されているのが「キーストーン種」と言われるもの。
 キーストーンとは石材で出来たアーチを安定させるカギとなっている石の事で、これを抜いてしまうとアーチ全体が崩れてしまう。まあ家で言うなら大黒柱ってことです。
 そういう意味で「キーストーン種」とはとても解りやすい上手な言葉だと思う。つまりキーストーン種が減ったり絶滅したりすると、その生態系は大きな影響を受けて崩壊してしまう。

 例えばキーストーン種の話でとにかくよく出てくるのがラッコの話。漁師さんが魚をもっとたくさん取るために、高次消費者のラッコを駆除(魚食っちゃうから)すると、魚の数は増えるどころか減ってしまった・・・
 なんでだろう?と思ったら、ラッコが減ったことでラッコに食われていたウニの野郎が増殖し、そのウニがジャイアントケルプ(何百メートルにもなるおっきな海藻のこと)の森を喰い荒らし海の生態系を大きく変えてしまったのだという。

 ラッコの他にヒトデ、アフリカゾウ、ビーバーなどその生態系の安定に大きな影響を与えている動植物は多い。
 これらキーストーン種の特徴は個体数が少ないということ(この時点で人類はキーストーンじゃない?)。生態系に大きな影響を与える割に、その生態系の中ではマイノリティで優勢種じゃないんです。
 つまりキーストーン種は、その点でもまさに「キーストーン」で、キーストーンを排除してその生態系を壊すのは結構たやすい。数が少ないんだから。面白いのはなぜ生態系はこういう構造になっているのか?ということ。

 こういう種を保護することで生態系を守ろう!ということも言える。保全生態学はそういう運動をしているんでしょう。
 しかしキーストーン種は生態系を安定させる上で重要であるがゆえに、その生態系を同時に不安定にもしている。だって彼らが抜けたらその生態系は崩れちゃうから。

 つまり最初のたけしさんの話じゃないけど、生命にしろ生態系にしろ長期的に存続する為には自滅という選択肢も持っていなければならないということ。
 生命や生態系に完成形などないのはそのためで、だから生命には細胞の自滅アポトーシスもあるし、嫌だけどいつかは必ず来る個体の死(たけしさんいわくサウナから上がるようなものらしいがw)もある。

 生命存続のために“あえて”個体は死んでいるという話では、遺伝子的に寿命はプログラムされているという「寿命プログラム説」があります(もちろんエラーカタストロフィー説もあるけど)。寿命を決めている遺伝子をとったら線虫が二倍も長生きしたという研究は非常に興味深いです。人間にはそういうのないのかな?

 そしてそれは生態系においても同じ。長期的存続のために生態系は煮詰まった時に、一度全部ぶっ壊してやり直すというメカニズムがどうもあるらしい。壊さなきゃ新しく作れない。絶滅しなきゃ新しい進化はできない。その生態系破壊システムこそキーストーン種。

 ほとんどの種は他の種と少ししか相互作用をしていないが、その中にキーストーン種のような、たくさんの関わりを持っているカリスマのような種(ハブ)が少数存在している事を「スケールフリーネットワーク」と言います(もとはインターネット用語らしい)。
 んで数理的なシミュレーションによれば、キーストーン種はそのシステムの安定にかなり重要だから、ほとんど変化はしないようになっているけど、他の多数派(大して相互作用していない連中)はけっこう入れ替えが激しいといいます。
 これって木村資生さんが言っていた遺伝子の浮動(どうでもいい遺伝子はランダムでホイホイ変わっちゃうこと)と一緒なんだろうな。
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